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第78話 死神共がぁ……!

 










「定期テストの内容は、ダンジョンの中にある特定の鉱石を採取することだ。今までの世界には存在しなかった未知の鉱石は、研究が進めば有用なものになるかもしれない。そういった意味も込めて、学生のテストの一環になっているんだ」


 浦住はテストの意義をそう説明する。

 ……いや、じゃあ学生じゃなくて大人に採りに行かせろよ。


 未成年を死地に送り込むとか、戦国時代かな?


『今の時代が少し前までの平和な時代とは違うってことは知っておいた方がいいよ』


 知らねえよ、馬鹿。


「えー、めんどうくさぁい……」

「お姉ちゃん、はっきり言いすぎよ」


 行橋姉妹も不服そうだ。

 いいぞ、もっと言え。


「そう言うな。テストとはいえ、危険なダンジョンに潜り、こちらの都合で鉱石を取ってきてもらうんだ。当然、対価も支払われる?」

「対価とは何ですか?」


 綺羅子、食い気味に問いかける。

 さすがだな、銭ゲバ女。


 何かしら見返りがあると知れば、すぐにそれを知りたがる。

 欲しがりさんめ。


「金だよ。それも、それなりの額だ」


 浦住の言葉に、一気にざわつくクラス。

 それもそうだろう。


 特殊な学園事情があるため、アルバイトすらできないんだ。

 そんな自分たちに、テストと同時に金稼ぎができる機会があると知れば、そうなるのも当然だ。


「たちばな、頑張るよ」

「私は面倒だからいいやあ……」


 やる気を出す立花と、やっぱりやる気が出ない行橋(姉)。

 実をいうと、俺もそんなに……。


『お金大好きな君が珍しいね』


 いや、俺が頑張って働いて得るお金にあんまり価値がないから……。

 誰かが汗水たらして必死に溜めたお金を俺が使うのがいいんだよ。


「(分かるわ)」

『アイコンタクトで話しないでくれる?』


 俺と綺羅子がうなずき合っていると、浦住がさらに説明する。


「これはあまり公になっていないが、ダンジョンに潜るのはすべて国家公務員だ。危険な仕事だから手当もかなりのものだが、それだけじゃない。ダンジョンの中にある鉱石などを採取して国に提出すれば、それに応じたボーナスも入る。ぶっちゃけ、世界経済が崩壊した今、日本の億万長者はほとんどがダンジョンに潜る国家公務員だ」


 俺は愕然とする。

 ぜ、税金泥棒どもが、そんなことを……!?


『君の公務員に対する憎悪はいつからなの?』


 無理やり俺を捕らえようとして、女尊男卑のクソババアが俺を殺そうとしたことかな。


『ああ、あの時かあ……』


 俺と綺羅子を捕まえようとしたクソ女が、綺羅子だけを狙うのであればまだしも、俺を含めて吹き飛ばそうとしたことは万死に値する。

 あれから俺の公務員嫌いは加速したのだ。


 しかし、それだけ稼いでいるのか……。

 じゃあ、危険なダンジョン潜りをしている公務員の女を捕まえればいいのでは?


 俺、天啓を得る。

 というか、本当にダンジョン潜って大丈夫なのか?


 俺、一回レクリエーションと称して化け物に殺されそうになったんだけど。


「(まあ、綺羅子がいるから大丈夫か)」

「(……なんだか猛烈に寒気がするんだけど……)」


 震える綺羅子を見て、俺は心配になる。

 風邪かな?


 だったら、冷風を当てて悪化させなきゃ。


「ただ、もちろん危険はある。レクリエーションと違って、これからテストでダンジョンに潜る際は、命の危険があることを覚悟しておいてくれ。実際、テストで死者は毎年出ている」

「はあ!?」


 俺と綺羅子が同時に声を発する。

 真似すんな。


 睨んだら相手もにらんできた。

 何だこいつ……。


 というか、浦住はとんでもないことを言っていなかったか?

 未成年のガキを死に至らしめるような行事をテストって言うな!!


『まあ、それだけ特殊能力者の醸成と確保は、今の世界だと重要だということだよ。たとえ、未来ある子供が何人も死ぬようなことになったとしても、ダンジョンから魔物が溢れ出すということは避けなければならない。実際、それでほとんどの国が滅んだわけだからね』


 長々と寄生虫が講釈を垂れてきたが、俺が言えることはただ一つ。

 知るかボケぇ!


