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『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『勇者転入(ハードモード)編』

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第15話:『深淵を覗く時、深淵は「愛」を囁き返してくる』

「……くっ。昨日のタックルは想定外のバグだったが、魔法なら俺の独壇場だ」


全身包帯姿の勇者ヒカルは、地下にある「第3魔法実習室」で不敵に笑っていた。 彼のステータス画面には**【魔力:∞(無限)】**と表示されている。 この世界に来てから散々な目に遭っているが、魔法戦なら負ける要素がない。


「見ていろ、エリザベート。俺の極大魔法で、君を魅了してやる」


隣の席のエリザベートは、なぜか**「溶接用マスク」と「ノイズキャンセリング・ヘッドホン」**を装着し、祭壇のような机に向かって合掌していた。


「……勇者くん。悪いことは言わないから、今日の先生とは目を合わせないで。『認識』したら負けよ」


「はっ、大げさな。たかが教師だろう?」


キィィィィィ……。


教室の黒板が、爪で引っ掻いたような音を立ててひとりでに開いた。 そこから現れたのは、扉からではなく、黒板の「影」からぬるりと染み出してきた男。


「皆様、ごきげんようぅ……。今日の授業は『精神魔法』と『洗脳ラブ』についてですぅ……」


宮廷魔術師ダミアン。 彼は教室を見渡すと、粘つくような視線をエリザベートに向けた。


「ああ、エリザベート様。その完全防備なお姿も、秘密めいていてゾクゾクしますねぇ」


「気持ち悪いからこっち見ないで! 視線だけで私の『精神防壁メンタル・ガード』が削れてるのよ!」


ヒカルは鼻で笑った。 (なんだ、あの気色の悪い男は。魔力反応は……測定不能? フン、どうせ隠蔽スキルだろう)


ヒカルは立ち上がり、バッと手を掲げた。


「先生! 俺は転入生のヒカルだ! 実践形式で俺の実力を測ってほしい!」


ダミアンが、興味なさそうにギョロリとヒカルを見た。


「……おや。貴方、昨日のパンの人ですね。私の授業は『愛の深さ』を測るものですが……貴方に耐えられますか?」


「愚問だな! 俺は全属性魔法の使い手だ! さあ、かかってこい!」


ヒカルは自信満々に、自身が持つ最強のユニークスキルを発動した。


「――『神の鑑定眼ゴッド・アイ』!!」


これは、相手のステータス、弱点、思考、そして過去のトラウマまで全てを見通す最強の瞳。 これで教師の正体を暴き、弱点を突いて優位に立つ作戦だ。


カッ!! ヒカルの瞳が黄金に輝き、ダミアンの「中身」を覗き込む。


「さあ、見せてもらおうか! あんたの底の浅い魔力庫を……な……!?」


その瞬間。 ヒカルの動きが止まった。


彼が見たのは、ステータス画面ではなかった。


『愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛エリザベート様エリザベート様爪の垢欲しい髪の毛一本100万ゴールド今日の排気ガスも美味しい影踏ませて靴底になりたい愛愛愛愛愛愛愛愛……』


「あ……あ、あ……?」


視界いっぱいに埋め尽くされた、狂気的な文字の羅列。 いや、文字だけではない。 ダミアンの精神世界インナーワールドには、底なしの沼が広がっていた。 その沼底には、無数のダミアンの顔が浮かび、全てが異口同音に愛を囁いている。


『覗いたね?』 『私の愛を覗いたね?』 『嬉しいなぁ、共有しましょう? このドロドロの幸福をぉぉぉ!!』


鑑定スキルを通じて、ダミアンの精神が逆流してきた。 Wi-Fi経由でウイルスを送り込まれたパソコンのように、ヒカルの脳内がダミアンの「偏愛データ」で上書きされていく。


「や、やめ……! なんだこれ!? 情報量が……無限!? 脳が、焼けるぅぅぅ!!」


「あらあら、私の心と繋がりたいなんて、積極的な生徒ですねぇ☆」


ダミアンが恍惚とした表情で、ヒカルの肩に手を置いた。


「いいですよ。特別に、私の『エリザベート様・盗撮コレクション(容量300ペタバイト)』を脳内に直接送信ダウンロードしてあげます」


「いらねえええええええ!! ギャアアアアアアアア!!」


ピロリン♪ 【警告:SAN値(正気度)が限界を突破しました】 【警告:自我が崩壊し、ジャンル「クトゥルフ神話」へ移行します】


ヒカルの目から光が消え、代わりに濁った泥のような色が浮かぶ。 彼は白目を剥き、口から泡を吹いてその場に崩れ落ちた。


「あばばば……エリザベート様……尊い……影になりたい……あばば……」


「……あーあ」


エリザベートはヘッドホンを少しずらし、床でピクピクしている勇者を見下ろした。


「だから言ったのに。『深淵』を鑑定したら、深淵から『スパムメール』が送られてくるって」


「つまらないですねぇ。容量の0.1%も耐えられないなんて」


ダミアンはつまらなそうに手を離し、ハンカチで指を拭いた。


「さて、エリザベート様。邪魔者も消えましたし、二人きりの補習を始めましょうか? 教室の鍵は、もう『空間ごと』溶接しておきましたよ?」


「……ヒカルくん。起きて。お願いだから起きて盾になって」


エリザベートは、廃人になった勇者の背中に隠れながら、再び溶接マスクを被り直した。 勇者のチート能力「鑑定眼」は、狂人たちの前では「自爆スイッチ」でしかなかったのだ。

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