かわたれ時…2織姫と彦星の運11
「くそっ!強ええ……。」
「みー君!血だらけじゃないかい!死なないでおくれよ!」
サキとみー君は飛龍を相手に苦戦をしていた。サキは先程の能力は消えて今は戦力にはなっていない。
みー君がサキを守って戦っているだけだ。龍になった飛龍は尾を鞭のようにしならせみー君達を襲う。
みー君は風に近いため、当たる事はないが隣にサキがいるため、完全な人型となって攻撃を受けている。そのために本来打撃が当たらないはずのみー君はボロボロだ。
飛龍がまたも火を吐く。みー君はサキを連れて逃げようとするがまわりは炎の海で逃げる場所が見つからない。
「みー君!あたしが頑張るよ!」
「サキ!?」
サキはみー君の前に悠然と立つと剣を構えた。
「火は怖くないよ。どんな火も太陽の炎に勝てるわけない。」
サキは飛龍の炎を一身に浴びた。
「おい!」
みー君は慌てて叫んだがサキは何事もなかったかのようにその場に立っていた。飛龍がまき散らした炎はすべてサキのまわりに集まっている。しばらくして炎はエネルギーとなりサキを包み込んで消えた。
「炎関係の攻撃はあたしには効かないね。むしろ力をくれるものさ。」
「できんなら最初にあいつが火吹いた時にやれよ……。」
「あの時は驚いててみー君を盾にする事しか思い浮かばなかったよ。」
「……お前……。」
サキが真顔で言うのでみー君は頭を抱え唸った。
「……みー君、ごめん。」
サキはみー君にあやまったがみー君は複雑な表情で飛龍に向かいカマイタチを飛ばした。
カマイタチは飛龍に当たる事はなく遠くの壁を破壊して終わった。
「とりあえず、勝つぞ。あいつ、なんかよからぬ事を隠してそうだ。」
「あの巨体なのになかなか身軽だねぇ……。やっぱ勝てる気がしないよ……。」
サキの気持ちは相変わらずがた落ちだ。勝とうという気持ちもはじめからない。みー君はなんとかサキのやる気を出そうと必死になっていた。
「サキ!飛龍に勝ったら俺がジャパゴの天御柱のマネしてやる!」
「え!ほんとかい!ふふ……。みー君のモノマネ……見たい!」
サキの身体から炎が溢れ出す。どうやら気分が上がってきたらしい。
『……っ!まじかよ!』
飛龍はサキの力を見、動揺していた。みー君の風の力でサキは自由に空を飛べるらしい。サキは飛べる事になんの違和感も覚えていないのか爛々と輝く目で飛龍に向かい飛んで行った。
「おいおい!待て待て!あんまり突っ込むな!危ないだろ!」
みー君は慌ててサキを追う。
……まったくさっきとまるで別神だ……。アマテラス大神が出ているのか?
サキは剣に炎を纏わせかなり大きな剣を作り上げた。飛龍の爪をその剣で軽々と弾く。もう片方の爪もサキは軽く避ける。
「おう……すっげえ……。」
みー君は唖然としていたがすぐに我に返り、飛龍に向かいカマイタチを飛ばす。今度のカマイタチは飛龍にうまく当たり、HPを減らしていた。みー君は先程までサキを守って戦っていたため、HPの消費が激しくもうあまり動けない。
……今のうちに大技の準備しておくか。
みー君はずらしていた仮面をつけ、座禅を組んで神力を高めはじめた。
『楽しくなってきたな!ははは!』
飛龍がサキ目がけてしなる尾を振り上げる。サキは剣で受け止めるがあまりの勢いに吹っ飛ばされて壁に激突した。かなりのダメージのはずだがサキのHPはほとんど減っていない。
「みー君のモノマネ!あたし、頑張る!」
サキは破壊された壁の一部に足をかけると風の力を利用して飛龍に飛んで行った。
……なんというか……やっぱりあいつは単純なのか馬鹿なのか……。
みー君は呆れながら様子を見ていた。もうあまり心配しなくてもよさそうだ。
サキは大きくなった剣を振り回し飛龍を攻撃している。飛龍も応戦し、サキのHPも徐々に減ってきていた。
画面には沢山のギャラリーがこちらを向いて応援していた。ときたま大きな歓声が上がる。
『クワトロは『し』!つまり死……!安全に死闘ができるアトラクションだ!ははは!』
「全然安全じゃないよ!痛いし。」
二人は会話をしながら激しく打ち合いをしていた。
「サキ!いったん離れろ!」
