表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役令嬢ですが、周囲が全員「狂人」しかいないので、婚約破棄イベントが世界崩壊の引き金になりました』  作者: 限界まで足掻いた人生
『勇者転入(ハードモード)編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/23

第13話:『転校生はチート勇者ですが、ここが魔境だと知りません』

「ふふっ……。ここが新しい舞台か」


王立学園の校門をくぐる一人の少年がいた。 彼の名前はヒカル。 異世界から転生し、女神から『全属性魔法』『聖剣召喚』『無限の魔力』というテンプレ・チートスキルを授かった、正真正銘の勇者である。


彼は髪をかき上げ、自信満々に笑った。


「女神様には『世界を救え』と言われたが……まあ、まずは学園でハーレムを築くのが定石だよな」


ヒカルの目には、世界が「ゲームのUI」のように見えている。 すれ違う生徒たちの頭上には【LV.3 一般生徒】といったステータスが表示されているのだ。


「俺のレベルは99。この学園で俺に敵う奴はいない。……お?」


ヒカルが中庭に差し掛かった時、彼の「イベント探知スキル」が反応した。 見れば、華やかなドレスを着た令嬢が、可愛らしい少女を地面に押し倒し、馬乗りになっているではないか。


「――確保! マリア、動かないで! あんたが暴れると地殻プレートがズレるのよ!」 「ううぅ……エリザベート様ぁ、痛いよぉ……」


ヒカルの目には、それが**「悪役令嬢による、可哀想なヒロインへのいじめ」**にしか映らなかった。


「ビンゴ! 最初に見せ場が来るとはな!」


ヒカルは地面を蹴った。 音速に近いスピード。普通の人間には目にも止まらない速さで、二人の間に割って入る。


「そこまでだ! 弱い者いじめは感心しないな!」


ヒカルはバッと右手を掲げ、空間から光り輝く**『聖剣エクスカリバー(模造)』**を召喚した。


「この聖剣の輝きに免じて、手を引いてもらおうか!」


キランッ☆ 完璧なポージング。背景に薔薇の花が飛ぶようなエフェクト(幻覚)。 ヒカルは確信していた。これで悪役令嬢は腰を抜かし、ヒロインは自分に惚れると。


しかし。


「……は?」


馬乗りになっていたエリザベートという令嬢は、聖剣を見ても眉一つ動かさなかった。 それどころか、彼女は懐から**「溶接用ゴーグル」**を取り出して装着し、冷めた声で言った。


「……何あんた。眩しいんだけど。光害で訴えるわよ?」


「え?」


さらに、助けたはずの少女マリアが、ヒカルの足元を見て叫んだ。


「ああっ! ダメぇ! そこ踏んじゃダメぇぇ!!」


「ん?」


ヒカルが足元を見ると、そこには小さな**「アリの巣」**があった。


「キャアアアア! アリさんが踏まれたぁぁぁ!」


マリアが悲鳴を上げ、パニックで手足をバタつかせた。 その瞬間。


ズガガガガガガガッ!!


ヒカルの足元の地面が、突如として噴火したように隆起した。 ただの地団駄ではない。マリアの「可哀想!」という感情が、大地への物理干渉力(マグニチュード8相当)に変換されたのだ。


