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第82話 ぶりっ子するなうわあああああああ!!

 










「どちらに向かったらいいんすかね?」

「……んあ?」


 意識が再浮上する。

 ……いや、再浮上ってなんだ?


 何だかよく分からないが、やけに頭がふわふわする。

 まるで、夢心地。


 自分の足でしっかりと立っているのかどうかすらも怪しい。

 おかしいな。


 こんなことは、【最近は】なかったはずなんだが……。

 いや、でもちょくちょくはあったか。


 うーむ、克服したと思っていた原因不明の不調だが、まだ治っていなかったらしい。

 めんどうくさ!


「……これは右の方がいいと思いますわ。あなたはどうかしら、良人?」

「あれ? お前は生き残ったの?」


 話しかけてきた綺羅子に対して、俺はふとそんな言葉を発していた。

 ……生き残っていたって何?


 自分で言っておいてなんだが、何を言っているのかさっぱりわからん。

 いや、確かに俺は綺羅子に四六時中お陀仏してほしいと空のお星さまに祈りをささげているが……。


 しかし、こんな状況で、他にも人がいる状態で、そんなバカげたことを言うつもりは微塵もなかったのに。

 俺自身が唖然としているのだから、それを受けた綺羅子はなおさらだ。


 猫を被ることも忘れて、気持ち悪いものを見る目で見てくる。

 止めろ。そんな目で見るな。


「は? 寝ぼけてんの?」

「……マジでそうかもしれん」


 最悪だ。

 ダンジョンの中でボケるとか、どんだけ気を抜いてんだ、俺。


 何だかやけに頭がぼーっとするし……。

 マズイ。これは肉壁共から離れられないぞ。


「なに、大丈夫なの? やっぱりやめる?」

『君に対してゲロ甘じゃない? ママかな?』


 俺の顔を覗き込んでくる綺羅子。

 止めていいんだったら止めるんだけどなあ……。


「いや、とりあえずさっさと鉱物を採取しよう」

「じゃあ、この分かれ道をどっち行くかなんすけど……」


 隠木の声が分かれ道を指し示す。

 右の道か、左の道か。


 右の方が一本道で、左がアリの巣のように広がっている道。

 ……どう考えても右だ。


 右一本である。

 だが……。


「……左の方がいいと思う」

「なんでよ。こんなに広がっているのに。右の方が絶対に楽じゃない」

「あー、明確な根拠がないんだけど。……まあ、勘だ」

「結構あやふやっすね」

 からかうような隠木の声。


 いや、本当に根拠はないからなあ。

 ただ、右には行きたくない。


 どうしても。

 ちなみに、俺以外の奴がそんなことを言っていたら、聞く耳を持たないだろう。


 他人の直感なんて信じる価値がないし。


「……じゃあ、左に行きましょうか」


 綺羅子はじっと俺を見ると、頷いて左を見た。

 こいつは俺を信じることにしたらしい。


 バカかな?


「よろしいんですか?」

「良人の勘って、結構当たるものなんですよ」


 グレイにそう説明する綺羅子。

 ……そう言えば、あまり自覚はなかったが、確かに俺は直感が鋭いかもしれない。


 なんとなく嫌だと思ったことを避ければ、危険を回避していたということが何度かある。

 俺の直感は案外バカにできないものなんだな。


 他人のそれはバカにしたままだが。


「……で、どうしてなのよ」


 綺羅子が顔を寄せて聞いてくる。

 何か理由があるのかと。


 勘だっつってんだろ。


「いや、マジで勘。なんかとてつもなく耐え切れない嫌な予感がしたんだよ」

「ふーん。助かるわ、小動物危険センサー」

「なにディスってんだ、お前」


 俺は綺羅子と喧嘩しながら、左の道を歩くのであった。


『…………』











 ◆



 なんとなく嫌な感じがした右の道を避けた俺たち。

 アリの巣のように広がってはいるが、しかしそんな奥まで行くつもりは毛頭なく。


 さっさと鉱物を見つけて出口に戻ろうと思っていたのだが……。


「うおおおおおおおお!?」


 なぜか、俺たちは全力で奥に向かって爆走していた。

 そのすぐ後ろには、大量に追いかけてくるありえないくらいの数の魔物が。


 なにこれ? 夢?


