かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ最終話
高天原東、ワイズの居城。客室の内の一室で剣王とワイズと冷林はサキの帰りを待っていた。
「輝照姫、解決したのかい?」
剣王が傷だらけで戻ってきたサキを何とも言えない顔で見ていた。
「……うん。まあ、解決はしたよ。」
「語括は捕まったし、お前の厄もなくなっているYO。成功だNE!」
ワイズは沈んでいる顔のサキにはおかまいなしに楽観的に笑っていた。
「じゃあ、とりあえずこの世界の歴史関係はそれがしが何とかしておくねぇ。冷林は時間関係をよろしく。」
剣王の言葉にとなりにいた冷林はコクンと頷いた。
「後は天津が竜宮のメンテナンスをすれば壊れてしまった部分はうまく元に戻せると思うYO。」
天津はすでに竜宮で整備の最中だった。故にこの場にはいない。
「しかし……語括神……マイ、お前、飛んだことをしてくれたもんだNA。」
ワイズはみー君の隣に座っているマイに近づき、持っていた軍配で殴り飛ばした。軍配は鉄でてきているのかとても固く、マイの額からは血が流れていた。
みー君は顔をしかめながら目をつぶっていた。冷林も剣王も特に何も言わず、マイを冷めた目で見つめていた。
ワイズはマイを軍配で叩き続ける。非情なまでにマイは殴られ顔は血にまみれ腫れていた。
「ちょっと……やめておくれ!何やってんだい!相手は女の子だよ!」
ワイズが何度目か、軍配を振り上げた時、サキがマイの前に入り込んできた。
「どけYO。今回こいつのせいでどれだけ世界が狂ったか……。高天原で裁く前に私個神としての仕置きをしないとすまないYO。」
「ワイズ、もうやめてあげておくれ。もう彼女は抵抗できないんだからさ。」
サキは必死になってワイズを止めた。
「ふっ……。太陽の姫はこんな私にまで情けをかけるのか……。本当にお優しい。」
血にまみれているマイは力なく笑っていた。
「なんであんた達も止めないんだい!」
サキはマイの笑みを無視し、みー君と剣王、冷林を睨みつける。
「ワイズが部下を折檻しているからだ。ワイズの部下である俺も口出しできない。」
みー君はマイを見て見ぬふりしていた。
「その通り。それがしの部下ではないから干渉できないねぇ。罪神はいつも悲惨なものさ。」
剣王は机の上に置いてあった緑茶に口をつけている。冷林は無反応だった。
「こんなのただの暴力じゃないかい!あたしはやだよ!」
「折檻は暴力のようなものだYO!……お前はこの神に何度殺されかけた?このままじゃおさまらないだろうがYO!」
サキの叫びにワイズが怒鳴り、再びマイを鉄の棒化している軍配で思い切り殴る。
マイがあまりの痛みに小さく呻いた。マイは血にまみれその場に倒れていた。客室の床はマイの血でだいぶん汚れている。
「確かにマイは許せないけど、あんたの行為も見過ごせない!」
サキが再び叫び、ワイズが何かを言おうとした刹那、ワイズの軍配をみー君が奪い取った。
「お前……。」
「ワイズ、もうやめときな。そろそろ俺も耐えられない。サキに免じてお前個神の折檻はそこまでにしておけ。」
みー君はワイズに一言そう言った。
「っち。」
ワイズはみー君から軍配を奪い取ると素直に引き下がった。
「天御柱が止めるなんてめずらしいねぇ……。そんなに太陽の姫がお気に入りなのか?」
剣王が揶揄するようにみー君に言葉をかけた。
「うるせぇよ。お前には関係ない。」
みー君は剣王に冷たく言い放った。
「つれないねぇ。……じゃあ、それがしは仕事をしないとならないんでお暇するよっと。輝照姫、あんたは立派に太陽神だ。もろもろの交渉の件については後日話そう。それがしと君の話はまだすんでいないからねぇ。まずはしっかり手当してもらうんだな。」
剣王は不敵に笑うときらびやかな装飾がされている客室から外へと消えて行った。冷林も何も言わずに去って行った。
「さて。私はこの女を裁く準備に入るYO。……輝照姫、鶴を呼んでおいた。安全に太陽へ帰れYO。怪我、早く手当してもうんだNA。」
ワイズはサキを心配そうに見上げると怪我をしているマイを乱暴に引っ張り客間から出て行った。
「後、忘れてたYO。天御柱、お前の罰はここまでにするYO。お前の神力の鎖、解除していいYO。どうやら腕の方の鎖が切れたみたいだがお前なら怪我の手当で済むはずだYO。傷を癒せ。」
「どうも。」
ワイズの声にみー君は軽く返事を返した。
マイはうつろな目でサキを一瞥したが特に何も言わずに消えて行った。
「さて、行こうかサキ。」
みー君が誰もいなくなった客室を見回しながらサキに声をかけた。
「みー君、さっきはありがとう。」
「……少しあれはワイズがやりすぎていた。……俺もそう思った。それだけだ。」
みー君はそっけなくつぶやくとサキを促し、客間を後にした。
