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第65話 はあああ!? 何やってんのおお!?

 










 意識が急浮上するのを実感する。

 今地面に寝かせられている感じだと思うが、その地面が少しずつ揺れているのである。


 地震にしては断続的で長い。

 うーん、うるせえ。


 ドッスンドッスン何してやがんだ。

 力士が数十人集まって近くでジャンプを繰り返しているのか?


 はた迷惑すぎる。


『ほら、いい加減起きなよ。てか、このまま寝ていたらマズイことになるよ』


 寄生虫の脅し。

 俺は脅しには屈しない。


 マズイことって、何が?

 そう言えば、俺は浦住に首を絞められて気絶させられたのだった。


 背中に柔らかい凶暴な塊が二つ押し付けられていたが、まったくどうでもいいことだ。

 よくも俺に危害を加えてくれたな、ゴミムシが……!


 絶対に許さん。

 地の果てまで追い詰めて、地獄の苦しみを与えてやる!


 ……と思ったけど、直接戦うのは怖いから、ちょっと寝たふりをしておこう。

 すやぁ……。


『それでもいいけど、後々取り返しがつかなくなって、あの時起きておけばよかったと思わないようにね?』


 なんでそんな人が不安になるようなことを言うの?

 ぶっちゃけ、この大きな音が断続的に続いているだけでも十分不安になっているというのに。


 この寄生虫は誰が宿主か分かっていないようだ。

 大恩ある俺に対して、もっと忠実に仕えろ。


『というか、強者と強者が全力の殺し合いをしているから、早く起きないとすぐそばにいる君はミンチになる運命で……』

「おはよう、世界」


 パチクリと目を覚ます。

 寝起きが悪いはずなのに、こんなにも爽やかに起きることができたのは初めてかもしれない。


 というか、強い奴同士の殺し合いってどういうこと?

 なにその一度でも遭遇したくない現場。


 俺が寝ている傍で何やってんだ、そいつら。

 すると……。


「ふっ……!」


 人の身体がバッと多数のコウモリに散る。

 あれは……グレイか?


 真っ赤な目が闇夜に輝いていて怖い。

 そんなコウモリたちが迫るのは……クソチビバイオレンスゴリラウーマン、浦住だ。


 大量のコウモリが襲い掛かってくるというなかなかビビる光景にもかかわらず、彼女は表情を一切変えることはない。

 面倒くさそうに足を振り上げると、地面に叩きつける。


「ぬぉっ!?」


 ドン! とすさまじい音がした。

 というか、さっきから地震が起きていたのはお前のせいか!


 地割れが起き、木々が倒れる。

 浮き上がる衝撃によって、コウモリたちを寄せ付けない。


 衝撃のバリアってなに?

 もうこいつ人間じゃないだろ。


 コウモリたちはパッと避けて、再び集まって人間の形を作っていく。

 その過程でコウモリたちの間からとがった木の枝が、浦住の目に向かって放たれる。


 浦住は相変わらず表情を変えることなく、その枝をガシッと掴むと、たやすくへし折った。

 いや、割と太い感じがしていましたけど、片手で握りつぶせるやつですか、それ?


 そして、その間にコウモリは完全にグレイの姿へと戻っていた。

 一瞬の沈黙に包まれる場。


 理解の範疇を超えた戦闘を見せられた俺は……。


「えぇ、何これ……?」


 なんでこいつら二人が殺し合いをしているの?

 しかも、俺の傍で。


 危ないだろ。

 他所でやれ。


 そして相討ちになれ。


「梔子さん! 目を覚ましましたか」


 俺に気づいたグレイが近づいてくる。

 ぎゃあ!


 拉致誘拐未遂犯!

 早くぅ! 警察の人呼んでぇ!


