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第75話 出会い

 










「浦住先生、おはようございます!」

「ええ、おはようございます」


 職員室に入ってきた同僚に、浦住はそう返す。

 彼女は、警察に捕まって裁判にかけられることはなかった。


 まず、事情が事情だということ。

 東部軍に拉致され、人体に異物を埋め込まれ、操られていたということが、彼女の意志ではないということを明白にした。


 また、浦住が東部軍の裏事情をすべて自衛隊や公安に話したと言うことも大きいだろう。

 一種の司法取引のようになった。


 そもそも、国交というのが途絶えて久しい。

 外国の事情を知っているというだけでも大きく、内戦が起きている中華大陸のことを知ることができるのは、日本としてもかなりためになる。


 しかも、その一軍閥である東部軍は、何と日本の若い特殊能力者を拉致し、人体実験や洗脳を施し、スパイや兵として使っていると言う。

 とんでもない事態だ。


 その情報をすべて話したことや、無理やり拉致された被害者である彼女への同情心から、処罰されることはなかった。

 そして、彼女が優秀な特殊能力者というのも大きな理由の一つだ。


 そもそも、特殊能力開発学園の教師に選ばれるということが、浦住の高い能力を指示している。

 たとえ、東部軍の手の者による誘導や圧力があったとしても、だ。


 優秀な特殊能力者は、一人でも欠けることは許されない。

 これから先、また魔物の氾濫が起きないとも限らないのだから。


「いやー、しかし大変でしたね。あんなことが何度もあれば、いずれは外部に漏れて、メディアにも叩かれますよ。閉鎖的な場所で起きた事件だったからまだしも……。ことがことだけに、自衛隊や公安も公にはしないでくれるようですが」

「そうですね」


 同僚は、浦住が東部軍のスパイをしていたということは知らないし、あの騒ぎの元凶ということも同様だ。

 ただ、魔物がダンジョン外にいたということから、さすがにそれを隠すことはできなかった。


 ダンジョンからたまたま抜け出せたという設定にしているらしい。


「しかし、梔子は凄いですね。私が学生だった頃と比べて……いや、今の私と比べても、あいつの方が特殊能力を使いこなせているでしょう。鬼に続いて、アンピプテラまで撃破するとは……。それに、英雄七家の子とも二度戦い、二度とも勝利している。戦績は見張るものがありますね」

「ええ、本当に。凄い子ですよ」

「え、ええ……」


 同僚は自分から切り出した話題にも関わらず、少々うろたえてしまう。

 あの浦住が、柔らかい笑みをこぼしたからである。


 今まで一度も見たことのない純粋な彼女の笑顔に、思わずドギマギしてしまった。

 ……浦住の笑顔が良人のことを思って浮かんだものだということに気づかなかったのは、幸いである。


「し、しかし、こういう問題続きだからこそ、より気を付けていかなければなりませんね」

「……何をでしょう?」


 自分のことでいっぱいいっぱいだったので、ついスケジュールが抜けていた。

 というか、そもそも中国大陸に渡って東部軍に殺される予定だったから、なおさらである。


「またまた。そろそろじゃないですか」


 そんな浦住の様子を見て、苦笑する同僚。

 そして、彼はゆっくりと口を開いた。


「――――――特殊能力開発学園、一学期の学期末試験」










 ◆



 時間は流れる。

 そこは、決して人が誰も近寄ることのない場所のはずだった。


 いや、近寄ろうと思っても、たどり着けないというのが正しいだろう。

 なにせ、そこはダンジョン深奥部。


 ダンジョンが世界に現れて、魔物が溢れ出したその時から。

 人類がそこにたどり着いたことはない。


 完全に未知の世界である。

 そんな場所に、一人の少女がいた。


「…………」


 たった一人。

 人類がたどり着いたことのない場所に、彼女はたった一人でいた。


 誰も来ない閉ざされた場所にいても、彼女は何とも思わない。

 生まれた時から、自我が芽生えてからずっとそうなのだから、思うはずがない。


 他に人が大勢いて、共同社会を作って暮らしているという状況を、彼女は知りもしないのだから。


「…………」


 彼女はひざまずき、手を合わせて目を閉じる。

 それは、祈りのしぐさだった。


 何に祈るのか、何を祈るのか。

 それは、彼女にしか分からない。


 いや、もしかしたら、彼女自身ですらも、分かっていないかもしれない。

 だが、一人で彼女はここで祈る。


 それを、ただひたすらに、機械的に繰り返す。


「……は? なにここ?」


 だから、そんな彼女の前に、人がやってくるなんて、思いもしないのである。

 自分以外の声に、ゆっくりと振り返る。


 そこには、顔が整った少年が、ひどく困惑した様子で自分を見ていた。


「……初めまして?」

「あ、どうも……(未開の原住民族と遭遇してしまった。どうしよう……。非文明人と話したくないよ……)」


 少女は、彼と出会った。

 それが、良い未来につながるか、それとも……。


 それは、まだ誰もわからなかった。



第3章完結です! 次回より、第4章となります。

ブックマークや下記から評価してもらえると嬉しいです。

また、過去作『偽・聖剣物語』のコミカライズ第5巻が12日に発売されるので、よろしくお願いします!

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