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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」人形に宿った武神の話
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かわたれ時…4人形と異形の剣11

力を渡した日からトモヤは毎日笑顔で登校するようになった。いつも楽しそうに笑っている。イクサメは今の状況に光が射したと思い、安心していた。


 朝、トモヤはイクサメに話しかけてから学校へ向かう。


 「お人形さん、行ってくるねー!」


 「トモヤ、今日も元気そうだな。学校は大丈夫になったか?」

 イクサメはたまにこういう質問をするようにしていた。またいじめられていたら別の方法で助けようと考えていたからだ。


 「うん。大丈夫だよ。今は凄く楽しいんだ。皆僕と遊んでくれるんだ。」


 トモヤは楽しそうに笑うとランドセルをしょってイクサメに手を振った。イクサメもうまくいって良かったと微笑みながら手を振りかえす。トモヤには見えていないがイクサメは別に良かった。


 ……良かった。トモヤはこの状況を自分の力で抜けたんだ。


 イクサメもトモヤが元気になり、とても喜んだ。

 しかしこの時、トモヤが学校で何をしていたのか、イクサメは知らない。


 「ねぇねぇ、今日も遊ぼうか?ねぇ?」

 学校の教室。トモヤは席を立ち、ニコニコ笑いながら女の子の側へ寄って行った。女の子は恐怖で顔が歪んでいた。


 「と、トモヤ君……。え、えりこね、別の子と遊ぶ約束が……。」


 女の子が震える声でつぶやいた刹那、トモヤが椅子を思い切り蹴とばした。トモヤの表情からは怒りが読み取れる。女の子は椅子から落ち、泣き始めた。


 「僕と遊べないの?ねえ?」

 「お、お前、何してんだよ……。」

 他の男の子達が怯えながら女の子をかばう。トモヤはその男の子達を睨みつけた。


 「何?順番だよ?僕と遊ぶのは。君は僕と遊ぶの明後日でしょ。」

 トモヤは近くにいた男の子を思い切り蹴とばした。


 「何……するんだよ!」

 別の男の子が身体を震わせながらトモヤに殴りかかった。トモヤはまるで拳が見えているかのように避け、そのまま男の子の腹を殴りつけた。


 「うっ!」

 「僕に逆らうの?僕、喧嘩強いよ?」


 男の子は腹を押さえながら泣きだす。トモヤは突然、喧嘩が強くなり、誰にも負けなくなった。いまや、クラス中を震撼させている存在だ。


 「僕は今日、えりこちゃんと遊ぶんだ。邪魔しないでよ。ね?えりこちゃん。あそぼ。」


 他の男の子には目もくれず、トモヤは座り込んで泣いている女の子の手を引く。


 「……ひっ。」

 「じゃあ、今日はおままごとしようか。あ、そうだ。明日遊ぶ人はタカヒサ君にするね。」


 トモヤは一人の男の子を指名すると楽しそうに笑った。男の子は蒼白の顔でトモヤを見ていた。


 昼休み、トモヤは女の子とおままごとをやっていた。校庭の砂場に座り込み、木の実を使って食事風景の再現をしている。校庭には沢山の子供が遊んでいるが二人に目を向ける者はいない。女の子はビクビク怯えながらトモヤに付き合っていた。