「ああ、面倒だな。さっさと殺せなかったのが痛かった。まさか、ここまで対人戦に慣れているとは」


 同じく気づいた浦住が、面倒くさそうにため息をついた。

 おい、何だその反応。


 お前、俺の首を絞めただろ。

 絶対に許さないからな。


「私は亡命政府軍から軍事教練を受けていましたから。それでも、あと少し続けていれば、殺されていたのは私でしょう」

「年の功というやつさ。お前もあたしくらいの年齢になったら、軽くあたしを超えていく。まあ、そこまで生かすつもりはないがな」


 ……何の話をしてんの?

 てか、結局お前らはなんで殺し合いをしていたの?


 全然何も分からねえ。

 だけれども、無知は罪であり、格好悪い。


 とりあえず、神妙そうな顔をして頷いておく。


「……そういう状況か」

『見栄を張らないでどういう状況か教えてって言えばいいのに……』


 嫌です。


「さすが梔子さん。理解が早くて助かります」


 なんか褒めてくれるグレイ。

 まあね。俺、他の奴とは違うから。


 ところでこれどういう状況?


「あなたを助けに来た私が助けられるのも滑稽な話ですが……ご助力、いただけますか?」


 おずおずと問いかけてくるグレイ。

 嫌です……。


 てか、助けに来たってなに?

 俺の近くで殺し合いをすることが助けになるの?


 全然分かりません……。


「俺は君の友人だからな。友人が困っているのであれば、俺は全力で手助けするよ」


 しかし、俺にはこういう他ない。

 当たり前だろ。


 助けてくれって直接言われて拒否できるわけないだろ。

 俺の評価が地獄にまで堕ちるわ。


 そもそも、こいつを見捨てても浦住から逃げられるか怪しいし。


「……ありがとうございます」


 何やら感動したように目を潤ませるグレイ。

 まあ、いざとなれば盾になれよ。


「話は終わったか?」


 浦住が声をかけてくる。

 喋りかけてくんな、クソロリが。


「梔子、抵抗しないのであれば、あたしもお前に対して手荒な真似はしない」


 一度締め落としてきているくせに何を言ってんだこいつ。

 説得力が皆無である。


 誰が信用するんだ、お前のことなんか。


「余計な傷を負わせるわけにもいかないんだよ。大人しくしてくれないか?」

「それであなたを助けることができるのであれば、やぶさかではありません」

「梔子さん?」


 驚いたように俺を見るグレイ。

 いや、言葉の綾です。


 自分のために拒否するよりも、相手のことを思って拒否した方が、何かいい感じがするじゃん?

 浦住も驚いたように目を丸くした。


「だが、それであなたを本当に救えるとは到底思えない。だから、お断りします」


 あなたのためアピールだ。

 ちなみに、救うような状況にいるのかは知らないし、そうであったとしても救うつもりなんて毛頭ない。


「……そうか。もっと早くお前が生まれてくれていれば、あたしはお前に救われたのかもしれないな。だが、もう遅い。手遅れだ」


 ふっと目を閉じる浦住。

 それは、今の言葉を心にしみわたらせているようで……。


 ……今のうちに逃げられないか?

 とか思っていたら、目を開けられた。


 永遠に閉じてろ。


「分かった。お前がそう言うんだったら仕方ない。多少、痛い思いは覚悟しろ」

「さあ、行くぞ、グレイ」


 雰囲気が変わるのを察して、危機感が爆上がりする。

 お前が早く前に立て!


 俺が危ないぞ!


「……! 分かりました」


 俺の強い視線を受けたグレイは、コクリと決意に満ちた表情で頷いた。

 ヨシ!


 そうすると、スッと俺の背後に回るグレイ。

 …………はあああ!? 何やってんのおお!?


 何も分かってねえじゃねえか、お前!!


「女の子を庇うとか格好いいな、梔子。後悔するなよ?」


 浦住がニヤリと笑って言う。

 もうしています!!




過去作『破壊神様の再征服』の小説第1巻が4月25日に、過去作『偽・聖剣物語』のコミカライズ第5巻は5月12日に発売されます。

よろしくお願いします!

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