かわたれ時…2織姫と彦星の運17
地味子は無数の雷を操り、容赦なくサキ達にぶつける。竜巻を起こし、雹を降らせ、散々に暴れていた。何の声も出さず、表情も変わらずに地味子は動く者相手に攻撃をしている。
「みー君!」
「なんだ?」
「あたし、雷ダメなんだよ……。なんとかならないかい?」
サキはゴロゴロ鳴り、ピカッと光る雷にビクビク怯えながらみー君を見上げた。
「雷は全部俺が当たってやるからお前はそのままヤモリと戦え。」
「みー君……あんた、冷たいね。もっとこう……僕が耳を塞いであげる、もう怖くないでしょとか言ってみたらどうだい!できれば天御柱様で!それか勇敢にもう雷やめてください!とか!できれば天御柱様で!」
呆れた顔をしているみー君にサキはブスッとした顔でつぶやいた。
「アホか!こんな状況でそんな事やれるか!お前の余裕あるなしは相変わらずわからないな。頼むからこんなところであのゲームを持ち出さないでくれ!それにあれに雷やめてくださいって言っても意味ないしな……。それより雹だ。こいつは痛い……。」
みー君はサキの頭上を両腕で覆い、傘の役割をしてやっていた。
「みー君、あんた、不器用だね。そういう優しさがあたしは好きなんだよ。」
「うるせぇよ!」
サキの発言にみー君は照れながら叫んだ。
「いいよ。みー君にばかり頼れないからあたし頑張るよ。まあ、どうあれヒコさんを助けるっていうのは変わらないしねぇ。」
「じゃあ、俺はお前のまわりを風で覆って雹に当たらないようにしてやる。で、雷は俺が全部あたってやる。」
サキはみー君の言葉にうんうんと頷くと地味子に向かい飛んで行った。みー君はすぐにサキの身体を風で覆い、雹を弾き返す。襲ってくる雷をすべて自分からあたりに行った。
「やっぱ痛いな……。」
みー君は元々風なので雹などの攻撃はあまり効かない。しかし、雷は効いてしまうらしい。対したダメージではないが痛みを伴うようだ。
「みー君、やるねぇ!かっこいいよ。」
「お前は呑気でいいよな。」
剣を振りかぶるサキにみー君はため息をついた。
「さあ、ヤモリ。ちょっとおとなしくしててもらおうかね!」
サキは剣を地味子に向け薙ぎ払う。地味子は水の剣を使い、サキの剣を受ける。
しかし、地味子は運悪く、水の剣を落としてしまった。サキは好機だと判断し、炎を巻きつけた剣を思い切り振りかぶった。地味子はまたまた運悪く水の剣を拾おうとしてサキの炎に気がつかずにあたった。
「!」
そして気がついた時にはもう遅く、地味子はサキの剣に叩きつけられた。地味子は運悪くサキにやられた。
そして地味子は元の地味子に戻った。意識は戻っていない。
「あれ?けっこうあっけなかったねぇ……。あたしが強すぎたのかね?」
サキは呆然とその場に立ち尽くしていた。ここまで簡単に倒せるとは思っていなかったのでやや本気でぶつかってしまったのだ。
「馬鹿言うな。お前の力も相当なものだが今回はあそこで苦しそうにしている奴のおかげだな。」
みー君は心配そうに運命神を見つめていた。
「運命神?大丈夫かい?」
サキは慌てて運命神の元へ駆け寄る。地味子は大丈夫そうだったので放っておいた。
「いや……しかし、この龍神もとんだ災難だな。俺はかわいそうでならないぜ……。」
みー君はサキとは逆に地味子の方へと向かった。
「大丈夫かい?運命神!」
運命神は肩で息をしていたが大丈夫そうだった。サキは運命神を立たせてやった。
「大丈夫。ありがとう。」
運命神は一言サキにお礼を言うと眼帯を震える手で付けなおした。かなりの疲労感が彼を襲っているらしい。
サキが背中をさすってやっている間、みー君が地味子をダッコして歩いてきた。
「みー君、彼女の方は大丈夫かい?」
「大丈夫そうだ。怪我はしていない。気は失っているがな。」
心配そうに見上げるサキにみー君はため息と共につぶやいた。
「運命神、あんた、何をしたんだい?」
サキはだんだんと呼吸が戻ってきている運命神に尋ねた。
「ああ。地味子の運命を少しいじらせてもらっただけだ。」
「そんな事ができるのかい!」
サキの驚いた声を聞いて運命神はふうとため息をついた。
「さっきも説明したがいじれるのは神だけでしかも一日二回だ。」
「ごめん。全然聞いてなかったよ。」
サキの言葉に運命神はさらにため息を重ねた。
「とりあえず、この女は寝かせておくのか?お前、まさかわざと挑発したんじゃないよな?」
みー君が地味子を寝かせながら運命神を仰ぐ。運命神は頭をポリポリかきながら控えめに頷いた。
「寝ててくれた方がいいと思ったんだ。僕に戦闘の技術はないからあんた達に倒してもらう予定だったんだよ。地味ちゃんは地味に強いからね。怪我しないようにさ、『怪我しないように負ける』ってレールを彼女に引いたんだ。」
「お前なあ……。」
あきれ顔のみー君を見ながら運命神は申し訳なさそうに下を向いた。
みー君が他に何か言葉を発しようとした時、足音がしている事に気がついた。
「おい……誰か来て……。」
みー君がそう言った時、聞き覚えのある声が後ろでした。
「な、何これ……?」
サキ達は咄嗟に声の聞こえた方を向いた。真っ白な空間の視界の先では少女と少年が驚いた顔で立っていた。シホとコウタだ。
「まずい!霊的空間である結界を張ったままだからあの人間達に俺達が見えちまう!物の破壊以外考えてなかったからあの子達は簡単に入って来れたのか。すぐに解除を……。」
みー君が鳥居に向かい走り出したが運命神が止めた。
「待ってくれ。僕は彼女達に話がある。あんた達はどこかに隠れていてくれ。」
運命神は静かにそう言った。
「じゃあ、あたしも隠れてた方がいいのかい?」
「当たり前だろ!もともと見えない存在が見えたらまずいんだよ!まあ、お前は人間に見えるけど一応な!」
みー君がぼうっとしているサキを引っ張り、地味子を抱えるとぼんやりとだけある鳥居の後ろに隠れた。
「みー君、そんなに人間に怯えなくてもいいんじゃないのかい?」
「お前がいたらややこしくなるだろうが。それに俺は人間に不幸をもたらす存在だ。下手な干渉であの子達が酷い事になったら困るだろう。」
みー君はどこか必死にサキに向かい語っていた。
「ああ、なるほど。あんたのそういう所、あたしはけっこう好きだよ。」
「お前、なんでもストレートなのな……。」
サキはニヤニヤと笑いながらみー君を見つめる。みー君はプイッとそっぽを向いてしまった。
二人がこそこそと隠れている中、運命神は少年少女の方へ向かっていた。




