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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」運命神と抗う人間の話
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かわたれ時…2織姫と彦星の運20

サキは先程の神社に戻ってきた。瞳はオレンジ色をしており、決意を感じる。あまりの重圧にみー君達は歩いてくるサキに驚いた。


サキは突然太陽の剣を手から出現させるとマイの首元に突き付けた。


「お、おい……。」


みー君と運命神は同時に声を上げた。その声もむなしく、サキはズカズカとみー君達を押しのけた。


「あの子達を元に戻しな。今すぐに。」

「この運命が正しい。太陽のひよっこがわたしに指図をするな。」


マイの返答にサキは思い切り太陽の剣を振りかぶった。炎と衝撃波が神社の敷石を巻き上げる。


 マイは素早くサキの攻撃をかわした。


 「もう一度言う。元に戻しな。」


 「もうこれが元に戻っている状態だ。わたしが壱の世界に戻した。もう運命を操る事はできない。」


 マイの涼しげな発言にサキの身体から炎が噴き出る。今度は太陽の剣でマイを薙ぎ払う。

 サキはギロリとマイを睨みつけた。


 「あんただけは絶対に許せないよ……。あんただけは絶対に許さない!」

 「何と言うか人間臭い神だな。貴方は。」


 「……人間に見えるからかね?あんたは狂っているよ。」

 「ふん。」

 マイはサキの挑発を軽く流すとみー君を睨みつけた。


 「!」

 すると突然、みー君が意思に反して動き出した。


 「天御柱に演劇をさせてやろう。そして太陽の姫君にも。」

 「まずい!」

 運命神が叫んだ。


 「お前も見ているといい。神格が高い神が演劇をやる様を。設定は憎き仇。そうだなあ、両親を殺された女剣士が極悪非道の魔法使いと殺し合いっていうのは。」


 マイがそうつぶやいた刹那、周りの風景が突然荒野に変わった。


 「弐の世界……。シナリオを考えて演じさせるシミュレーション……語括の能力……。」


 運命神が手を伸ばすも空しく、サキとみー君はぶつかり合い始めた。


 ……あれを使うしかない……

 運命神はそっと眼帯をはずした。


 「……ん?」


 しかし、運命神は目を使うのをやめた。よく見るとサキの攻撃をみー君が一方的に防いでいる。みー君自身が攻撃をしていない。


 ……もしや……天御柱には術がかかっていない?


 お面をかぶっているので実際の所よくわからない。運命神はカケに出ることにした。


 ……天御柱に術がかかっていないとして僕はマイが負けるというレールを引く。


相手も運命を操れる神だ……この手の術は効かない可能性のが大きい。だから本当に小さい運命しかたぶん操れない。だがやってみるしかない。


 運命神は真っ白な目をマイに向ける。おそらく『負ける』という運命しか操れないだろう。そこから先、根本的な『元に戻す』というのは不可能に近い。


 なぜならもう戻せる状況ではないからだ。ここはもう肆の世界ではなく、壱の世界だ。巻き戻すという行為自体できない。


 それに、なかった事にできたとしてもシホとコウタの頭には肆の世界の記憶が残ってしまう。未来も変えられるかどうか不明だ。結局は解決しないだろう。


 だがマイが負ける事によって何か変わるかもしれない。今はそれを期待するのみだ。


 運命神はダメもとでマイに術をかける。マイはにやりと笑い、運命神を睨みつけた。


 「やっぱりダメだ。気がつかれたか。」


 運命神はマイにかけた術が自分に跳ね返ってくる事を察していた。しかし、その直後、みー君が仮面をはずし、マイに襲いかかった。瞳は真っ赤だ。サキも同時にマイに襲いかかった。


 「なっ!」

 マイは驚き、一瞬隙ができた。刹那、運命神の術がマイに当たった。


 マイは運悪く、みー君の起こした風に目を閉じ、サキの炎に当てられた。マイが影で操っていた人形が炎で燃え尽きる。


 「っち……。」

 マイが呻いたと同時に弐の世界が消え、元の世界に戻った。


 「あんたの攻撃なんて効かないよ。あたしらを誰だと思っているんだい?」

 サキがマイに向かい剣を振り上げそのまま叩きつけた。


 「ぐっ……。」

 マイは地面に叩きつけられ低く呻いた。


 「サキ、だからやりすぎだ。」

 みー君は元の青色の瞳に戻っており、サキを呆れた目で見つめた。


 「手加減の仕方が相変わらずわからないよ……。あたしは。」

 サキはどこかスッキリした顔で剣を消した。


 「しかし、危なかったな。完全にハマる所だった。サキ、お前の威圧が俺の神格を呼び戻した。自分の神格を忘れたままだったら術にハマってた。今回は怒っていたお前のおかげだな。」