 というか、そもそも俺はこういった制度に反対しているわけではない。

 子供の時から鍛えれば、それは大人になったとき優秀な兵士になるだろう。


 そして、魔物みたいな化物と戦うのであれば、それくらいの力がなければ不可能。

 いざというとき、国民を守るためには、致し方ないことなのかもしれない。


『分かっているならいいじゃん』

「(それは俺以外がやればいいじゃん。なんで俺がそっちのしんどい方をやるの?)」

『うわぁ……』


 これに尽きる。

 制度に対して反対しているわけではない。


 魔物と戦うため、強い兵士を作らなければならない。

 そのためには、子供の時から、命を落としかねない危険な訓練をしなければならない。


 それは分かる。

 俺以外が勝手にやっていれば、俺は何とも言わない。


 好きにやって、どうぞ。

 ただ、俺がそれをするのは明らかに間違っている。


 だから、俺は怒っているのだ。


「(分かるわ)」


 俺と綺羅子はうなずき合う。

 奇遇だな。


 ちなみに、綺羅子が肉盾になることには何の問題もない。

 むしろ、推奨する。


『なんで君たちは言葉を介しないで意思疎通をしているの? しかも、悪い方に』


 たまにどうしてもお互いの力を借りなければならない時に、公に意思疎通ができないときのために、こうしてアイコンタクトで意思を伝えあうことができるようにした。

 ちなみに、うっとうしさが増しただけだった。


 お互いの足を引っ張り合おうとするので、逆効果である。

 最悪だ。


「もちろん、まだ経験の浅いお前たちに、一人で深層まで向かえというわけじゃない。今までのテストでほぼ網羅された比較的安全な浅い層を、複数人のチームで探索してもらう。一つでも鉱石を取ってくれば、チーム全員が合格だ。チーム選びはお前たちで決められるから、しっかりと考えろよ」


 浦住の言葉に、俺は少し考え込む。

 そして、スマートな答えを導き出した。


 え? じゃあ不合格になったら退学できるの?

 やったー! 絶対鉱石取らないでおこう!


『そんな生易しいところかな、ここ……?』


 おい、不穏なことを言うのは止めろ。

 さて、チーム決めか……。


 やれやれ、人気者の俺に人が集まるのは困るな……。

 しかし、イケメンで性格よくて能力が高い俺に人が集まるのは必然。


 仕方ないところがある。

 やれやれだぜ。


「白峰くん! 私と組もう!」

「ううん、私と!」

「私よ!」

「は、ははっ、ちょっと待って。落ち着いて冷静に……!」

「…………」


 なんて思っていたら、クラスメイトのほとんどが白峰に殺到していた。

 ……は?


 あのポジション、普通俺じゃね?

 なんであの優男なの?


 あいつ、素人を拳でぼこぼこにしてきた性悪野郎だぞ?

 なんで俺じゃないんですかねぇ……。


『君の周りにいる女の子たちに勝てないと思ったからでしょ』


 俺の周りに女の子なんていたっけ?


『本当に分からない感じの質問は止めよう』

「あらあらぁ? どうしたのかしら、良人。なんだかすごく不服そうだわぁ」

「……綺羅子。君はそんなねっとりとした気持ち悪い話し方だったかな?」


 心底小ばかにした様子で俺に話しかけてくる綺羅子。

 うーん、殺したい。


 というか、お前も誰も人が寄り付いていねえじゃん。

 鬼宮はどうした、あのお前のマインドコントロールした舎弟。


「まあ、どうしてもと……どぉぉぉしてもと言うなら、一緒にチームを組んでも構わないわよ?」

「そうか、実は俺からお願いしようと思っていたんだ」

「え?」

『え?』


 俺がニッコリして答えると、想定外の返答だったのか、驚いたように見てくる。

 そうだ、俺は綺羅子と組もうと、最初から思っていた。


 なぜなら……。


「貴重な最前線で身体を張って肉壁になってくれるタンク、よろしくお願いします」

「ふざけているのかしら?」


 凄い。

 額に青筋ってあんなに浮かぶものなんだ。


 俺は綺羅子の額を見て、そんなことを思ったのであった。

 しかし、さすがに一人だと囮の数が足りない。


 もう少し増やしたいところだ。

 さて、後のチームメイトは……。


「当然、ウチっすよね!」

「私も梔子さんのお役に立ちます」

「…………」


 ぞろぞろとやってくる望んでいない人材たち。

 死神共がぁ……!




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よろしくお願いします!

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