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第84話 村

 










 目の前に広がる光景を、俺はやっぱり受け入れられないでいた。

 建造物である。


 ダンジョンの中で、明らかに人の手によって作り出されたであろう建造物が立ち並んでいる。

 もちろん、日本の街みたいに広大なわけではないが、過疎地域の村みたいな感じだろうか。


 というか、ろくに踏破も進んでいないダンジョンの中で、村なんて作る余裕があったのか?

 ぶっちゃけ、信じられない。


「マジで村だな……」

「村ね……」

「村っすねぇ……」

「私も能力で見つけた時は、信じられませんでした」


 俺だけが見ている幻覚でもないようなので、もう何とか受け入れないといけないだろう。

 どうやって資材とか運んできて建設したのだろうか。


 魔物もいるだろうに、化け物たちと戦いながら村をつくったということか?

 めっちゃ余裕あるじゃん。


 もうそいつらをダンジョンの奥深くに突撃させて、俺とか学園から退学にさせてくれないかな?

 俺、いらないでしょ?


「ダンジョンの中に、村があるだなんて……」

「荒らされている形式もないっすね。危険な魔物がはびこるダンジョンなのに、本当に謎っす」


 隠木の言う通り、魔物の攻撃で崩れた建物なんかは見て取れない。

 教科書に載っていたが、昔ダンジョンから魔物が氾濫した時、人的被害はもちろんのこと、建物なども徹底的に破壊されていた写真を見たことがある。


 そう考えると、ダンジョンの中という魔物にとってはホームグラウンドで、一切破壊されていないというのは不思議で仕方ない。

 経年劣化は見られるが、それだけだもんな。


 ……やっべ。意味わからな過ぎて怖くなってきた。

 帰りたい。


「というか、そもそもダンジョンの中に村があるっていうのがおかしいですわ。まだほとんど解明されていないのに、人の生活圏が及んでいるなんて」


 またしょうもない猫を被りやがって、綺羅子。

 そのですわ口調止めろ。


 シリアスが崩れる。


「いったい、誰がここに住んでいたのか。ダンジョンを管理している自衛隊か国の部隊の前線基地なのかもしれないが、そんな装いでもないし……」


 ダンジョンは一般人が入ってこられるはずもないから、自衛隊か国家公務員の部隊が作った補給や仮眠をするような場所なのかもしれない。

 にしては、本当に村みたいに作っているのが不思議だが……。


「仮にそうだとしたら、授業で教えてもらえなかったことが不思議です。ダンジョンの中に安定的な居住区域を作ることができれば、それは世界に誇るべき偉業なのですから、教えないはずがありません」


 グレイの言う通り、ダンジョンの中に人の手が加えられたという報告は、世界中探してもないだろう。

 まあ、いまだに国家として体を為しているのが、日本とアメリカ、中国くらいだからあれなんだけど。


 ただ、もしそれが成功したら、国威発揚のためにも、ウキウキで発表するに違いない。

 それをしていないということは、国の関与がない勢力による村づくり?


「ちょっと見てきたっすけど、人の気配がまるでないっすね。魔物の襲撃を受けたというわけではなさそうっすけど、廃村であることは間違いないっす」


 隠木が透明を活かして確認してくれたようだ。

 人がいない村というのも怖いんだけど、まあ人がいた方が怖いのでそれはよかった。


 ダンジョンの中で生活するような人間、絶対まともじゃないからな。

 俺は絶対会話しなかった。


「……じゃあ、ここにいたであろう人たちは、いったいどこに行ったんだ?」


 次に出てくる当然の疑問として、この村をつくり、住んでいたはずであろう人間は、いったいどこに行ったのかというのがわいてくる。

 まあ、単純に考えれば魔物に殺されたというのが一番わかりやすいのだが。


 ただ、村は破壊されていないし、血痕や死体も見えないし……。

 すると、綺羅子がポツリと呟いた。


「神隠し……とか?」

「はははっ、面白い冗談を言うなあ、綺羅子は」

「うふふっ、ごめんなさい。ついつい」


 にこやかに笑いあう俺と綺羅子。

 なお、俺の額には青筋が浮かんでいた。


 ただでさえ怖い状況なのに、余計に怖い妄想してんじゃねえよ!

 ダンジョンって、マジで意味不明だから、いきなり想定外のことが起きても不思議じゃない。


 人がいきなりダンジョンそのものに食われるなんてこともあるかもしれないのだ。

 なにせ、壁の中から手が伸びてきて、綺羅子を引きずり込もうとしたくらいだし。


 …………そんなことなかったよな?

 あったとしたら、綺羅子はすでにお陀仏しているはずだし。


 なんで一瞬そんなことを思ったんだ、俺。


「もしかしたら、何か有用なものが残されているかもしれない。それを拝借して、ダンジョンの出口を目指そう」

「分かりました」


 何か有用なものがあるかもしれない。

 俺たちはそう考えて、村の中を回って探していく。


 まあ、俺は探しているふりだけど。

 他人が働くなら俺は働かなくていいよね。


 あと、魔物が出てきたらビビるし。


「梔子くん、地図があったっす!」

「でかした!」


 そんなことを考えていると、隠木が素晴らしいものを持ってきてくれた。

 綺羅子はサボっていたようだ。


 役立たずめ。

 その地図さえあれば、自分たちのいる場所、そして出口までの道のりが分かるはずだ。


 俺たちはウキウキでその地図を覗き込んで……ひどく困惑した。

 地図は地下に潜っていくもので上に上がるものはなかったからだ。


「なに、この欠陥品のマップは? 作成者は地獄に生きたがり自殺志願者かしら?」


 綺羅子が完全に死んだ目で呟いた。

 めちゃくちゃイライラしてて笑うわ。


「さすがにこれは使えませんね。しかし、これが正しいかどうかは分かりませんが、貴重な資料になります。村があるという証明のためにも、持ち帰った方がいいでしょう」

「そうだな。そうしようか」


 マジで役立たずだな、この村にいた奴ら。

 俺のためになろうと少しでも努力すべきだろうに。


 俺は心底呆れて、ため息をつこうとして……。


「――――――持って帰るの?」

「…………」


 聞いたことのない声に、固まった。

 チラリと横目で綺羅子を見るが、彼女もブンブンと首を横に振っていた。


 ……俺たちは全員で恐る恐るそちらを見た。

 そこには、一人の少女が立っていた。


「……地上だと、他人のものは勝手に持って行ってもいいの?」


 いやああああああ!

 お化けええええええええええ!!




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