第77話 なんかやばいことが起きるパターン
今日も今日とて授業が終わった。
あー、クソだるい。
今度は特殊能力を使う奴だったっけ?
マジでくだらねえわ。
教壇を見れば、相変わらずだるそうにしている浦住がいる。
俺を中国大陸に拉致しようとしたクソ最低女である。
司法取引とかいうバカげた制度を駆使し、処刑台に向かうことのなかった女だ。
本当、この国終わってるわ。
俺みたいな世界の宝を殺そうとした女を、どうしてまだ娑婆に出しているのか。
濃かった目の隈は、一生取れることがないほど染みついているが、少し薄れている気がする。
東部軍に支配されていたストレスから解放されたからと言っていたな。
その代わり俺のストレスはすさまじいことになっているけどな。
胃へのダメージが心配だ。
そんな浦住は、教室を出ようとして、ふと思い出したように言った。
「あー、そろそろ定期テストがあるぞ」
『ええええええええええ!?』
唐突なその言葉に、クラスは大発狂である。
なんで急にそんなことを、なんて不平不満が聞こえてくる。
それに対して、俺は椅子に座ったまま、余裕の笑みさえ浮かべていた。
『あれ、君は全然うろたえないんだね』
脳内寄生虫が不思議そうに声をかけてくる。
ふっ、まあな。
俺、勉強バリバリできるし。
そう、俺はできる子なのである。
日ごろからしっかりと勉学に励んでいるため、赤点を取る確率はほぼゼロパーセント。
というか、ありえないことだ。
なぜ勉強ができるのかというと、養ってくれる女が高学歴しかダメかもしれないだろ?
そういうことだ。
『学歴で判断するような人が男を養ってくれるかな……?』
うん。
そのつもりがなくとも、俺がその気にさせてやる。
それだけの口回しには自信があった。
「梔子くん、梔子くん。定期テスト、自信ありっすか?」
そんなことを考えていると、見えない場所から声がかかる。
透明という訳の分からん特殊能力を常時発動している隠木だ。
しかし、俺の部屋に来てはしょっちゅう解除して素の姿を見せているのに、どうしてクラスの中だと透明になっているのか。
毎回俺の部屋に来られても鬱陶しいだけなんだけど。
そろそろ真剣に止めてほしいわ。
「あー、どうだろうね。ただ、この学園の先生方は教え方がとてもうまいから……」
「まさか、慌ててテスト勉強をしなくとも余裕だったり……?」
「まあ、そうかな」
「はえー、すっごいっす!」
何とかどや顔をこらえる。
ふははははっ!
もっと褒めろ! もっと称えろ!
普段、ベラベラと俺の部屋に来てしょうもない話をしてくるんだ。
そのお返しを、今しろ。
俺を持ち上げに持ち上げて、気分を良くするんだよ!
俺はお前らとは違うんだ。
とくに、隠木は明らかにバカっぽいからな。
というか、見えないことをいいことに、授業中グースカ寝ていることも知っている。
なお、浦住にはばれて拳骨を落とされるので、あいつの授業だけはまじめに受けているようだ。
やれやれ。俺が勉強でも教えてやるとするか?
『え、どういう風の吹き回し? 絶対に人助けなんて得がなければしようとしないくせに……』
いや、単純にバカを間近で見て優越感に浸りたい。
俺の中にあるのは、それだけだ。
「もし勉強ができていないなら、俺も手伝うけど?」
おほぉ! この上から目線たまらねえ……。
あくまで君のことを思いやって言っているんですよアピールだ。
ほら、食いつけ。
そして、俺の自尊心を満たせ。
「いやいや、ウチも大丈夫っす。要領よくやっていれば、そこそこの点数を取れるので」
俺は愕然とする。
なん、だと……?
ろくにちゃんと授業を受けていないくせに、そこそこ点が取れるだと?
俺は割と真面目に授業を受けているのに?
なにこれ、秀才アピールか?
むかつくわ、死ね。
『沸点ひくっ』
あーあ、さっきまでいい気分だったのに台無しだわ。
見下せない相手なんていらない。
俺はすぐさまターゲットを変える。
「グレイはどうだ? 勉強について行けていないところとかあるか?」
近くに座るグレイを見る。
銀髪ボブカット、赤目が特徴的な冷たい女だ。
ちなみに、こいつも浦住と同じく俺の誘拐を画策した極刑にされるべき女である。
お前、亡国の王族だもんな。
王族ってあれだろ?
権力を笠に着てバカなことしかしないあんぽんたんしかいないんだろ?
俺、詳しいんだ。
『すさまじい偏見』
でも、実際こいつバカみたいな方法でこの俺を拉致しようとしたからな。
こいつもしょせんバカな王族であることは間違いない。
よし、こいつを見下して優越感に浸るとするか。
だというのに、グレイはちょっと自慢げにふんすと息を吐く。
「はい、大丈夫です。梔子さんのお役に立てるように、勉学も励んでいます。バッチリです」
俺はがっかりした。
なんだこいつら……。
どいつもこいつも勉強できるいい子ちゃんかよ。
鬱陶しいわぁ……。
せっかくマウントを取れると思っていたのに……。
俺の期待を返せ。
「先生、テスト範囲はどこからどこまでですか? 教科ごとに先生に教えてもらえるのでしょうか?」
心底げんなりとしていると、白峰が浦住にそんなことを聞いていた。
ああ、それは気になる。
しっかりと勉強はできていても、テスト範囲は分かっていて損はない。
すると、浦住は少し考えて、ああと納得する。
「ん? ああ、確かに学業でのテストもあるが、成績を出す際の比重は学業よりも特殊能力の方が重たいから、そっちを気にした方がいいぞ。学業の方は、そういった意味も含めてテスト範囲はかなり狭くしてあるからな」
俺は何を言われているのか分からなかった。
え? 特殊能力?
定期テストで特殊能力ってなに?
俺以外のクラスメイトも困惑していた。
「ああ、まだ伝えていなかったか」
一人納得する浦住は、何でもないように言った。
「特殊能力の定期テストは、ダンジョンに潜ることだ」
嫌だあああああああああああああああああ!!
絶対なんかやばいことが起きるパターンだあああああああああ!!
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