第60話 どうして!?
目の前のチャイナ女をしり目に、俺と綺羅子はコソコソと会話をする。
「どうするの? あれ、めちゃくちゃコテコテのキャラなんだけど」
「な。えぐいよな。必死のキャラ付けじゃん。まあ、確かに印象的には強いけどさ」
俺は改めてチャイナ女を見る。
真っ赤なスリットの入ったチャイナ服。
分厚く曲線をえがいた中国刀。
古い漫画に出てくる中華キャラにありがちなアルという語尾。
……完全にチャイナ女だ。
キャラ付けが凄い。
「えーと……目的は何かな?」
「目的は、お前らをぶっ殺すことアル」
「なんで!?」
けろっと当たり前のように言われて、激しく狼狽する。
よく「殺す」やら「死ね」やら現代っ子は使いがちだが、中華刀でマジで殺されかけた後だから、とんでもなく怖い。
とてつもなくデンジャラスなんだけど。
どうして顔も知らない外人に命を狙われなきゃならんのだ。
納得いかん。
「理由は知らないヨ。別に、どうでもいいし。リンリンはお前らをぶっ殺す。お金をもらう。皆ハッピー」
「俺たちがハッピーじゃなくなっているんだけど」
「自分以外の奴がどうなろうと知ったことじゃないネ」
ほう、奇遇だな……。
中華刀の上から降りて当たり前のように言うチャイナ女に、シンパシーを感じた。
しかし、こいつクズだな。
当たり前のように自分優先を言うなんて。
俺でも心の中でしか言わないのに。
周りからの顰蹙を買うからな。
『悪役に共感しないでよ』
「でも、中国人に命を狙われる理由が分からないんだが……」
「ふぁ!? リンリン、お前に情報を一切渡していないのに……。エスパーか?」
驚愕したと俺を見てくる釣り目のチャイナ女。
バカなの?
そんなアルアル言っていてチャイナ服を着ていて中国人を連想しない奴いるわけないだろ。
むしろ、中国人のふりをしていると言われた方が理解できる。
中国に悪評を押し付けるためにとか。
……まあ、ほとんど国が滅んでいる現代で、そんなことをする国があるとは思えないけど。
日本以外でそんなことができるのって、アメリカくらいだし。
「いや、君が中国人全開だし」
「馬鹿な……。同じアジア人なのに、一瞬で理解するとは……。お前、強いな」
真剣な表情を浮かべるチャイナ女。
ひょっとしてギャグで言っているのか?
というか、ちょっと面白くなってきた。
自分よりも格下を見るのって、やっぱり楽しいわ。
それは、綺羅子も同じだったようで、口を開いた。
「あの軍人たちも外国語を話していたし、中国軍があなたを雇っているのかしら?」
「そ、そこまでも……!?」
くっくっとほくそ笑む。
慌てるチャイナ女が面白くて仕方ない。
……あれ? 中国軍に狙われるっていう方がまずくないか?
なんで外国の軍隊に狙われているんだ?
怖いんだけど、それ以上に目の前の馬鹿をからかいたくて仕方ない。
「君の名前はリンリンって言うのか」
「り、リンリンの名前までも!? ど、どうして……。本当にエスパーなの!?」
お前の一人称で分かるんだよ、名前が。
立花と同じタイプなんだもん。
右往左往してあわあわしているチャイナ女――――リンリンが面白くて仕方ない。
しばらくずっと弄りたいわ。
なんてことを思っていたら、強い殺意が向けられた。
「ここまで知られたからには、生かしておけないネ。もともと殺すつもりだったけど、確実にぶっ殺すアル」
「藪蛇だった……!」
「何をしているのよ!」
「お前も楽しそうにしていただろうが……!」
小声で喧嘩をする。
綺羅子! 綺羅子からお願いします!
その間に教師とか集まってくるだろうから!
「じゃあ、行くヨ!」
中華刀を拾い上げるリンリン。
来るな!!