「よよい!」
「またあんたかい。」
金閣寺を悪い意味で進化させたようなワイズの城を後にしたサキ達は目の前で頭を垂れている鶴を呆れた目で見ていた。
「太陽まで送るよい!」
「……また敵の術にハマるんじゃないよ!鶴……。」
サキはなんだか嫌な事を思い出した。
「あー、そういやあ、この展開、俺がお前とはじめて会った時の感じと似ているな。いやー、あんときはなかなか楽しかったぜ。もう一回、ライに襲われねぇかな。」
みー君の呑気な言葉にサキはため息をついた。
「もう勘弁しておくれ。」
みー君とサキは素早く駕籠に乗り込んだ。
「では行くよい!」
鶴は大きく羽をはばたかせると大空へ舞って行った。サキはしばらく流れる雲を眺めていたがふと、隣にいるみー君に顔を向けた。みー君はポケットゲーム機でなんかのゲームをやっている。
「ねぇ、みー君、あたし、みー君も全力で助けるよ。あんたは他神に助けられる神じゃないけどねぇ。」
「ああ?なんだよ。いきなり。俺の事を助けるとか。」
「厄神だって光ある道を歩かせてみせるよ。あたしは。」
「やめろよ……。お前とは属性が違うんだからな……。ま、でもその意気だぜ。サキ。」
サキはみー君をじっと見つめた。みー君はじっと見つめられて恥ずかしくなったのか顔を赤くする。
「な、なんだよ……気色悪いな。」
「みー君……なんか変わったんじゃないかい?」
「ん?そうか?……変わっていたならそれはお前のせいだ。厄神の俺がお前の力に負けちまったんだな。きっと。」
みー君はどこか清々しい顔で遠くを見つめていた。
「……そうかい。」
サキも流れる雲をそっと眺めた。
「あーっ。くそ、腕痛すぎてゲームできねぇ……。」
みー君は沈黙に耐えきれず声を上げた。
「みー君、あたしが無茶したからだ。ごめんね。太陽で手当てしようじゃないかい。」
「ばっ!触んな!まじでイテェんだよ!」
サキはみー君の腕を優しく撫でたがみー君は涙目で悶えていた。
……あたしにはまだやらなきゃなんない事がいっぱいあった。落ち込んでいてもしかたないんだ。
……人間に戻ったお母さんに会うのは怖いけど……一度会わないと前に進めない気がする……。
……ちゃんと自分がやるべきことを……あたしは確認しなければなんないんだ。
サキの瞳に再び力強い光が宿った。
しばらく時間が経った。サキは現世に降り立っていた。ビルが立ち並ぶ大都会だ。冬も終わり、公園の植木の桜が満開だった。花弁は儚く散っていく。
みー君の傷は腕だけだったがかなり重かった。自身の神力で傷をつけたようなものなのですぐには治らず、生身の人間のような完治の速度だった。だが今はもう何ともない。もちろん、サキの傷もきれいに治っている。
「……ここか。おい、サキ、本当にいくのか?」
桜を黙って見上げているサキにみー君は心配そうな顔で問いかけた。
「うん。ちゃんと確認しないとあたし、前に進めない気がする。まあ、お母さんからすれば知らない人が訪ねてきたって感じになっちゃうと思うけどねぇ。」
サキは苦笑しつつ二神に目を向けた。
「私も一緒にいこうか?」
みー君の隣にいたアヤも不安げな顔をサキに向けている。
「大丈夫だよ。ここまで来てくれてありがとう。できたらあたしをここで待っていてほしんだ。あんた達がいると心強いし。」
「サキ……。」
「頑張って来い!」
アヤが心配そうな顔をしている中、みー君が突然叫んだ。
「ふふっ……頑張るって何をだい?でも気持ちはわかったよ!ありがとう……みー君。」
「お……おう。」
サキは手を振るみー君とアヤに、そっと手を振りかえすと大学病院の前に立った。
……お母さん……。あたしはあんたを許せない。だけどあたしはあんたの娘だからどんなあんたでもあたしは救うよ。だから絶対にわかりあってみせる!面会拒絶されても行くからね。
サキは胸に言葉を秘めると悠然と歩き出した。
桜が舞い、サキの頬を優しい風が撫でる。高天原の権力者との付き合いはまだまだこれからだが、サキはなんだか少し強くなれたような気がした。
……これを分岐点にあたしはもっと強くなる。この結果がどうなってもあたしは後悔しない。
……悩んでもあたしには大好きな仲間がいる。
……だから……もう負けない。太陽……背負って歩くよ。
サキの身体からは眩しいほどの力が沸きあがっていた。
「さて……。じゃあ行くかい!」
サキは自分の母だった者がいる病室のドアの前で一息漏らすとそっとドアを開けた。
太陽の姫は仲間に手伝ってもらいながら自分の感情と向き合った。心優しい太陽の姫はこれからも沢山の人間を救い続ける。その陰には必ずある有名な厄災の神の存在があったのだが、その神はおそらく表に出る事はない。
「だがまあ、俺はそれでいいのさ。あいつが元気ならな。」
みー君はフッと軽く笑うとそっと目を閉じた。