刹那、みー君が叫んだ。サキはとっさに飛龍と距離をとり、みー君を見た。みー君は仮面をかぶったまま右手を上にあげていた。
『なんだ?』
飛龍は何かを感じ取ったのかあたりの様子をうかがっていたが上に気を配ってはいなかった。飛龍の上には真黒な厚い雲が渦巻いていた。
「喰らえ!」
みー君が右手を思い切り下げた時、飛龍の上に集まっていた黒い雲から雷が放たれ飛龍を貫いた。
『ぐあっ!』
一発で感電死しそうな電気が飛龍を襲う。その後、みー君がまたも手をあげる。すると今度は下の地面から竜巻が発生した。竜巻はすべて刃がついているのか飛龍の身体を斬りきざんでいく。
「み、みー君!やりすぎだよ!死んじゃうって!」
「大丈夫だ。」
サキが慌ててみー君に掴みかかる。しかし、みー君はひどく冷たい瞳でサキを見つめた。まさに鬼神といった表情で感情も何もない。これがみー君の本性だろう。
「みー君!しっかりするんだよ!」
サキの呼びかけにも反応を示さず、みー君は風の力で瓦礫を持ち上げ飛龍にぶつけた。雷と針のような雨が再び飛龍を襲う。
「みー君!これはゲームなんじゃなかったのかい!」
「はっ……。」
サキがみー君の肩を思い切り揺すった事により、みー君の集中力が切れた。みー君は手をそっと降ろした。
「どうしたんだい?みー君らしくない。」
「……。俺は鬼神だから……厄神なんだ。ちょっと集中力を高めただけで鬼神に戻っちまった。危なかったな。サキ、悪い。」
みー君はひどく沈んだ顔でサキを見つめた。
「あんたの神格は良く知っているから別になんとも思わないけどさ、あんたはちゃんと祭られているんだから勝手に鬼神になっちゃダメじゃないかい……。」
「ああ。悪い。」
サキの戸惑う顔を見ながらみー君は頭を抱えてあやまった。
『いってぇ……。容赦ねぇなあ。』
竜巻も何もなくなってから飛龍が力なくつぶやいた。HPはまだかろうじて残っている。
「とどめはあたしがやる!」
サキはすばやく飛んでいき、炎を纏った大きな剣を飛龍に素早く振り、飛龍を叩きつけるように袈裟に斬りつけた。
『ま、マジかよ!ぐはあ!』
飛龍は口から炎をまき散らして人型に戻った。飛龍の傷はかなり重い。意識を失っているようだ。
「お前もやりすぎだ!」
みー君は慌てて飛龍の元へと走って行く。
「力の制御がまったくできなかったよ……。」
サキも動揺した頭でみー君を追い走り出す。みー君は飛龍を抱き起し、必死に声をかけた。
「おい!しっかりしろ!死ぬな!」
「飛龍!起きておくれ!」
二人は飛龍に向かい何度も声掛けをした。
「あー……うるせぇな。」
二人がしばらく叫んでいると、鬱陶しそうに声を発しながら飛龍が目を開けた。
「あんたらさ、あたしの事を心配すんだったらはじめから殺す気で突っ込んでくるんじゃねぇよ。」
飛龍は何事もなかったかのようにみー君から離れて立ち上がった。
「あれ?」
サキとみー君は目をパチパチとさせて飛龍を見つめた。飛龍の傷はきれいさっぱりなくなっていた。画面でギャラリーの歓声が響いている。
「何驚いてんだよ。最初に言っただろ。これはゲームだ。怪我してもバトルが終わったらもとに戻るってな。」
飛龍は豪快に笑った。顔はどことなくスッキリしているようだ。
「あんた、いつもこんな事をしているのかい!もっと肌を大切にしないとさ……。せっかくいいもん持っているんだから傷つけたらもったいないじゃないかい!」
サキは飛龍に詰め寄った。
「近っ……。あたしはもういいんだよ。この仕事、シュミみたいなもんだし。戦った後は全部もとに戻るしな。あたしはあんたよりも遥かに生きている。古代の人間があたしを信仰していたんだ。そんだけ昔の龍さ。今更男神を誘惑しようとか思ってないからどーでもいいんだ。まあ、子供ならあいつの子がほしいかな。強い龍神の子が……。」
飛龍がどこか遠くを見る目で笑った。
「まさか……あんた、天津を狙っているのかい?」
サキの言葉で飛龍はまた微笑んだ。
「まあ、オーナーの母上の前でこんな事をいうのもあれだがなぁ。」
「はっ!」
飛龍の言葉にサキは気がついた。
……そうだ。天津彦根神は……アマテラス大神の第三子……。つまり……あたしがアマテラス大神とほぼ同化しているという事はあたしの……子供!?天津が!?