 「ね、ねえ……えりこね……そろそろお友達の所に行かないと……。」

 女の子は震えながらトモヤに目を向けた。


 「まだ昼休み終わってないよ。何?えりこちゃんは僕が嫌い?」

 トモヤは近くにあった太い木の枝を手に持つ。顔は微笑んでいるが目が笑っていない。


 「ち、違うよ……。違うけど……お友達がトモヤ君だけじゃないの……。」

 女の子は怯えた瞳でトモヤを見ていた。


 「そっか。じゃあ、そのお友達にえりこちゃんと遊んでいる事を言ってきてあげるね。さゆりちゃんとともこちゃんだよね?あの二人がダメって言うはずはないけどね。」

 トモヤは木の枝を持ちながら歩き出した。


 「ま、待って!や、約束なんてしてなかった!えりこ、暇だよ!」

 女の子は恐怖を感じ、叫んだ。木の棒を使って友達が何をされるのかがわかっていたからだ。


 「そう?じゃあ、なんでウソなんてついたの?ま、いいや。あそぼ。」

 トモヤは木の枝をポイと捨てると震えている女の子にニコリと笑いかけた。


 ***


 イクサメは楽しげに帰ってくるトモヤを待っていた。トモヤが笑顔なら自分も幸せだった。


 「はあ、楽しかった!」

 トモヤは満面の笑みでイクサメの元へ現れた。


 「ん?」

 イクサメはトモヤから漂うかすかな血の臭いに反応をした。


 「どうしたの?お人形さん。」

 「トモヤ、どこか怪我していないか?」

 イクサメの言葉にトモヤが「ああ」と思い出したようにつぶやいた。


 「僕は怪我してないよ。ちょっとさっき、外で喧嘩しちゃっただけ。」


 「外で喧嘩?」

 トモヤのこの発言でイクサメは何かがおかしい事に気がついた。


 「うん。えりこちゃんが僕と遊んでいたのにどこか行こうとしたから。」

 「えりこちゃん……女の子か。女の子と喧嘩か……。」

 イクサメはなんだか嫌な予感がしたがまだトモヤを信じていた。


 「まあ、いいんだ。仲直りしたから。明日はね、タカヒサ君と遊ぶんだ!」


 「そ、そうなのか?」

 「うん!」

 トモヤが楽しそうに笑うがイクサメはもう平和に笑ってはいられなかった。不安がイクサメを支配しはじめていた。

 


 翌日、トモヤの母親が学校に呼び出された。母親の顔をみるかぎりかなり深刻そうだ。イクサメは不安に思っていたが家を離れるわけには行かず、母親を追う事はできなかった。


しばらく不安げに待っていると母親が帰って来た。目には涙を浮かべている。リビングにある受話器を取ると誰かに電話をかけ始めた。


 「あなた……。トモヤが女の子をカッターで切りつけたって……。」


 母親はどうやらトモヤの父親に連絡を入れているようだ。父親は仕事中、外に家庭内の事が漏れないように家族の連絡用として携帯の番号を教えていた。


 「前々からトモヤが男の子に暴力を振るったり脅したりしていたらしいわ。昨日はトモヤを怖がっていた女の子がトイレに行くふりをしてトモヤから離れようとしていた時にカッターナイフで切りつけられたって……。」