 「ああ、だからなんかスッキリしているんだね。あたしは。」

 「自覚なしかよ……。」

 サキのスッキリした顔を眺めながらみー君はため息をついた。


 「まあ、でも運命神が最後頑張ってくれたから助かったよ。」


 サキが微笑みながら運命神を見つめた。運命神は立ち上がる事ができずに松の木にもたれかかっていた。


 「おい。大丈夫か!チート技を二回も使うから……。」

 「みー君、あれはチート技じゃないよ……。」

 みー君とサキは慌てて運命神を抱き起した。


 「ああ……ダメだ。もう動けない。」


 運命神は頭を抱えながら呆然と暗くなっていく空を眺める。もう星がちらほら出て来はじめていたがまだ明るい。


 「お前のおかげでマイをおとなしくできた。」

 みー君は倒れて動かないマイを横目で見つめる。


 「……だが、マイをおとなしくさせても……運命は……。」

 運命神は沈んだ顔で神社の敷石に目を落とした。


 「……。」

 サキは何も言えなかった。二人に信じてと言ったがちゃんとした解決策はまだない。サキは考えを巡らせていた。


 「サキ様!」

 しばらく考えているととても聞き覚えのある声が近くで聞こえた。


 「ん?」

 サキが目を向けるとサルが頭を垂れていた。


 「サル?なんだい?あたしはあんたを呼んでないよ。」

 猿は太陽神の使いだ。鶴と同様だが猿は太陽神にしか仕えない。


 「何を呑気な……。もう太陽が沈むでござる!急いで太陽へ戻るでござる!」

 「あ……。でもあたしはさ、今、竜宮に監禁されてて……。」


 「どこが竜宮に監禁されているでござるか!思い切りここは壱の世界でござる!」


 サキ達太陽神は太陽と共に動く。太陽と月は反転の世をまわっている。


 反転の世とは陸の世界である。太陽と月は壱と陸に一つしかない。


 壱に太陽が出ていたら陸に月が出ている。つまり、サキ達太陽神はこれから太陽が登る陸の世界へいかなければならない。


 陸の世界も壱の世界と同じ世界であり、ただ昼夜が逆転しているだけだ。太陽神は太陽にしかいないため、壱の世界に残ってしまうと陸の世界に太陽神がいなくなってしまう。


 「とりあえず早く戻るでござる!」

 「ちょっと待っておくれよ……。あたしにはやる事があって……。」

 サキはとりあえずみー君を見つめる。


 「大丈夫だ。お前はもう太陽に帰れ。ついでだ。そこの龍神も連れてってやってくれ。太陽の宮、えーと暁の宮で休ませてやってくれ。そいつは今回一番不幸な神だ。そして後はお前次第だ。」


 みー君の意味深な言葉にサキは首を傾げていたがすぐに気がついた。


 「なるほど。うまくこの龍神使って天津を何とかしろとね?あったまいいじゃないかい。みー君。……それで……。」

 サキは大きく頷いた後、控えめにみー君を見つめる。


 「こっちは問題ない。あのヒコさんとやらと娘を助ければいいんだろ?俺に任せろ。」


 「頼もしい。じゃあ……頼むよ。あたし、あの子達に信じろって言って来ちゃったからさ。」


 「お前、さっきそんな事を言いに行ってたのか……。」

 サキの真剣な表情にみー君はふうとため息をついた。


 「サキ様!」

 「ああ、わかったよ。行くよ。じゃあ、あの子、連れて来て。」

 サキは地味子をダッコするようにサルに頼んだ。


 「了解でござる。」

 サルは素直に地味子を抱き上げると歩きはじめた。


 「このままのスピードで間に合うかい?」


 「神社の階段下に駕籠を待たせているでござる。今回は鶴に頼み、最速で太陽に帰る計画で進んでいるでござる。」


 「あーそうかい。」

 サキはどこかうわの空でサルに続き歩き出した。




 みー君はサキがどこかせつない顔で去って行くのをじっと見つめていた。


 ……あいつは本当にあの少年を助けたいみたいだな。自分の事もそっちのけてさ。


 みー君はふうとため息をつくと肩で息をしている運命神に目を向けた。


 「お前はそこで休んでな。ここからは俺の仕事だ。」

 「……?」


 運命神は声を発する事もできないくらいの疲労に襲われていた。当然立つ事もできない。


 みー君はもがく運命神をよそにマイに近づいた。

 しゃがみこみ、呻いているマイの髪を乱暴に掴む。


 「……お前、俺に何をした?許される行為じゃねぇよな。それとこの手の厄を引き受けるのは俺の役目じゃないが他の厄神がお前の自己中心の厄の処理をするんだ。


 お前はただ楽しんだだけだがお前はこの厄の処理、できるのか?お前には荷が重すぎる厄だ。俺にした行為とプラスして後先考えない厄の処理。お前どうするつもりだ……。」


 みー君の瞳が赤く輝く。禍々しい気がマイを包み込む。マイはこの厄神は制御できないと悟った。


 「まったく……エラいのをつれてきてしまった……。少し演劇にスリルを求めすぎたか……。」


 「まだ言うか……。まあ、いい。共に来てもらおう。」

 マイは顔をしかめたがみー君に無理やり起こさせられた。


 「ああ、身体中が痛い。」


 「だろうな。あの太陽の姫君は手加減を知らない。悪いが俺も死なない程度の手加減しか知らない。逃げ出そうとか考えたら身体のパーツが無くなる事を覚悟するんだな。」


 みー君は薄い笑みを浮かべながらマイを睨んだ。マイは怯える風もなく答える。


 「貴方じゃわたしの身体に傷をつける事もできないだろう。なぜなら貴方は紳士だからだ。」


 「ふん。どうかな。」


 「わたしの髪を掴み、わたしが少し痛そうな顔をしただけで貴方は動揺していた。顔に出ていたぞ。お面をかぶった方が良かったんじゃないか?」

 マイがケラケラ笑っているのでみー君も笑った。


 「とりあえずお前に逃げる意思が無い事はわかった。芸術神は単純で馬鹿な奴が多いから困るぜ。」


 みー君はそうつぶやくとマイを連れ、歩き出した。


 神社内は遠くに聞こえる人の声のみで後は虫の鳴き声が響いていた。暗くなってきた神社はもう松の木にもたれかかっている運命神一人となった。


 ……天御柱……お前、何をするつもりだ。お前は厄神だ……お前が行ってもあの子達の厄が大きくなるだけだ……。


 運命神は声にならないうめき声を上げながら去って行くみー君に手を伸ばした。運命神の手は届く事はなく空気を掴むのみだった。


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