表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」太陽神と厄神の話
255/560

かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ18

 時神達、過去神栄次と現代神アヤと未来神プラズマは太陽神達に見つかり、囲まれていた。


アヤは無事、少女のサキと共に術のパスワードを解いた。仲間と再会する事ができたがそれはつかの間の安堵だった。


太陽神達はサキの母の命令により、時神を殺そうとしていた。暁の宮、畳の部屋の一角に追い詰められたアヤ達はただ、太陽神達を睨みつけていただけだった。


太陽神達は命令が不適切だとわかっていたのか囲んでいるだけで襲ってくる気はない。しばらく静寂が包み込んだ。だれも何も話そうとしない。


 「太陽神様方にこんな酷い命令を出しているのはどちら様でござるか?」

 サルが誘導尋問にかかろうと考えていた時、太陽神達の雰囲気ががらりと変わった。その原因はすぐにわかった。


 「私だけど生意気な下僕ね。」


 サルの頬に汗が伝った。凄い力を感じる。太陽神達が次々と道を譲っているのが見えた。


その後すぐに太陽神達は一斉に膝をついた。アヤ達の目の前に立っていたのは女だった。


長い銀髪をひとまとめにしている。顔は微笑んでいるが不気味な事に目だけ黒ずんでいてわからない。この女はサキの母である。


 「……っ!」

 サルはあまりの気迫に膝をついた。立っていられなかった。よく見るとまわりの太陽神も震えている。太陽神がこんな状態ではその配下のサルがかなうはずがない。


 「何をしているの?さっさと時神を殺しなさい。私の命令が聞けないの?ねぇ?」

 女、サキの母は跪いているサルの側に寄ると顔をそっと撫でる。底冷えするような何かがサルの心をなでた。


 「サル!しっかりしろ。」

 栄次とプラズマがサルに呼び掛けるがサルに反応はない。


 「よくこんな堂々と命令違反をしてくれたわね。どうなるかわかっているのかしら……。」

 微笑んでいた女の顔が怒りへと変わった。


 「……。何故……何故……このような事を……。」

 振り絞るようにサルは女を睨みつける。それが女の怒りをさらに増徴させる原因になった。


 「私に質問しようって言うの?なんて生意気。あなたなんてね、すぐに殺せるのよ……。」

サキの母は手をかざした。サルの身体は途端炎に包まれた。サルの悲鳴が部屋に響く。


 「サル!」

 アヤ達が寄ったところでサルは助けられない。熱風にさらされサルに近づくことすらできなかった。まわりの太陽神達はその光景を見る事なくただ、下を向いて肩を震わせている。


