かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ9
「もうすっかり冬ね。」
「ん?」
アヤの発言に参のサキは首を捻った。
「何よ?」
「冬?そんなだっけ?なんか暑かったような……。」
「あんた、そんな格好して寒いでしょ?なんでそんな格好してんのよ。」
参のサキは上下薄手のジャージだ。確かに寒い。反対にアヤはセーターにマフラーにと防寒対策万端だ。ちなみにまわりを見ると歩いている人は皆、暖かい格好をして歩いている。
みー君とサキは二人の後をこそこそと追った。
「いやあ、だってさっきまで……。ん?コンビニあった。」
「あら?コンビニこんなところにあったかしら?」
アヤは不思議そうな顔でコンビニを見ていたが何事もなかったかのように参のサキとコンビニへと姿を消した。
「そういえば、アヤの家に行く時、こんなにコンビニ近くなかったよ?」
サキがみー君を仰ぐ。
「ふむ。流史記姫が何かやった可能性もあるな。」
「そっか。」
みー君とサキは再びアヤ達が出てくるのを待った。
「ところで気になっていたんだが……ここは参の世界だよな?なんで現代神がいるんだ?」
みー君が寒そうなサキを心配しながら聞いてきた。
「うーん……あたし達からしたらここは参だけど……アヤ達からしたらここは壱なんじゃないかい?そんであたし達は未来、つまり肆から来たって事?」
「なるほど……壱、参、肆ってかなり曖昧な世界だって事だな……。こりゃあ、流史記姫がいねぇと世界がわかんなくなるわけだ。時を渡るっていうのはあれだな……下手したら自分達が狂っちまうな。」
サキが曖昧に返答したのでみー君もそれ以上考えるのをやめた。しばらくするとアヤ達が出て来た。
アヤ達はコンビニの袋を持ちながら足早に去って行った。サキ達も後を追う。
しばらく歩くとアヤ達の前に導きの神が現れた。サキが聞き耳を立てているとどうやらアヤと参のサキが時を歪ませたという事で罪に問われているらしい。導きの神とやらは天狗のお面をかぶっており、表情はわからない。
「あなたは猿田彦神?」
アヤが天狗に話しかける。
「……の系列である。導きの神である。君らの道を正しにきたのである。」
天狗は感情のこもっていない声でアヤに答えた。
「道?」
「そこの黒髪の女、元凶の正体であるな。」
アヤの質問を無視した天狗は参のサキを指差すともっていた棒を構え、突っ込んできた。
「うわああ!何?」
危険な予感がしたアヤは参のサキの手を引いて走り出した。
「逃げるのよ!」
「な、なんで?」
「わかんないけど!」
アヤ達は走った。どこに向かっているかはわからない。
「しょうがない。ちょっとやるわ。」
アヤは手から鎖を飛ばした。鎖は天狗に巻きつくとすぐ消えた。鎖が消えたとたん、天狗は動かなくなった。
「な、なんだい?あれは。」
「時間停止。長くはもたないわ。」
「ふえー。何この世界。夢?」
二人は再び走り出した。刹那、後ろから突風が吹き、何かがアヤ達の前を塞いだ。
「おっと待つのでござる。」
アヤ達の前に立ちふさがったのは天狗ではなく別の男だ。男は緋色の着物を着ており、茶髪だが髷を結っている。目はやたら横に細く、見えているのか謎だ。
「……?」
「あららら、お嬢さん達、ずいぶん思い切った事したでござるな。太陽を隠すなんてなあ。」
「は……?」
男の言葉に二人はぽかんと口を開けた。
「私達は何にもしてないわ。太陽を隠す?」
「お兄さんは誰?あたし、なんか神になったみたいなんだけどなんでか知ってる?」
二人の反応を見て男は頭を捻った。
「やっぱり、太陽を隠すなんてできっこないでござる。時神となんかの神が。あ、小生はサル。日の神の使いサルでござる。」
「サル……。」
アヤと参のサキは呆然とサルを見つめていた。
「サルはここで出会うのかい。」
サキは影に隠れながら不安そうにつぶやいた。みー君とサキは道路わきにある家の壁に身を隠していた。
「俺達の方が天狗に捕まったらやばかったな。サキ、話が続いているぞ。」
みー君は不安そうなサキを一瞥するとアヤ達の方を向いた。
「時神、この雪を見てなんとも思わないのでござるか?」
