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第93話 あっそ

 










 人面ムカデという、とびっきりの悪夢を乗り越えた俺たち。

 その後に大量の魔物とも戦闘をさせられる。


 あの化け物は、おそらく魔物からも恐れられていたのだろう。

 死んだとたん、ダンジョンらしく魔物に襲われることが、あの大虐殺以降も多々あった。


 だが、俺の肉壁たちの敵ではない。

 人面ムカデがとんでもない化け物だっただけで、隠木もグレイも特級の戦闘能力持ちだ。


 グレイは真正面から魔物と殴り合うことができるし、隠木も正面衝突は専門というわけではないが、しかし影から忍び寄って気づかぬ間に命を奪うこともできる。

 ぶっちゃけ、地上に戻るために、大虐殺の後はこの二人だけで十分だった。


 時折近づいてくる魔物を、綺羅子が【爆槍】でチクチクするだけの簡単なお仕事です。

 俺はついてきたガキの御守をするということを説明し、納得を貰っていた。


 もちろん、綺羅子以外。

 ガキのことを思いやっているということで評価ポイントアップ!


 綺羅子以外。

 あいつは俺のことを呪い殺さんばかりに睨みつけてきていた。


 自分だけ働かせられることに納得いかないのだろう。

 いや、今まで俺の現実改変とやらでさんざん助けてやったんだから、馬車馬のごとく働くんだよ!


 そんなことを考えながら上層へと向かい、そしてついに俺たちは出口に達していた。

 すでに、感動の登場は終わっている。


 最初出てきたときは、自衛隊が物々しい装備でダンジョンに突入しようとしていたので、デジャヴを覚えた。

 俺たちの救出作戦を実行しようとしていたようだ。


 いちいち軍事力を動かさないといけない学校の定期テストってなんだよ。

 止めちまえ、そんなもん。


 そして、俺たちを出迎えてくれたのは、浦住たち教師陣だった。

 他の同級生たちは、もう帰っているらしい。


 全員俺より楽にテストを合格したのだと思うと、腹立たしくて仕方ない。


「……お前は、なんでまたこんなややこしいことを仕出かしてくれるんだよ」


 浦住は、なぜか俺をジト目で見てくる。

 隈がだいぶマシになっていた。


 そして、仕出かしてくれるとは何事か。

 俺は何もしていないぞ。


『君の特殊能力のことを知っても、まだそんなことが言えるのかな?』


 俺が自分から望んで得た力じゃないし。

 知らねえし。


 だいたい、そのややこしい中に自分も入っているってこと忘れてないっすか、浦住さん?


「まず、鉱物を取ってきたことは見事だ。お前たち全員試験は合格だ。……時間はかかりすぎだがな」


 ちゃっかり隠木が鉱物を採取していた。

 最悪だよ。


 採ってこなかったら、失格になって退学できていたかもしれないのに。

 現実改変を使うまでもなく、俺は自由になっていたのに。


 寄生虫が代償とか言うから、ちょっと怖いんだよな。

 今のところ何ともないんだが……。


 そんなことを考えていると、教師の一人がコソコソと耳打ちしてくる。


「浦住先生、こんなことを言っているけど、自衛隊と一緒に君たちを助けるためにダンジョンに入ろうとしていたんだよ」

「先生、頭部に芋けんぴついていますよ」

「うおおおお!?」


 シュゴォッ! と音を鳴らしながら浦住の拳が教師の頭部を襲う。

 間違いなく記憶を消し飛ばすための攻撃だ。


 避けられたのは、さすが特殊能力開発学園の教師だ。

 なるほど、ツンデレ属性か。


 もっと早く助けに来いよ、馬鹿。


「で、ややこしいのが……この子だな」

「…………」


 浦住の目がガキに向けられる。

 ガキはその目を意に介さず、空を……太陽を見上げていた。


 といっても、もう日も落ちかけていて、夕日というのが正しい。

 赤く燃えるそれを、ただじっと見ていた。


「ダンジョンの中に村か。こんなこと、誰が信じるか。直接自分の目で見ないと信じられないし、本当にそんなものがあったらなおさら目を疑うな」

「でも、確かにあったっすよ。この子が生き証人っす」

「お前たちが嘘をつくとは思っていないさ。だが、信じがたいのも事実だ。地獄に人が村をつくって住んでいた、なんて聞かされて、はいそうですかと言えるはずもない」


 ため息をつく浦住。

 嘘つきだということで退学にしてくれていいぞ。


 全員分の罪は俺が被るから、安心してくれ。


「まあ、そこもじっくり調べていくさ。これが本当だったら、政府も驚きつつも喜ぶだろうな。何も分かっていないダンジョンに、一つ面白い事実が分かったんだから」

「謎が増えただけにも思いますが……」

「そう言うな」


 ……待てよ?

 ダンジョンに謎の村が現れる→政府が調べるために国の部隊を動かす→その間は学生をダンジョンに入れない→俺、安全確保。


 ……全力で調べてくれぇ、政府ぅ!


「とにかく、良く帰ってきたな」


 浦住はそう言って、緩く俺や綺羅子たちを抱きしめた。

 彼女なりに心配していたアピールだろう。


 同僚たちや自衛隊が微笑ましいものを見る目で見てくる。

 なるほど、勉強になる。


 俺も人の目があるところで評価を上げるようなことをしないとな。

 ところで、浦住は合法バイオレンスロリ巨乳なので、抱きしめるというより俺の場合だと抱き着いてきているみたいになっている。


 じ、事案じゃないです。


「…………」


 ガキが動かず、ひたすらに夕日を眺めている。

 ふっ、さっそく評価上げチャンスか?


 神は俺を見放していなかった。


「どうかしたか?」

「……太陽。こんな感じ?」

「ああ」

「……温かくて、気持ちいい。これが、太陽」


 ガキはそう言うと、振り返る。

 その表情は、今まで見たことがないほど、穏やかで幸せそうな笑顔を浮かべていた。


「……私、太陽が好き」


 あっそ。

 それでも俺の心は揺れ動かなかった。




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