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第80話 ほんと地獄

 










 これが処刑台に向かう罪人の気持ちか……。


『また朝からとんでもないことを思っているね』


 ああ、太陽が憎い。

 お前が昇らなければ、今日という日が来ることはなかったのに。


 同じく隣で死んだ顔をしている綺羅子がいた。

 相変わらずひどい顔だ。


 笑えてくる。


「「ふっ……」」


 俺と綺羅子は同時に鼻で笑っていた。

 ……こいつ、俺の顔を見て笑いやがった。


 許せねえ……。

 しかし、襲い掛かって攻撃する元気も気力もない。


 なぜなら……。


「いやー、遂にこの日が来ましたね! 定期テスト!」

「「…………」」

『二人そろって死んだ目をしないでよ……』


 嬉々として話しかけてくる隠木。

 なんでこいつはこんなに楽しそうなんだ。


 あれだぞ、向かうのは地獄だぞ?

 まあ、こいつの家は英雄七家とかいう中二病全開の白峰家に付き従う家らしく。


 小さなころから特殊能力に触れて生きてきたわけだから、自信があるらしい。

 しかも、こいつの特殊能力って透明だからな。


 マジで羨ましいわ。

 俺の特殊能力が透明だったら、もう学園なんて逃げ出していた。


「……おい、何かいい考えがないか? ここから逃げられる方法」

「……思いついていたら、あなたに何も言わないで実行しているわ」

「は?」

「は?」

『いがみ合っていても、どうしようもないと思うけど』


 俺と綺羅子はコソコソと会話する。

 何とかお互い逃れる方法を模索しているが、まったく思い至らない。


 役に立たねえな、こいつ。

 正直、仮病を使ってバックレるという方法も考えた。


 普通、テストを欠席すれば、理由によってはテストを受けなかったとされて、大きな不利益をもたらす。

 しかし、それはまさしく俺の思うつぼ。


 お願いしたいほどのことだ。

 だが、特殊能力開発学園においては、このダンジョンのテストは必須。


 たとえ、体調不良で休んだとしても、今度は一人で必ず受けなければならなくなる。

 肉壁がゼロの状態で地獄に突入しろと言われるのだ。


 だとしたら、まだ肉盾がいる今の方が……マシだ……。


「よし、全員いるな。これから、各自ダンジョンにチームごとに入っていけ。ダンジョン内では自由に行動していい。もちろん、自分たちの身は自分たちで守れ。あたしたちも全力でサポートするが、しかし、この広大なダンジョンをすべて監視することは不可能だ。だから、自分たちの分を弁え、パニックにならず、適切に行動し、目的の鉱物を採取したらすぐに戻ってこい」


 浦住の説明が始まる。

 教師もダンジョンに潜るらしいが、あまり期待できないな。


 東部軍のスパイがまだ平然と居座っているような連中だし。


「久しぶりのダンジョン内で、友人と一緒だからと言ってはしゃぐな。そう言った者は、すべからく死んでいる。そんな結末は、あたしたち教師もお前たち自身も望まないだろう」


 どんどんとテンションの下がることを言ってくれる。

 本当にありがとうございます。


 帰らせてもらっていいですか?