 母親は泣きながらきれぎれに言葉を話す。母親も気が動転しているようで今にも過呼吸を起こしてしまいそうだった。


 ……まさか……トモヤがそんな事を……


 きれぎれに言葉が聞こえてくるが会話の雲行きが怪しくなってきた。母親の声はだんだんと鋭くなっていく。父親が何を言ったかわからないが会話が喧嘩調に変わってきた。


 イクサメは呆然と電話をする母親の背中を眺めていた。

 やがて会話が終わり、母親は憔悴しきったかのようにその場に崩れ落ちた。


 しばらくしてトモヤが帰って来た。トモヤはすぐさま、イクサメの元へ向かい走って行った。


 「トモヤ!」

 それを追うように母親も部屋に入って来た。


 「なあに?お母さん、今、僕はお人形さんとお話しするんだ。だから邪魔しないでよ。」

 「人形としゃべるなんて馬鹿な事を言わないで!」

 母親は泣きながらトモヤに向かい叫んだ。


 「うるさいな。お母さんは何もわかってないんだ!」

 「あなた、女の子をカッターで切りつけたって……。」

 平然としているトモヤに恐怖を感じながら母親は言葉を発する。


 「ん?ああ、あの子、僕と遊んでいたのにトイレに行くとか言って逃げようとしたからさ。」


 「どういう事なのよ……。ちゃんとお母さんに説明して!」

 母親は気が狂いそうなくらい精神共に疲れていた。それをトモヤは冷ややかな目で見つめる。


 「僕は強くなったんだ。もう誰にも情けないって思われないよ。お人形さんから力をもらったんだ。今は僕、とても楽しい毎日を送れている。


お母さんは何もしてくれなかったけどお人形さんは僕を助けてくれた。いじめもなくなった。皆僕と遊んでくれる。僕は今、とても楽しいんだ。」


 「楽しいって……トモヤ……。なんで……なんでこんな事したのよ……。」

 楽しそうに笑うトモヤに母親は顔を両手で覆い、泣き崩れた。


 「トモヤ!」

 イクサメはトモヤに向かい叫んだ。トモヤは声に気がつき、イクサメの方にやってきた。母親にはイクサメの声は聞こえていないようだ。


 「お人形さん?」

 「なぜ、こんな事をした……。」

 イクサメはきょとんとした顔をしているトモヤに問いかけた。


 「なんでって……僕はお人形さんの言った通りに強くなったんだ。ちゃんと僕は居場所を作ったよ。」

 「トモヤ……違うんだ。これは違う……。」

 イクサメの言葉にトモヤは顔をしかめた。


 「違うって?僕は自分で道を切り開いたよ?誰にも負けない。僕は強い。そうでしょ?」

 トモヤは悪い事をしたとはまったく思っていないようだった。


 「……違う……。私はそういう意味で言ったのではない!」


 「違うの?僕は自分で頑張ったのに。わかんないよ……お人形さん。もっと強くならないとダメなの?僕をいつも怒るお父さんにも負けちゃいけないって事?」


 「トモヤ……力を使えとは言ったがそれは相手を傷つける力ではない。自分を守る力だ!」

 イクサメはトモヤにわかってもらおうと必死で説明をした。しかし、トモヤには通じなかった。


 「僕はこの力で自分を守ったんだよ?お人形さんがくれた力でさ。」

 「トモヤ……。」

 「やっぱりもっと強くならないとダメかな。」

 トモヤはそうつぶやくとイクサメに背を向けた。


 「トモヤ……。」

 イクサメはトモヤを呼ぶ事しかできなかった。


 ……私は酷い間違いを起こしてしまった……。はやくなんとかしないとあの子が……。


 「トモヤ、どこに行くの?」

 母親が部屋を出て行こうとするトモヤに声をかけた。


 「どこってお部屋だよ。宿題やらないと。」

 「トモヤ!」

 無表情で去って行くトモヤの後を母親が慌てて追って行った。


 ……私はこんな事をしたかったわけじゃない。違うんだ……トモヤ!


 イクサメはぎゅっと拳を握りしめた。

 「……戦女導神……であるな?」

 ふと男の声が聞こえた。イクサメはすぐに声の主に気がついた。


 「……お前は剣王についてまわっている人形だな。」


 イクサメは声を発しながら床の方に目を落とした。イクサメの目の前に十一センチくらいしかない人形が立っていた。


青い髪は肩先で切りそろえられており、キリッとした瞳から威圧が漏れ出ている。肩先から布がない青い羽織を羽織っており、下は白い袴だ。


 「いかにも。剣王から罪状が出ている。やつがれはそれを伝えに来たのである。」

 少年顔の男は丸めていた紙をイクサメに渡す。


 「……っ。」


 「これを読むように。そしてそちらに書いてあるが刑の執行場所はやつがれが案内致す。日も書いてあるのでよく読むように。」


 事務的に会話をした男は小さい身体で飛び上がると窓から外へ出て行った。


 「……罪状……。死刑か……。」

 イクサメは苦しそうな顔で男からもらった紙を握りつぶした。

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― 新着の感想 ―
[一言] トモヤ君、なんだか辛いですね…… ずっといじめられていたことや、家で居心地が悪かったから、強くなりたかっただけでしょうし、イクサメもただ、トモヤ君が過ごしやすくなるように強さを分け与えただけ…
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