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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」太陽神と厄神の話
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かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ21

時神編タイム・サン・ガールズと一部被ります。

覚えている方は次へ。

 アヤとプラズマがサキの隙を見て逃げた。

 この場に残り、サキと対峙しているのは時神過去神、栄次だけだ。


「っち……ダメだ。全然力が入らない。」

 少女のサキは本気で炎を飛ばしていた。栄次は避けるが無傷ではない。


 「なんだ。先程と炎が変わらんぞ?本気なのではないのか?」

 「……。」

 本気のつもりだが力の使い方がいまいち思い出せない。これ以上の力を纏う事がなぜかできない。自分はこんなもんじゃなかったはずだ。


 ……本当はあたしが太陽神のトップに立つはずだったんだ……。でも……お母さんが……。

 栄次の刀が少女のサキに伸びてきた。


 ……避けないと……

 そう思っていた刹那、サキに吐き気が襲った。咳き込み膝をついた。風の音が耳元でする。


 ……まずい。斬られる……。

 少女のサキは手を口に当てたまま強く目をつぶった。すぐに鋭い痛みを感じるかと思ったがしばらくたってもなんともない。サキは恐る恐る目を開けた。


 「大丈夫か?」

 栄次は鋭い目をこちらに向けながらぶっきらぼうに一言言った。ふと横を見るとサキの首筋に触れそうな所で刀が止まっていた。少しサキが動けば斬れてしまうくらいの距離だ。


 「……寸止めかい……さすが……」

 「俺は小娘を蹂躙する趣味はない。」

 少女のサキはまた咳き込んだ。口を押さえていた手を見ると血がついていた。


 「……!」

 「おい。しっかりしろ。どうした?」

 少女のサキは栄次を見上げた。栄次はサキの顔を見てはじめてサキが血を吐いた事に気がついた。サキの口からは血が漏れ、顎をつたい、服や床を汚す。かなりの出血量だった。


 「おい!」

 栄次は刀を鞘に戻すと少女のサキの側に寄った。なぜ吐血したのかもわからず栄次はサキの背中をさすった。


 「ち……血が……逆流してる……。な、なんで……うう……。」

 サキはしゃがんでいる栄次の袖を掴んだ。


 「血が逆流だと……!」

 「あたし……もう……戦えない……先に行ったら……どうだい?」

 うつろな目をしているサキを栄次は仰向けにさせた。

 「こんな状態で放っておけないだろう!」

 「何……言ってんのさ。あたしは……敵……」

 「いいから黙っていろ!」

 サキは苦しそうに息をしている。まわりを覆っていた炎は消えたように小さくなっており、栄次を襲う予定だった炎も塵のように消えた。


 栄次がどうすればいいか困っていた時、聞き覚えのある声が聞こえた。


 「栄次殿!無事でござるか?……さ、サキ殿!」

 声の主はサルだった。サルはサキの状態を見て絶句した。


 「さ、サル!お前、怪我してたのでは……まあ今はいい!娘がいきなり血を吐いた!どうすればいい!」

 栄次は珍しく焦った表情でサルを見た。


 「サキ殿は……太陽神としての力が著しく低下しているのでござるな……。サキ殿は我々を統べる太陽神……一番、アマテラス様の力を受け継いだお方でござる。全力で守らねば……。間違いなくこれは人間の血が太陽神の力と反発を起こしているのでござる。おそらく無理やり人間になろうとしたのが原因でござるな。そういう事があったのではござらんか?サキ殿。」