「ダンジョンの中でチーム同士が協力することは何ら問題ない。だが、妨害は現金だ。した方もされた方も命を落とすことになるだろう」


 今組んでいるチームだけじゃなく、他のチームとも協力することができるのか。

 というか、妨害なんてする奴いるのかよ。


 ……過去にいたから、こういうことを注意しているんだろうな。

 最悪じゃん。他人の足を引っ張るのは構わないが、俺を巻き込むことは許さんぞ。


「ダンジョンの中は、不条理で不可解な世界が広がっていると考えろ。何が起きても不思議ではない。そんな世界だ。だが……」


 浦住は、そこで初めてと言っていいほどに、教師の顔を見せた。


「あたしたちは、お前たちが全員無事に戻ってきてくれることを、心から祈っている」


 今まで教師どころか人間失格な態度で授業をしていた浦住。

 そんな彼女が見せる教師の顔に、今回のテストに参加する一年生は、皆目を奪われていた。


 一方で、俺はそんなのはどうでもよかった。

 ただただテストが嫌だった。


 嫌ぁぁ……。


『そんなか細い悲鳴上げないでよ……。コバエが飛んでいるのかと思った』


 すっごい言葉で刺してくる。

 虫ごときが偉そうだ。


「では、準備できた者から進め」


 どうやら、出席番号順とかではなく、覚悟ができたら申し出てダンジョンの中に入っていくらしい。

 さすがに、死者まで出ている危険なテストということもあって、まだ誰も向かわない。


 チームで固まって、色々な話をしている。

 お互いの覚悟を決めることをサポートしあったり、ダンジョン内でどう行動するかの確認だったり……。


 そんなチームに、教師たちが判明しているダンジョン内のマップを渡していた。

 俺たちも受け取るが……。


 なんだこれ。全然分かってねえじゃねえか。

 ダンジョンは下に階層が何段も広がっているらしいが、渡されたマップは一階層の、しかも中途半端に途切れている奴だ。


「おそらく、下の階層に行くことは想定していないのでしょう。ということは、一層で鉱物は採取できると見ていいはずです」

「マップが途切れているのは、本当に分からないんでしょうね。ダンジョンが現れてから何年も経って、自衛隊や国の部隊が何度も侵入しているのに、それでも判明しないってやばいっすよね」


 ケラケラと笑う隠木。

 今のどこに笑う要素があったの?


 しかし、グレイの言うことが唯一の救いだ。

 ダンジョンは、深い階層に行けば行くほど凶悪なものになっていくと、授業で習った。


 自衛隊や国の部隊でも、深層に行くのは容易ではなく、また無事に戻ってこられる確率も低いのだという。

 うん、やっぱりそんなところに俺を行かせるのっておかしいよね。


 第一階層ですらろくに探索できていないというのに……。

 そもそも、レクリエーションも第一階層だけだったし、それで鬼とかいう化物と殴り合いをさせられたし……。


 あ、吐き気が……。


「良人、いいこと思いついたわ」

「なんだ?」


 コソコソと話しかけてくる綺羅子。

 ぶっちゃけ、ちょっと期待している。


 こいつの生き汚さは俺をもしのぐ。

 何かいいことを思いついたのだろうか。


「ダンジョンの入り口付近で待っていて、鉱物を持ってきた奴らからそれを奪ってしまえばいいのよ。危険性はかなり低くできるわ。悪評が広がるのが懸念点だけど、私たちなら演技で何とでもできるわ」

「天才か……」

『ゴミクズか……』


 寄生虫の罵倒が耳に入らないくらい、俺は感動していた。

 綺羅子……お前、ウンチを生み出すだけの産業廃棄物じゃなかったんだな……。


 とてもいい案だ。

 これにしよう。


「そうと決まれば、俺たちは最後の方に出発した方がいいな」

「ええ」


 俺と綺羅子は固く握手をして、うなずき合う。

 ギリギリまで粘って、最後にダンジョンに入り、戻ってきた奴らから鉱物を奪取する。


 別に力づくで奪わなくとも、こっそり盗んでもいい。

 隠木という透明人間がいることだし、可能だ。


 ふっ、勝ったな。


「せんせー! ウチら、もう出発するっす!」

「「!?」」


 隠木さん!?

 何を言っているんですか!?


 俺と綺羅子は唖然として彼女を見る。

 ……いや、透明だからどこにいるのかあんまり分からないんだけどね。


「……梔子のチームが一番目か。準備は整ったのか?」


 できていません。

 俺がそう答える前に、グレイがスッと前に出た。


「無論です。今更慌てて準備をすることはありません。私たちは、このテストが行われると知らされてから、すでに覚悟は完了していました」


 何だそのどや顔は!

 してないしてない!


 そんな覚悟持ってない!

 だというのに、めちゃくちゃ勇ましいことを言ったものだから、他のクラスメイトたちからは羨望と崇敬の目を向けられている。


 だから、断れない……!

 この目、気持ちいいから……!


「じゃあ、最初は梔子チーム。頑張ってこい」


 絶望でございます。

 俺は顔を真っ青にして空を見上げていると、いつの間にか浦住が近寄ってきていた。


「あー、梔子」

「はい?」


 何だか少し言いづらそうな感じ。

 なに? やっぱり、俺はこのテストやらなくていい感じ?


 免除? 免除?


「……生きて戻ってこい」


 少し気恥ずかしそうに言うと、すぐに背を向けてしまった。

 は?


 じゃあ、そもそもこんなクソみたいなテストをするな、クソロリ。


「さあ、行きましょう!」

「「……はい」」


 ウキウキの隠木。

 俺と綺羅子はげんなり。


 こうして、俺たちは地獄の門を開けて、地獄へと向かうのであった。

 ほんと地獄。




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