かわたれ時…3理想と妄想の紅16
「……っ!?」
みー君はしばらく歩いて驚いた。あたり一帯がどういうわけか轟々と燃えている。
……なんだこれは?こういう世界なのか?
みー君が紅い瞳でじっと炎を凝視しているとその炎の中からサキと女の子二人が飛び出してきた。
「ふいー。なんとか抜けられたねぇ。大丈夫かい?」
「大丈夫!」
「私も!」
サキは二人の少女を気遣い話す。セレナと真奈美も大きく頷いた。
「サキ!」
「ん?」
みー君とサキの目が合った。サキはパッと顔を明るくした。
「みー君!大丈夫だったのかい?すまないねぇ、まだ原因わかってないんだ。それより瞳の色が……。」
サキは矢継ぎ早に話し出す。みー君はそっと微笑んだ。
「原因は俺が見つけた。迷惑をかけたな。」
みー君はサキの肩をポンと叩こうとした。刹那、触れてもいないのにサキの左肩が焼け始めた。
「なっ?あぐ……。」
サキは左肩を押さえながら呻く。
「……っ!」
みー君は咄嗟に手を引き、自身の手に目を落とす。みー君の手からは禍々しい神力が渦巻いていた。みー君は戸惑いながら手を見つめた後、苦しむサキに目を向けた。
「みー君……痛いじゃないかい……。何するんだい……。あたし、みー君に何かしたかい?」
サキはみー君に何かされたと思っているらしい。
「……お前に俺が何かするわけないだろう……。」
みー君は拳を握りしめ、奥歯を噛みしめた。セレナと真奈美は何事かと二人を不思議そうな顔で見ている。
「みー君?どうしたんだい?」
サキは不安そうにみー君を見上げている。
「サキ!俺……」
みー君が話そうと一歩踏み出した時、一筋の鋭い風が飛びサキの頬を切り裂いた。
「いっ……。」
サキは切られた頬を押さえ動揺した表情で滴る血を目で追っていた。
何故、自分がみー君に傷をつけられているのかサキにはわからなかった。
「サキ!」
みー君が慌ててサキの怪我を見ようと手を伸ばした刹那、サキがまるで鉄砲にでも当たったかのように横に吹っ飛んだ。
サキは地面に思い切り叩きつけられ身体を強く打ちつけてしまった。
「……?」
サキは痛む身体を起こし、戸惑いの表情をみー君に向ける。真奈美とセレナが慌ててサキの元へ駆け寄り身体をさすっていた。
「ごめん。悪かったよ……。あたしがのんびりしてたからみー君怒っているのかい?まだ原因がわかっていないから怒っているのかい?あやまるよ。あたしは出来の悪い太陽神だからさ……色々とうまくいかないんだ……。」
「違う……違う!俺はお前に感謝しているんだ……。俺は……。」
みー君は戸惑いと恐怖が入り混じった顔で一歩、二歩と後ろに退いた。
「あたしは……こう見えてもみー君を助けたかったんだよ。いつも助けてもらっているからさ。……いくら怒ってても顔は傷つけてほしくなかったよ……。けっこう深く切ってくれたね……。」
サキは身体のダメージよりも顔を傷つけられた事にショックをうけているようだった。
しきりに頬を手で撫でている。
「血が止まらない……。血が……。血が止まらないよ……。」
サキの瞳に涙が浮かんだ。涙は嗚咽と共に地面に落ちていった。
「サキ……。」
みー君は怯えた表情のまま静かに泣くサキをただ黙って見つめていた。
「ひどいよ……。みー君……。」
サキの顔は暗く、悲しみに満ちていた。いくら太陽神の頭だと言ってもまだ実年齢十七歳の娘だ。いままで気を張っていた分の疲れも顔に現れていた。
「サキ……すまない……。俺は今、どうかしているんだ。なんで俺、お前に傷つけてんだよ!何やってんだよ!畜生!俺を返せ!返してくれ!」
みー君は耳を塞ぎながら膝をつき叫んだ。
みー君の身体から竜巻が発生し、一瞬で周りの火を消した。しかし、そんな風をもろに受けたサキと少女二人は大きく飛ばされた。
「はっ!」
サキは慌てて二人の少女を抱きしめ守る。サキは二人を抱いているせいで着地ができず、二人を怪我させないよう背中から落ちた。
「っ……!」
サキは痛みに悶え、起き上れなかった。
「神様!大丈夫?しっかり!」
セレナがサキを抱き起こした。
「ありがとう。神様。私達を守ってくれたんだよね?」
真奈美は半分泣きそうな顔でサキを見ていた。
「ほんと……さっきまで悪者扱いだったのに……素直な子達だねぇ……。」
サキは二人の手をそっと握り、撫でる。
二人の不安そうな顔を見ていたらいてもたってもいられなくなった。
「あんた達はあたしが助けるよ。だから……奇跡を信じるんだよ。」
サキはそう一言つぶやくと痛む身体に顔をしかめながら起き上った。
みー君は自分のしてしまった事に目を見開いた。今、みー君の心は不安定だった。昔は制御できていたはずの力が今はまったく制御できない。
心かわりをして人間と約束をかわし、性格も少し変わったみー君は昔の神力に馴染めなかった。
もともと合わないと思い、捨てていたものだ。今のみー君には本来持っている力と心のすれ違いが起こっていた。