「いやいや……。あたしとアマテラス大神は別神だし……ただ、あたしがアマテラス大神の力を受け継いだだけで……。だいたいあたしはエッチもした事ないのに子供なんてありえない!断じてありえない!」
「おい。思っている事が声に出てるぞ。」
「はっ!」
みー君に突っこまれサキは慌てて口をつぐんだ。思っている事を口に出してしまったらしい。
「まあ、あれだ。とりあえず飛龍が無事だったからいい。例の特典を見せろ。」
みー君は呆れながら飛龍に向き直った。
「特典か。あれ、見せたくねぇんだけどな。まあ、負けちまったし……しょうがねぇか……。クワトロ……つまり肆の世界のなんからしい。じみ……あ、いや……なんでもない。」
「じみ?」
飛龍は慌てて立ち上がるとこちらへ来るように促した。
「いいから早く来いって。後ろつっかえてんだから。」
「ああ、俺達の後にも客がいるんだったな。」
飛龍が逃げるように走って行ったのでみー君は追いかけようとしたが視線を感じ、ふとサキに目を向けた。
「おい。どうした?」
「みー君、約束を忘れてないかい?」
サキがブスっとした顔でみー君を見ていた。
「あ……ああ。や、約束な。……覚えてやがったか……。余計な事言ったな……俺。」
「みー君、声に出てるよ。」
サキの睨みが強くなったのでみー君は飛龍を気にしつつ一つ咳払いをした。
「……わかった。やる。やるから……。」
みー君はサキになだめるように言うと風のようにその場から消えた。
「!」
サキが驚いていると目の前にサキが大好きなジャパゴキャラの天御柱神が現れた。みー君は風である。もともと実態はないが人間に信仰されていく上で人型という形をとっていた。故に姿を簡単に変える事ができる。
「うわお!」
サキが変な声を出し感動しているのを確認してからみー君はやたらイケメンにつくられた顔をそっと触わる。
「サキさん。僕は怖いよ。夜一人で寝られないんだ……。一緒に寝てくれるとうれしいな。怖い夢……見ちゃったんだ。僕ね……サキさんが一緒に寝てくれたら落ち着くんだ。ねぇ?こんな鬼神イヤ?」
声もジャパゴの天御柱神そのものだ。ゲームからそのまま外へ飛び出した感じだ。
「おおおお!イヤじゃないよ!大好きさー!」
サキはみー君である天御柱神に勢いよく抱きついた。
「ちょっ……。あーっ!もうダメだ!」
みー君は焦り、慌てて元のみー君に戻った。
「なんだい……。もう終わりかい?」
「終わりだ!」
サキはつまらなさそうにみー君から離れた。みー君は気持ち悪そうにゲーゲー言っていた。
どうやらこんな事をいままで言った事がなかったのでみー君自体、相当まいってしまったらしい。
遠くで飛龍が爆笑している声がする。
「あっはっはっは!なんだ?そりゃあ?お前に似合わない気持ち悪さだぜ。気持ちわりぃ!」
「う、うるさい!そんな事わかってる!」
みー君は顔を赤くしながら飛龍がいる場所へと歩いて行った。
「みー君!すっごい似てた!そのままって感じだったよ!また今度やっておくれ!」
サキがやたら興奮している中、みー君は呆れながらつぶやいた。
「今度な。お前がかわいくおねだりしたらやってやってもいい。」
「ふむ。」
……って……俺が言った言葉なんか変だぞ。何が『かわいくおねだり』だ……。あいつがかわいく言ったら俺はあれをやるんだぞ!何言ってんだ俺。
ダサい!こういうセリフはここで言うもんじゃない。もっと俺がカッコよく引き立つ場面で言うべきだった!て、訂正しよう!
「な、なあ、サキ……。」
「どうしたのぉ?みー様ぁ。」
サキはみー君を潤んだ瞳で見つめながら似合わないセリフを吐いた。
「うっ……。」
みー君は思い切り詰まり、額に謎の汗をかきながら困っていた。
「冗談だよ。気持ち悪い。」
サキはさらっと元に戻ると飛龍の方へと歩いて行った。
「……だよな。びっくりした。」
みー君はどこかほっとした顔でサキについて歩き出した。




