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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『勇者転入(ハードモード)編』

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第23話:『茶道部(デス・カフェ)は、致死量カフェインの蠱毒皿』

「茶をしばくぞ」


放課後の廊下で、リュウガが短く告げた。 ヒカルは首を傾げる。


「誰を殴りに行くんですか?」


「違う。言葉通りの意味だ。……我々はこれより『茶道部』へ殴り込みをかける」


リュウガは、懐から「マイ湯呑み(龍の刺繍入り)」を取り出した。


「茶道とは、静寂の中で精神を研ぎ澄ます、一種の『瞑想戦闘』だ。……カフェインという名の劇薬を摂取し、覚醒状態に入る。これぞ、悪の組織に相応しいドーピング行為だろう」


「なるほど! 抹茶でハイになるんですね!」


「そういうことだ。行くぞ」


三人は、和室のある別棟へと足を踏み入れた。 障子を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。


畳が敷き詰められた部屋の中央に、巨大な釜が鎮座している。 そこから立ち昇るのは、湯気ではなく、紫色の毒々しい煙だった。


「あら、いらっしゃい……。迷い込んだ子羊たち」


釜の前に座っていたのは、白無垢を着た能面のような無表情の女。 茶道部部長、千利休子せんの・りきゅこ。 彼女の手には、茶筅ちゃせんではなく、明らかに「ドリル状に改造された撹拌機」が握られていた。


「入部希望かしら? それとも……『潰し』?」


「一服いただきに来た。……一番強いヤツを頼む」


リュウガが胡座をかいて座る。 その殺気に呼応するように、利休子の目が怪しく光った。


「結構。……ただし、当部の作法ルールに従っていただくわ。茶を飲み干せなければ、その茶碗と共に砕け散りなさい」


ゴゴゴゴゴ……!


利休子がドリル茶筅を高速回転させる。 釜の中の液体が渦を巻き、遠心力で「抹茶」という名のヘドロが生成されていく。 それは通常の500倍の濃度に凝縮された、致死性カフェイン溶液。


「どうぞ。……『地獄の濃茶ヘル・エスプレッソ』です」


ドンッ!! 差し出された茶碗から、バチバチと放電音が聞こえる。


「ほう……。いい色だ」


リュウガは顔色一つ変えず、茶碗を手に取った。 彼にとって、これはただの飲み物ではない。「我慢比べ」という名の決闘だ。


「いただきます」


リュウガが一気に飲み干す。 ジュウゥゥゥ!! 喉が焼け焦げる音がした。


「ぐっ……!?」


リュウガの全身の血管が浮き出る。 猛烈な覚醒作用が脳を直撃し、心拍数がbpm300まで跳ね上がる。


「ガハッ……! 苦い……! だが、この苦味こそが……世知辛い世の中そのもの……!」


リュウガは血の涙を流しながらも、茶碗を置いた。


「結構な……お点前で」


耐えた。 致死量を摂取しながらも、彼の「不良の意地(やせ我慢)」が毒性をねじ伏せたのだ。


「あら、やるわね。……次は貴女よ」


利休子がシオンを指差す。 シオンは優雅に扇子を広げた。


「野蛮ね。私は『お菓子』からいただくわ」


彼女が手を伸ばしたのは、茶菓子として出された「和三盆」。 だが、それは砂糖の塊ではなく、圧縮された「高純度火薬」だった。


「――『甘美なる爆発スイーツ・ボム』」


シオンが口に入れた瞬間、口内で小規模な爆発が起きた。 ボフッ!! 彼女の口から黒煙が漏れる。


「……ンッ。少し、刺激が足りないかしら」


シオンは涼しい顔で爆炎を飲み込んだ。 「お嬢様教育」で鍛えられた彼女の舌は、毒も火薬もスパイスとして処理する。


「化け物揃いね……。なら、最後は貴方よ」


利休子がヒカルを見た。 ヒカルは震えていた。 彼は転生者だが、ただの元・苦労人だ。毒耐性などない。


「ひぃっ……! 無理です! 俺、カフェインで胃が荒れるタイプなんです!」


「逃げ場はないわ。……さあ、飲みなさい。特製の『抹茶・インフェルノ』を」


利休子が突き出したのは、煮えたぎるマグマのような液体。 飲めば死ぬ。直感がそう告げている。


その時、ヒカルの脳裏に、前世の記憶が蘇った。 病弱な母が、震える手で淹れてくれた、恐ろしく不味い青汁のこと。 「健康のためだから」と言って、泣きながら飲んだあの日々。


(そうだ……。母さんの青汁に比べれば……こんなもの!)


ヒカルは覚悟を決めた。


「飲みます! いただきます!!」


ヒカルは茶碗を掴み、一気飲みした。 熱い。痛い。苦い。 内臓が溶けるような感覚。


だが、ヒカルは叫んだ。


「うおぉぉぉぉ! 懐かしい味だぁぁぁ!!」


「なっ……!?」


利休子が驚愕する。 この猛毒を「懐かしい」と言い切る精神性。 ヒカルの身体から、黄金のオーラが立ち昇る。 それは毒による発光現象だったが、見た目には「スーパーサイヤ人」のような覚醒状態だった。


「みなぎるぅぅ! 今日なら徹夜でゲームができるぞぉぉ!」


ヒカルは空になった茶碗を床に叩きつけた。 パリーン!!


「結構なお点前でしたァ!!」


三人は立ち上がり、勝ち誇った顔で利休子を見下ろした。


「勝負あったな。……我々の胃袋は鋼鉄製だ」


その時、障子がガラリと開いた。 清掃用具を持った田中が入ってくる。


「あー、お前ら。何やってんの」


田中は、部屋に充満する紫の煙と、床に散らばった茶碗の破片を見た。


「ここ、産業廃棄物の処理場じゃないんだからさ。……あと、その液体、下水に流すと環境基準に引っかかるから、ちゃんと凝固剤で固めて捨てろよ」


田中は無表情で、釜に残った「地獄の濃茶」に凝固剤を投入した。 液体は瞬時にカチカチのセメント状に固まった。


「えっ……。俺たち、セメント飲んでたの……?」


ヒカルの顔が青ざめる。 と同時に、先程までの高揚感が消え去り、猛烈な腹痛が襲ってきた。


「うっ、ぐぅ……! お腹が……お腹がぁぁぁ!」


「フッ……。トイレへ急ぐぞ。……これもまた、排出という名の『デトックス』だ」


リュウガとシオンも脂汗をかきながら、かっこつけたポーズでトイレへとダッシュした。


茶道部に残されたのは、呆然とする利休子と、淡々と片付けをする田中だけ。


「……彼ら、何者なの?」 「ただの腹下したバカだよ」


田中はモップで床を拭きながら、小さく呟いた。

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