かわたれ時…1月光と陽光の姫5
避けながら観察している内に原型が見えてきた。
「……爆弾?」
何かは絵で描いたような爆弾の形をしていた。子供用のゲームとかでよく見るシンプルな形をした丸い爆弾だ。
……絵で描いたかのようだね。得体が知れない。これも術の影響なのかね。
サキが考察している最中、みー君が爆弾を軽やかに避けながらサキの元まで戻ってきた。
「俺達はこの見える範囲の場所以外は動けないようだ。完全に外と遮断されている。」
「まいったね。一体こんな事するのは誰なんだい?……ん?」
サキがふと横に目を走らせた時、黒い達筆な文字が空間に浮かんでいた。
「芸術神ライ?サインかこれ?なるほど。なんとなくわかったぞ。ここは絵の中だ。芸術神ライって奴の術の中だ。」
「芸術神かい……。あいつらは人間の妄想とか心とか心霊の世界、弐の世界を作ったりできるって聞いた事があるよ。芸術神にアイディアを願った人間に自身のアイディアを渡し、お代として信仰心をもらっているって言う……。」
サキは不安げな顔でみー君を見た。みー君の表情はお面のせいでわからない。
「じゃあ、ここはなんだかわからん不安定な弐の世界なんだな。絵の中って事はたぶん、これは紙だろ?輝照姫、燃やしてしまえ!」
「燃やすって火で囲めばいいのかい?ホントに大丈夫かねぇ……。あ、それからあたしはサキでいいよ。」
サキはそうつぶやくとみー君の言った通り、手から炎を出現させるとあたりを覆った。炎は勢いよくあたりに広がった。
「暑いな……。しかし、よく燃える。」
みー君は手でパタパタとあおぎながらまわりを見回す。しばらくすると砂で描いた絵が水で流されるように風景が消えて行った。サキの炎もいつの間にか消えていた。
気がつくとどこかの神社にいた。
「?……さっむっ!」
炎が完全に消えた時、刺すような寒さが二人を襲った。よく見ると雪が降っている。
「ふむ。現世の神社だな。今年は記録的豪雪らしいぞ。この辺は雪国じゃないから大変だな。」
みー君は雪を眺めながら一人頷いた。
「厄災の神に心配されるなんてね……。」
「ま、なんだかわからないが術から抜けたようだ。もうあの駕籠は使えんな。ボロボロだ。見ろあれ!はっはっは!」
みー君は楽しそうな声で修復不可能な駕籠を眺めた後、サキに目を向けた。
「ああ、もうやだよ……。もう、現世なら太陽へ行く門を開いてさっさと帰ろう。」
サキは大きくため息をついてから歩き出した。
「ん?どこ行くんだ?」
「太陽へ行く門を開くには日の神格を持っている神が住む神社でないと門を開けないんだ。」
「ふーん。なんだかわからないがついてくぜ。」
サキに続き、みー君も歩き出す。
「おい。というかこの神社は違うのか?」
「安産祈願って書いてあるじゃないかい……。ここには日の神はいないよ。」
サキは何本も立っている旗を指差す。その旗には安産祈願と書いてあった。
「そうか。じゃあ、ついでだからなんかゲームを買ってもいいか?」
みー君は声を弾ませてサキに詰め寄ってきた。
「なんのついでだかわかんないけど、せっかく現世に来たし、あたしも寝間着買いたいしねぇ……。とりあえず寒いから服着替えよう。」
サキは両手を広げて着物を排除するとショッピング用のオシャレな服に戻った。
「男の前で着替えるなんてお前、けっこうチャレンジャーだな。」
「別に裸になるわけじゃないんだからいいじゃないかい。」
「若さがねぇな。」
「うっさいねぇ。」
サキはみー君の言葉を軽く流しながら神社の階段を降りる。
「!」
神社の階段を降りている最中だった。突然、また風景が揺らぐ。みー君はサキを抱えると神社の階段から舞うように飛んだ。
「うわあああっ!」
みー君は叫ぶサキに耳を塞ぎながら一気に階段を降り、地面に足をつけた。
「びっくりした。あんた!何やってんだい!危ないじゃないかい!」
「いやあ、危なかったのは違う方向で危なかったぞ。はっはっは!」
みー君は楽しそうに笑いながら真っ青なサキを降ろすと神社の階段を指差した。
「え……?」
サキの身体からじわりと冷や汗が出てきた。神社の石段は知らぬ間に針の山に変わっていた。
「串刺しでゲームオーバーになってたなあ。ゲームだとあれだな。この針が出たり引っ込んだりしてタイミング合せて飛んで……」
「なんであんたは楽しそうなんだい……。もう身が持たないよ……。」
みー君は針の山に感心しており、サキは単純に生きていた事を喜んだ。
「ここもあれだ。芸術神の絵らしいなあ。」
みー君は横にある黒い文字を指差した。
「また芸術神ライってやつのサインかい……。一体何の嫌がらせなんだい。これは!」
サキはイライラしながら先程と同様、周りに火を放った。
「おお。今回はいきなりやるんだな。もっと探索してからのが面白いと思うぞ。」
「いんや、もういい。あたしは疲れた。」
サキはさらに炎を増やす。どんどん熱が上がっていき、あたりは蒸し風呂状態になっていた。
「暑い……。おかしいな。風景が消えない。」
みー君は手でパタパタとあおぎながらあたりを見回している。
「確かにおかしい。どんどん暑くなっていくだけだね。なんか対策でも立てたのかね……。」
サキは頬に垂れる汗をぬぐいながら激しさを増す炎をじっと凝視していた。
「今度は紙じゃねぇな。熱がこもっているって事は鉄とか石とかなんかに絵を描きやがったな。」
「なるほどね。そう言う可能性もあるのかい。いったん炎を消すよ。」
サキは一瞬で炎を消して見せた。徐々に温度が下がっていき、しばらくすると元の寒さに戻った。
「とりあえず出られる場所を探すか。……ん?」
みー君は上から飛んでくる何かに気がついた。とりあえずサキを抱え、走り出す。
「またなんかあったのかい?」
サキがみー君に抱えられながらつぶやいた。
「ん?わからん。」
みー君が走り出した場所から狙いを定めるように何かが爆発した。狙いを定められているらしくみー君は足を止める事ができない。止まったところで爆発物が命中するからだ。何が飛んできているのかはわからない。
「あんた、けっこう反射神経とか凄いんだねぇ。走るのも速いし。」
「見直したか?おおっと。」
みー君は大きく空を飛んだ。目の前に大きな落とし穴があり、その落とし穴の中から針が覗いていた。
「ひぃ……。あ、あんたが頼りだよ……!ほんと頼りにしているよ!」
サキは顔を強張らせながらみー君を見上げた。
「おお!リマオだ!俺はリマオだ!ははっ!最上級のスリルだ!」
サキとは正反対にみー君はとても楽しそうだった。落とし穴がみー君の心に火をつけてしまったようだ。
……ワイズ……確かに彼はやり手だが……これは嫌がらせにしか思えないよ……。
サキはため息をつきながらこの状況をどうするか必死に考えていた。