「うおっ!? な、なんだ!?」


ヒカルは慌ててバックステップで回避する。 彼が立っていた場所には、巨大なクレーターができていた。


「おいおい……魔法か!? いきなり上級魔法を無詠唱で!?」


ヒカルは冷や汗を流す。 鑑定スキルを発動し、マリアのステータスを確認しようとした。


【Name: マリア】 【LV: 測定不能(ERROR)】 【Skill: ■■■■(文字化け)】


「は……? エラー?」


「ちょっと! 余計なことしないでよ転校生!」


エリザベートが立ち上がり、スカートから砂埃を払った。 その手には、いつの間にか巨大なチェーンソーが握られている。


「マリアの情緒を不安定にさせないで! 彼女が泣くと、この地域の降水確率が1000%になって洪水が起きるのよ!」


「ちぇ、チェーンソー!? 貴様、騎士道精神はないのか!」


「あるわけないでしょ! ここはサバンナよ!」


会話が通じない。 ヒカルは焦った。なんだこの女たちは。 こうなれば、力尽くで分からせるしかない。


「くっ……仕方ない! 俺の本気を見せてやる!」


ヒカルは聖剣に魔力を込めた。 『聖なる光よ、悪を断て! ――ホーリー・スラッシュ!』


光の斬撃がエリザベートに向かって放たれる。 岩をも両断する必殺の一撃。


パシッ。


「ん?」


その斬撃は、横から伸びてきた**「素手」**によって掴まれた。 掴まれた光の刃は、ガラス細工のようにパリンと握りつぶされた。


「ぬん。……眩しいな、新入り」


そこに立っていたのは、制服がはち切れんばかりの筋肉の巨塔、ガストンだった。 彼はヒカルの聖剣を指差し、呆れたように首を振った。


「その剣……重心が2ミリずれているぞ。そんなナマクラでは、俺の大胸筋の産毛も剃れん」


「ば、馬鹿な!? 聖剣だぞ!? 物理無効の加護がついているんだぞ!?」


「物理無効? ……ああ、**『筋肉未満』**の攻撃を無効化するということか?」


ガストンが分かったような顔で頷く。 違う。そうじゃない。


「騒がしいですね……」


さらに、校舎の屋上からソフィアの声が降ってくる。 彼女は指先一つ動かさず、ヒカルの周囲の空気を操作した。


「――『音響遮断』」


フッ。 ヒカルの世界から「音」が消えた。 自分の声も、剣の音も聞こえない。完全なる無音地獄。


「うわぁぁぁ!? 声が!? 耳が!?」


パニックになり、デタラメに剣を振り回すヒカル。 その剣先が、運悪く中庭の花壇に突き刺さった。


「あ」


全員が動きを止めた。 花壇の世話をしていた、「リサイクル推進委員長」アレクセイが、ゆっくりと立ち上がる。


「……君、今、花を踏んだね?」


アレクセイの目が、虚無の闇に染まる。 彼の手には、肥料用のスコップが握られていた。


「生命への冒涜……そして、資源コンポストへの侮辱……。許しがたい。君を『有機肥料』として再利用してあげよう」


「ひっ……!」


ヒカルの『危機察知スキル』が、警報音どころか**「即死確定アラート」**を鳴らし始めた。 レベル99の勇者である自分が、なぜかこの園芸部員みたいな男に「捕食される」というビジョンが見えたのだ。


「ま、待て! 俺は勇者だ! 女神に選ばれた……」


「女神? ……ああ、あの管理者のことか?」


エリザベートが憐れむような目でヒカルを見た。


「悪いこと言わないから、その設定ロールプレイは止めておきなさい。……ここの連中、神様とか一番嫌いだから」


アレクセイ(元ラスボス)がスコップを構え、ガストン(物理神)が拳を鳴らし、マリア(災害)が泣き出し、ソフィア(処刑人)が音を消す。 四面楚歌。完全詰み。


「う、うわぁぁぁぁ!! 異世界怖いぃぃぃ!!」


ヒカルは聖剣を放り投げ、脱兎のごとく逃げ出した。 だが、逃げた先には――。


「あ、すいません。そこワックス掛けたんで」


ツルッ。 ドテェッ!!


緑ジャージの清掃員、田中がモップをかけていた床で、ヒカルは盛大に滑って転んだ。


「ぐえっ!?」


「あーあ。足跡ついちゃったよ……。またやり直しか」


田中はダルそうにため息をつき、倒れている勇者ヒカルを見下ろした。


「新入生っすか? ……廊下は走らない方がいいっすよ。人生滑るんで」


ヒカルは、床に這いつくばりながら悟った。 ここは、俺が知っている「なろう系異世界」じゃない。 レベルとかスキルとか、そんな生易しいルールが通用しない、**「修羅の国」**だ。


「……ママぁ……」


勇者ヒカル、転入初日にして、登校拒否を決意。


「……はぁ。また面倒なのが増えたわね」


エリザベートは、放置された聖剣(模造)を拾い上げ、アレクセイに渡した。


「これ、燃えないゴミ?」 「いや、溶かせばスプーンくらいにはなるだろう。資源ごみだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