「ちょっと! あなたが左って行ったのよ! 責任取りなさいよ!」


 隣を走る綺羅子が怒鳴りつけてくる。

 ちっ、まだ生きていたか。


 なぜだか分からんが荒れてしまっている彼女に、真摯な美しい言葉を贈ろう。


「一煉托生、連帯責任、旅は道連れ、死なば諸共」

「この……っ!」


 凄い。

 俺を睨みつけてくる目が血走っている。


 怖い。


「グレイさん! 斥候の意味ないじゃないっすか!」

「いきなりわんさか出てきたら、斥候も何もありません!」


 隠木とグレイも余裕がないようだ。

 ちっ、早く体力が切れて囮になってくれたらいいのに……。


「あまり出口には近づけないぞ! クラスメイトたちを危険にさらすことはできない!」

「ええ、その通りですわ!」

『この期に及んでも評価上げに余念のない二人』


 俺と綺羅子はキリッとした表情で頷き合う。

 隠木とグレイにもちゃんと聞こえているようだ。


 尊敬の念を感じる。


「(奥まで侵入していた奴がいたら、押し付けるわよ)」

「(もちろんだ)」


 俺と綺羅子は目で通じ合っていた。

 よくこんな考えが思いつくな、このゴミクズ女。


「あ、ウチは透明だし、ワンチャン?」


 おい、一人だけ逃げようとするやつがいるぞ。

 当然、そんなことは許されない。


 俺の肉壁になるという崇高な任務があるだろう。


「ばれたら俺たちは助けられないぞ? 距離が離れているだろうし」

「冗談っすよ!」


 ガチトーンだったけど……。


「斥候だった私の責任もあります。私が囮になるので、皆さんは先に逃げて……」


 グレイがとても魅力的な提案をしてくれる。

 え、いいのぉ?


 しかし、俺は顔をキリッと作って否定する。

 汗が凄いけど。


「いや、あれだけの数だ。一人が囮になったところで、必ず漏れて追撃は続く。それに、そんな危険な役割、グレイみたいなかわいい女の子にさせるわけにはいかないさ。やるなら、俺がするよ」

「梔子さん……」


 感動したように俺を見るグレイ。

 ふっ、また俺のイケメンが上がってしまったな。


 そんな俺を、死んだ目で見る綺羅子。


「やる気ないくせに」

「おっとどうしたどうした? 余裕だな、綺羅子」


 そんなことを言いつつも必死に走っていたら、ズドン! と目の前に重たいものが落ちてくる。

 親方ぁ! 空から鬼が!


「ガアアアアアアアアア!!」

「うわああ! トラウマだぁ!」


 吠える鬼。

 何だか知らんが、やけに頭が痛い!?


 なんで? いや、まあ確かに前に殺されかけたことがあるけども!


「もう無理いいいいい!!」


 強いストレスに耐え切れなくなった綺羅子は絶叫する。

 鼻水を垂らして泣きながら、特殊能力を行使する。


 彼女の手に収まるのは、深紅の槍。

 ……マズくないか?


「あ、馬鹿! こんな近くにいるときにお前の特殊能力なんて使ったら……!」


 綺羅子の特殊能力は、【爆槍】。

 その名の通り、強烈な爆発を引き起こす槍を作り出すことだ。


 そして、パニックになった綺羅子は、その槍をやたらめったら振り回し……。

 それは、地面に激突した。


 直後、凄まじい爆発が起きて……俺たちの身体は、宙に投げ出されていた。


「じ、地面が抜けた!?」

「何やってんだお前ぇ!」

「違うもん! 私のせいじゃないもん!」


 泣きながら必死に否定する綺羅子。

 全部お前のせいだろうが!!


「ぶりっ子するなうわあああああああ!!」


 そうして、俺たちはダンジョンの深層へと落ちて行くのであった。




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