 サルはサキを抱き起した。


 「あたしが……人間になろうと……したわけじゃないんだ……。違うんだ……。」

 サキは目に涙を浮かべていた。


 「やっぱり今はしゃべらない方がいいのでござる。お話ならば後でゆっくり聞く。」

 サルはサキに頭を下げ、目を閉じた。

 「何をやっているんだ?」

 栄次が無言で頭を下げているサルに声をかけた。


 「忠誠を誓っているのでござる。太陽神の使いが頭を下げるのは太陽神だけでござる。彼女に神格を取り戻してもらうため……なけなしかもしれぬが……。」

 しばらくしてサルのまわりに太陽を模した魔法陣が現れた。その魔法陣から放たれた光りがサキを包んでいく。サキの表情が少し和らいだ。


 「これで少しは人間の力が無くなったかと思うのでござるが……。どうしてこんなひどい状態に……。」

 「し、知らないよっ!あたしは……お母さんに悲しい顔させたくないだけなんだ……。」

 涙を流しているサキをサルが優しくなでる。


 「サキ殿はお優しい……。だがサキ殿の母上はもう禁忌の先へ足を踏み入れてしまったのでござる。残念ながらサキ殿の母上は罰を受けるしかないのでござる。」

 「……。い、嫌だよ……。お母さんどうなるの?ねぇ!なんとかしてよ……サル……。」

 サキの叫びにサルは無言で首を横に振った。


 「ねぇ!サル!なんとか……してよぅ……!」

 「……。」

 サルは目をつぶった。こんなに苦しんでいる主を見たくはなかった。


 「ねぇってば!……なんかしゃべってよ……。お母さんはね、本当は……すごく優しいんだ。優しいんだよっ!だから!」

 サキは口から血をこぼしながら叫ぶ。サルはサキを抱きしめた。


 「すまない……。優しいというのは罪を消す理由にはならないのでござるよ。……サキ殿、いや、サキ様、少し眠られるとよろしいのでござる。次に目覚めた時、すべてが終わっていますように……。」


 「そんな……お母さん……。……お母さん……。」

 サキはその一言を泣きながらつぶやき意識を失った。


 「ここを任せてもいいか?俺は行かなければならない。」

 栄次はサキを心配そうに見つめながらサルに言葉をかけた。


 「……大丈夫でござる。サキ様は小生がお守りするのでござる。作戦にうつっている太陽神様達、猿は作戦が終了した段階でサキ様の介護を全力で行ってもらうのでござる。」

 「作戦という事はなんかするんだな?」

 サルは栄次に頷いた。栄次も頷き返し、そのままさっきアヤ達が走り去った方へ走って行った。


 サルはそれを見届けてからサキを抱きかかえ栄次とは逆の方向に歩き出した。

 

 

 「……ひっぱられる……。」

 少女の方のサキは夢か現実かわからないままそんな言葉を口にした。


 ……もう一人のあたしが呼んでいる……?

 サキはそこで気がついた。


 ……そうか。壱と陸を行き来する太陽、それに一神だけの太陽神。あたしはもう一人のあたしと一つになるんだ……。本来あたしは一人しかいちゃいけないんだ。太陽があたし達の矛盾を直そうとしている……。


 はっと目を開けると真っ白な空間にサキは浮いていた。目の前には大きくなった自分がきょとんとしたマヌケ面でこっちを見ていた。


 「お母さんはこれであたしにトドメをさすつもりだったんだ。太陽にあたし達を連れて行ったのはあたし達をひとつにしてあたしが受けたアマテラスの加護を奪おうとしているんだ。」