◆
「(うーん、どっちから殺したらいいかしら)」
クルクルと中華刀を回しながら、リンリンは思案していた。
1対2だ。
数が多い方が戦闘では有利である。
相手が多い時の戦い方は、できる限り一対一の戦いに持ち込んで各個撃破していくことだ。
そうなると、近接戦闘を仕掛けることになる。
幸い、リンリンにはその心得があった。
だから、すぐにでもどちらかに襲い掛かりたいのだが……。
「(あの攻撃、厄介なんだよネ)」
最初は自分一人だけではなかった。
中国の東部軍の幹部から預けられた軍人たちがいた。
その数も含めれば自分たちの方が有利だったのだが、それは一撃で覆された。
「(あんな強力な特殊能力があるのネ。確かに脅威)」
自分の持つ特殊能力もそれなりに使い勝手がいいのだが、攻撃という一面だけを見ると、綺羅子の『爆槍』はとびぬけていた。
あれを喰らうわけにはいかない。
なら、先に綺羅子から無力化するか?
「ひっ……ガン見されているんだけど」
「ご指名だ、綺羅子。お客様を楽しませてきなさい」
「なんでキャバクラみたいなことを言ってんの? あなたに雇われるなんて死んでもごめんなんだけど」
コソコソと相変わらず仲良さげに会話をする二人を見る。
さて、どちらからタイマンに持ち込むかだが……。
「やっぱ、ここは男を見せるべきネ!」
「どうして!?」
リンリンは良人に襲い掛かった。
理由としては、いくつかある。
まず、彼が男であるということ。
特殊能力が当たり前のように生まれている現代ではそうでもないが、生物的には女よりも男の方が身体能力が高いことが多い。
手ごわい方から潰すのは定石だ。
加えて、綺羅子の『爆槍』は、近くに味方がいれば敵に使用できないと悟ったからである。
あの広範囲に及ぶ高い火力は、味方をも危険にさらす。
そのため、自分と良人が近接戦闘をしていればあの槍を使えないと踏んだのである。
「首を寄こせ!」
「嫌だ!!」
迫真の拒絶である。
リンリンは中華刀を使い、まるで独楽のように回って踊るように攻撃する。
ひらひらと舞う姿は、艶やかなチャイナドレスも相まって、非常に美しい。
自分が最初に狙われないことを知ってほっこりした綺羅子も、思わず目を見張るほどだ。
「(うおおおおお!? 死ぬうううううう!?)」
もちろん、攻撃されている良人に見ほれる余裕なんてないわけだが。
繰り出される数々の剣戟。
まだ一分も経っていないが、すでに良人は満身創痍である。
傷を負っているというよりは、やはり体力だろう。
特殊能力開発学園では、一般的な学業に加えて、特殊能力の扱い方も学ぶ。
将来は魔物との戦闘も考え、戦闘訓練もある。
授業なため強制参加であり、嫌々良人と綺羅子も参加している。
それだけなら何とか言い訳をつけてサボる手段を見つける二人だが、とくに良人に限ってはクラスに二人しかいない男ということもあって、もっぱら白峰と組まされる。
相手は小さなころから特殊能力に親しみ、訓練を受けていた英雄七家の息子である。
かつて、ボコボコにされた経験からも、彼が強いということは明白だ。
そんな白峰とほぼ毎日組手なんてさせられていたら、身のこなしもそれなりのものとなる。
リンリンの命を刈り取る攻撃も、時折薄皮を切られながらも必死に逃れられていた。
「(も、もう無理っす……)」
しかし、体力はなかった。
何かと言い訳をして隙を見てサボっていたからである。
この一分の激しい攻撃によって、もう悲鳴を上げそうなほど息を荒くしていた。
そして……。
「よっ」
「ぐおっ!?」
スッとしゃがむと、あっさりと良人の足を蹴り払う。
横から蹴られ、ふわりと宙に浮かぶ身体。
そして、それは十分すぎる、致命的な隙だった。
「まずは、一人アル」
分厚い中華刀が、良人の胸に突き刺さった。
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