 「ただ、殺すとコマが一つ減ってしまう。それは困るから半殺し程度で済ませてあげるわ。」

 サキの母はまた冷徹な笑みを浮かべると指を鳴らした。炎は跡形もなく消え、身体中を焼かれたサルが無残に転がる。


 「さ、サル……。」

 アヤはサルに近寄り抱き起した。サルはかろうじて生きている状態だった。栄次とプラズマは武器を構え、サキの母を睨みつけていた。


 「こんな小娘が時神?後ろの方達はなんとなくわかるけどねえ。」

 サルを抱きしめてこちらを睨んでいるアヤをサキの母は馬鹿にしたように笑う。


 「そう……わかったわ。太陽は恐怖政治を行っているのね……。そういうの長続きしないわ。」

 こんな無茶苦茶な相手にアヤは自分でも恐ろしいくらい強気だった。恐怖よりも怒りの方が勝っていた。


 「何にもできないただの神が偉そうにしゃべるんじゃないわ。」

 サキの母はアヤを蹴り飛ばした。


 「アヤ!」

 その行動に栄次とプラズマの表情が変わった。アヤは顔を蹴られていたがそのままサキの母を睨みつけた。その時サルが言葉を発した。


 「小生……彼女を知らないのでござるが……それは小生があの夜にとらわれていたからでござる。そのわずかな間で……太陽は彼女が仕切るようになった……という事……か。」

 それは独り言のようなものだったがアヤはそれに答えた。


 「力で抑えつければ誰だって王様になれるわ!あなたはそうやって即席で王女様になった。」


 「口の減らない子ね。今、ここで殺してもいいのよ。三人いっぺんに消そうと思っていたけどやめるわ。」


 サキの母はアヤに手をかざした。栄次とプラズマが動こうとした刹那、サキの母は手を引っ込めた。そしてゆっくりと後ろを向く。


 「あら?やっと来たの?サキ。」

 「こっちのサキが言う事聞かなかった。」

 小学生のサキが高校生のサキを連れて部屋に入ってきた。障子は開け放たれていて廊下にもあふれるくらいの太陽神がいた。


 「なんだい。これは。あれ?アヤじゃん。一日ぶり。こんなとこで会うなんてねぇ。……あたし、よくわかんないんだけどここに連れて来られて……」


 参のサキは呑気に言葉を紡ぐ。

 「もういいわ。一度眠りなさい。サキ。」

 サキの母は参のサキの頭に手を当てた。参のサキは気が抜けたようにその場に倒れ込んだ。倒れ込んだサキを少女のサキは無表情で見つめる。


 「あなた……何者なの……?」

 アヤはただ立っている少女のサキを見つめた。


 「あ、アマテラス様?」

 太陽神達、猿達は少女のサキを見てそう口にした。太陽神達にはアマテラスの加護がどういうものかはっきりとわかっている。少女のサキからはアマテラスの強力な力を感じた。


 「……いや、今は太陽神ではなくてただの神……。」

 その先を言おうとした少女のサキをサキの母が止めた。


 「そろそろ行くわよ。サキ。その寝ているサキも連れて来なさい。」

 「……わかった。」


 サキの母は堂々とアヤ達に背を向けると歩き出した。その後を少女のサキが、大きいサキを担いで続く。最後にサキの母は一言だけ凄味のある声で言った。


 「何をしているの!さっさと立ち上がって時神を殺しなさい。それとも私に……アマテラスの力に逆らう?それはそれでもいいけどね。」


 それを聞いた太陽神達の肩がまたビクッと動き、一人また一人と立ち上がる。手に剣と鏡の盾を持っている。


 「ちょっと待つのじゃ!」

 これから乱闘が起こる直前、とても聞き覚えのある声が聞こえた。


 「この声……歴史神?」

 「うむ!」

 目の前にいきなり歴史神、ヒメが現れた。


 「天狗からは解放されたのか?」

 プラズマは救いを求めるような目でヒメを見つめた。


 「まあ、そうじゃな。あんなものはただの情報交換にすぎぬ。それで……」

 ヒメはプラズマから目を逸らすと太陽神達に目を向けた。


 ……ここでワシは太陽神に女の事を説明する。


 「太陽神殿、あの女は巫女。つまり人間じゃ。アマテラス様をその身に宿す事ができる神童じゃった。ただそれだけじゃ。何をそこまで怯えておる。」


 ヒメの言葉に太陽神達の動きが止まった。


 「おい、どういう事だ?」

 栄次がヒメを横目で見る。ヒメはポリポリと頬をかくと頷いた。


 ……ここは考えてある言い訳を言う!


 「実はの、ここまであの女をつけていたのじゃ。おそらくそのままつけただけだったらすぐに見つかってしまったじゃろうが、あの小さきサキが見つからぬように色々やってくれたのじゃ。


その隙にワシはあの女の情報を……歴史を引き出した。あの小さきサキが何者なのか、サキも何者なのかいまだわからぬが……あの女だけはわかったのじゃ。」


 ……混乱している時神達に未来の歴史を見たと言ってもわけがわからないだけじゃし、これでよい。


 ヒメは太陽神に背を向け、今度はアヤ達を見た。


 「まあそれはいいとして……あの女をおとなしくさせるため、時神が必要じゃ。」


 「?」


 「あの女が何をしたいのかはわからぬ。じゃがアマテラス様を切り離せば、その思惑は終わるじゃろう。


残念ながら、奴の人間の時の記憶までしか引き出せんかった……。


での、アマテラス様は概念じゃ。概念には時間はない。じゃがそれを扱う人間の方には時間の鎖が巻かれている。


しかし長くアマテラス様をその身に宿しているとだんだん、扱う人間も概念になってくるのじゃ。


……それ故、彼女は目元がはっきりせん。年齢も止まっておる。彼女はそうしてアマテラス様とだんだん融合していき、最後は概念に成り果てる。


それが目的かどうかはわからぬが、あの女が概念になっても困る。故、その前に時神がもう一度あの女に時間の鎖を巻く必要があるのじゃ。」

 ヒメの説明が静かな部屋に響き渡った。


 「時間の鎖……。やり方がわからんな。そういう事はやった事がない。」

 栄次は頭を捻った。太陽神達は時神とヒメの会話を戸惑いながら聞いていた。もう襲ってくる気配はなさそうだ。皆、救いの目をこちらに向けている。


 「大丈夫じゃ。時神はこの世界の秩序を無意識に守る。故、その秩序を乱す者を許すはずがない。本能に逆らわなければ女を枠に戻そうとするはずじゃ。後はそれに従えばよい。」


 「で?俺達はあの女をとりあえず追えばいいのか?」

 「うむ。」

 プラズマの質問にヒメは単純に答えた。


 「ところで歴史の神はどうやってこの宮に入ったの?」

 アヤが訝しげな顔でヒメを見ていた。


 ……来たのぅ、この質問。


 「月の宮から来たのじゃ。夕暮れになると、太陽と月が一瞬だけ同じ世界に被る時があるのじゃ。


月神、その配下の兎達に協力してもらい、まず夕暮れの時間、壱の世界に月が現れたと同時に門を開いてもらい、月の宮へ入る。


太陽が陸へ消える前に月から太陽へワープできる装置を使い太陽へ侵入、多少の時間差がしょうじたものの、うまく陸の世界の太陽へ顔を出せたという事じゃ。


月から太陽へワープできる装置は兎達が最近つくったもので試運転もかねてという事で使わせてもらえたのじゃ。


太陽と月が被る時のみ使用可能らしいがの。ほとんどお互い干渉がないため太陽に興味を抱いた兎が興味本位と猿に対するいたずら目的でつくっていたのが最初だったとか。


まだ幼い少女の兎じゃった。まあ、その少女はそのことが知れ、月神達からこっぴどくお叱りを受けていたようじゃがワシは助かったぞい。」


 ヒメはアヤに向かい笑いかけた。ヒメの頬に汗が伝うがアヤ達は普通に信じてくれた。


 「なるほどね。やっかいな兎に助けられたと……。」


 「そういう事じゃ。とりあえず、あの女を追うのじゃ!」


 ヒメは不安そうな時神達を押し出した。太陽神達は何も言わずに救いの目をこちらに向けながら脇へ逸れた。アヤ達は太陽神達に避けられながら歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 >アマテラス様は概念じゃ。 なんだか哲学的ですね。 概念が言葉で表現されたものを名辞と言うそうですが、現実にないものをあるように存在させるための表現手法だとウィキペディアに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