 ……あたしはアマテラスの加護がない、人間にもなりきれない太陽神になるってわけか。


 ……すなわち消滅。


 「なにぶつぶつ言ってんのさ。ねぇ?」

 「……。お母さんは……あたしの事……なんて思っていたと思う?」

 サキは目の前にいる自分にそう問いかけてみた。


 「さあね。でもあたしはなんかあの人に会っちゃいけないんじゃないかって思ってたよ。」

 目の前の自分はそう言って幸せそうに笑っている。


 「あんたの勘は当たるんだね。……ねぇ、あんた、もしもうすぐ死ぬって言われたらどうする?」

 「死にたくはないなあ。うん。死にたくないね。だけどそう言われたらしょうがないよね。」

 「……やっぱりそうなんだ。」

 自分にこんな事を言わせている自分が悲しくなってきた。


目の前にいる彼女はもう意思を持っている自分ではない自分だ。だが自分と同じことを思っている。やはり自分なのか。

 でも彼女に罪はない。むしろ酷な事をしてしまった。


 「ああ、そうそう、話変わんだけどあたしさ、こないだパーマかけに行ったんだよ。そしたらさー、こんなんなっちゃって。変かな。やっぱ。」

 目の前にいる自分はサキを他人として思っているようだ。まだ自分自身であるとわかりきっていないのかもしれない。


 同時に別の事も考えた。彼女は自分の意思で美容院に行った。やっぱり自分とは違うのか。

 考えても答えは出ない。


 「ねぇ?大丈夫かい?聞いてる?」

 「え?……うん。」

 「ならいいけど……。」

 彼女の顔を見ていたらいたたまれなくなった。


 「ごめん……。サキ。ごめん。ほんとにごめん。」

 「何?いきなり。やっぱさっきの話聞いてなかったのかい?」

 サキはもう一人の自分に頭を下げてあやまった。


 「違う……そうじゃなくて……違うんだ。」

 どう説明すればいいのかわからなかった。サキはいままで彼女を自分だからどんな扱いをしても大丈夫だとそう思っていた。だが、彼女には彼女なりの意思があり、同じところもたくさんあったが彼女は自分ではない。同じ名前で同じ顔だけど違う者。別人だ。


 だいたい、オウム返しではなくこうやって会話になっている事がお互い別の意思を持っている証拠なのではないか。


 「違うんだ……。」

 「わかっているよ。」

 サキが言葉を発した時、もう一人の自分は表情を消してぼそりとつぶやいた。


 「え……。」

 サキは驚いて彼女を見返した。


 「状況はよくわかんないんだけどさ、あたし、この世界にいちゃいけないんだろ?」

 彼女は空虚な目でサキを見据えていた。ずっと昔から気がついていた事らしい。


 「……。」

 「はっきり言いな。」

 「そう……だよ。あんたはこの世界にいちゃいけないんだ。あんたはあたしなんだから。」

 サキは唇を噛みしめ、こぶしを握りしめた。なんだかとても苦しかった。


 「そっか。」

 次の反応が怖かったサキは拍子抜けした。彼女はただ、一言そう言っただけだった。


 「やっぱり、あたしとあんたは違うのかな。」

 「一緒だったら気持ち悪いだろ。この状態でも十分気持ち悪いんだけどね。」

 「……うん。やっぱり違うんだ。……じゃあ、もう一つ、明らかにしたい事があるんだ。」

 サキは目をつぶった。


 「なんだい?」

 「あたしは悪い事をしているおかあさんを止めるべきか、ほっとくべきか。」

 「そんなの知らないよ。あんたが決める事じゃん。」

 彼女は呆れた目をしてこちらを見た。サキはそれを見て大きく頷いた。


 「わかった。ありがとう。」

 サキがそう言った時、彼女は消え始めた。足先から徐々になくなっていく。


 「こんな安らかに消えられるなんて幸せだよ。まったく。」

 「サキ……。」

 「ああ、一つだけ言い忘れてた。あんたはあたしみたいになっちゃダメだよ。ダラダラ生きていると何にも楽しくない。あたしはすぐにやる気なくなっちゃうけどさ、あんたはもうちょっと頑張ってみたら?」


 「え?」

 サキは足先から彼女の顔へと目線を向けた。


 「だってさ、あんたはあたしなんだろ?」

 「!」

 彼女はそう言って笑いながら消えて行った。


 ……あたしの代わりに頑張れって事か?


 彼女が消えてからサキは真っ白な空間にただ取り残された。彼女とはもう会う事はないだろう。


 神格を放棄できるほどの神格をもう持っていない。


……こないだの神権放棄であたしはぎりぎりだった。

 ……そしてあたしはアマテラスの加護を失った太陽神としてただ消滅を待つ存在になる。


 いま、あたしは彼女と一つになった。実感はないけどおそらく彼女があたしになった。あたしの神格は今どん底だ。もう這い上がれないだろうな。あたしはお母さんにいいように使われて殺されるのか……。


 あんまりだな……。

 サキはその白い空間の中でだんだんと意識を失っていった。

 

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