「雪?冬なんだから雪くらいふるんじゃないかしら?」
アヤの返答にサルは頭を抱えた。
「変だと思わないと……。時神もだますとは……いよいよ時のゆがみが本格的になってきたという事でござるな。」
「時のゆがみ?」
「ま、今は逃げるのが先決でござる。天狗殿は道をまっすぐに戻す作業でとりあえず動いているだけだから気にしなくていいのでござる。」
サルはさっさと歩き出した。アヤ達もなんとなくそれに従う。
アヤは突然ハッとした表情になると頭を抑えた。今は冬ではなく初夏であるという事に気がついたらしい。
「なんで気がつかなかったの……?」
「時のゆがみがここだけひどいからでござる。感知できないくらいゆがんでおり神も含め、皆これが普通だと思っておるのでござる。」
「まあ、あたしはなんで雪降ってんだよって思ったけど。」
参のサキの言葉にアヤは驚いた。
「あなたは知っていたの?」
「知ってるも何も変だなあって。」
参のサキはぽりぽりと頭をかく。
「時のゆがみがひどいせいで天候もめちゃくちゃでござる。そして今は朝の七時半。なのにこの暗闇でござる。」
「え?……夜じゃないの?」
「夜ではござらんよ。本来は。太陽が月のまんまなだけでござる。」
アヤは慌てて空を仰ぐ。雲が多くて月も確認できないがあきらかに太陽はない。
「何よ……これ……。私知らないわよ……。知らない。」
アヤは狼狽していた。サキはアヤの狼狽ぶりを見てあやまりたくなった。サキは自分達がこちらに来たから時間がおかしくなったと思っていたからだ。
「知らないのはわかっておるのでござる。日の神々は混乱状態でござる。時間も止まっておる。」
「サキ、あなた、なんか知っている事ないの?」
「え?何の話してたのか聞いてなかった。ごめん。」
「なんで聞いてないのよ!」
「なんかアニメの話かと思ったからさー。あたし、アニメわかんないし。」
「なんであなたはこの状況を電波だと思えるのよ!」
アヤの睨みが怖かったのか参のサキはしゅんと肩をすくめる。それを眺めながらサキは頭を抱えた。
「壱の世界のあたしってこうもやる気がなかったのかい?」
「まあ、成長って言葉があるだろ。今は違うんだからいいじゃねぇか。」
みー君は対応が面白かったのかケラケラと笑っている。緊張感がないみー君にサキは怒ったがサルの方は参のサキに呆れた声を上げていた。
「うむ……一人緊張感がないでござるな。」
「……そう?」
参のサキがトーンのない声でつぶやき、ふと上を見上げるとアヤが住むマンションの前にいた。
「今日は泊まらせていただいてもいいでござるか?」
「え?ちょっといやよ……。見ず知らずの男性を泊めるなんて……。それに今、朝でしょ?」
「ここでは夜でござる。別に小生に下心などないでござるが……。」
「別にいいんじゃん?あたしは別に男がいようがいまいが寝るとこがあればいいや。」
参のサキはさっさとアヤの部屋へと向かう。
「あなたの家じゃないんだけど……。えっと、それからうちは狭いから寝るところないかも。」
アヤは遠ざかる参のサキを呆れた目で見た後、サルに向き直る。
「大丈夫でござる。」
サルはそう言うと人型から猿に変わった。
「猿になれるのね……。じゃあ大丈夫だわ。」
「基準がよくわからぬが……よろしくたのむでござる。」
サルを連れたアヤはマンションの中に入って行った。
「まあ、これで一応、朝まで部屋から出ないかな?」
サキは先程と同じ植木の所に身を隠しながらみー君を見上げた。サキの本体は陸の方でサキ自身、壱に出現した時の記憶などはほとんど残っていなかった。
壱と陸のサキが同化した時、記憶はかろうじて残ってはいたものの時が経つにつれてなくなっていった。今はほとんど壱のサキが何をしていたのか思い出せない。
「うっすらとだが……過去神と未来神の気配を感じるな……。あの二神もこの世界に来てるのか?」
みー君が顔を曇らせながら気配を追っていた。
「時間がおかしくなっているって言ってたから時空の歪みとかで来ちゃったのかもねぇ……。」
「そんな簡単に来れるのか?時神のシステムもよくわからねぇな。」
サキとみー君はアヤのアパートに入って行く事もできず、植木の側でじっとしていた。




