第51話 勝手に行ってください、どうぞ
臨海学校があるとだけ告げて、浦住は満足そうに出て行った。
……詳細は?
日程とか場所とかは?
あいつ、マジで教師向いてねえよ。
『何なら向いているの?』
さあ?
特殊性癖持ちのお兄ちゃんたちのお相手とかしていれば?
興味ナッシングだわ。
「じゃあ、グループ決めをしようか。……というか、詳しいことは何も先生から伝えられていないから、大まかな決め方になっちゃうんだけどね」
こういう時に取りまとめをするのは、相変わらず白峰だ。
さすがに今回は対応に苦慮しているようだが……。
こういう出しゃばりが一人クラスにいてくれると助かるよな。
面倒事を率先してやってくれるのは感謝する。
まあ、俺のことをボコボコにしたのは許さんけどな。
『ことあるごとにチクチク刺すね』
「とりあえず、人数は10人は超えないようにしておこう。そこから正式に人数が決まったら、分かれていったらいいと思うし。じゃあ、さっそくそれぞれ好きな人とグループを……」
そう言った瞬間だった。
白峰の前に、ずらりとクラスメイトたちが並ぶ。
そして、一斉に手を差し出したのだ。
「「「「白峰くん! 私と組んで!」」」」
「うわぁっ!?」
傍から見ていた俺でも引くレベルの団結だ。
それを直接向けられた白峰は恐怖しかないだろう。
笑えるわ。
しかし、奴は人気者だな。
うん、まあそれはいい。
男の数が少ないから、それに集中するのもわかる。
思春期だもんね。
でも……。
「――――――なぜ、俺のところには来ない……!?」
俺の前は閑古鳥が鳴いている。
誰も……誰も来ていない。
ば、馬鹿な……。
スーパーイケメンパーフェクトヒューマンである俺に対し、誰もこないだと……?
そんな事象がこの世に存在するのか……?
唖然としていると、隣からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
黒髪をセミロングに切りそろえている女、綺羅子だった。
「(あれあれー? 自称イケメンの良人さん? どうして誰もあなたのところに来ていないのかしら? 不思議だわー)」
「(き、貴様……!)」
コソコソと話しかけてくる。
これ以上ないほど楽しそうだ。
満面の邪悪な笑顔である。
白峰はこの女に惚れているっぽいが、この笑みを見せたら百年の恋も一瞬で冷めるだろう。
怖すぎて。
「(どおしても、どおおおおおしてもと言うんだったら、この超絶美少女綺羅子様が同じグループになってあげてもいいけどぉ?)」
「な、舐めやがって……!」
自分が圧倒的優位にいると信じてやまないその態度。
何と傲慢なことか。
だいたい、超絶美少女ってどこにいるんだよ。
教えてみろよ。
『たかがグループ決めで何をしているの、君たち?』
寄生虫の言葉に、俺はカッとする。
たかがだと!?
こういった学校行事のグループ決めっていうのは、めちゃくちゃ大事なんだぞ!
『君も誰かと一緒に行きたいってことなんだね。見直したよ』
何か感心したような声音だ。
勘違いしてんじゃねえよ!
んなわけねえだろうが!
嫌だわ!
集団行動なんてとりたくないから、誰ともグループになりたくねえわ!
でもなあ! もしここで誰ともグループにならないと、『あれ? 梔子くんってあんなにイケメンで性格もいいのにボッチなんだ。ふーん』っと見下されることになるんだ!
『いや、そんな感じにはならないと思うけど……』
なるわ!
人間は常に自分以外の見下せる対象を求めるものなんだよ!
友達が少ない、もしくはいないというのも、見下し要素になる。
なにせ、大したことない奴でも知り合いくらいは作れるから、簡単に見下せるからな。
『そんな人はそうそういないと思うんだけど。君たちくらいだよね?』
違うわ!
人間を甘く見るなよ、寄生虫!
『もう僕は寄生虫なんだね……』
心外だと言わんばかりに落ち込んでいるが、心外なのはこっちの方だ。
いや、寄生虫以外のなにものでもないだろ、お前。
マジで俺の脳の容量を食い荒らしやがって。
『と言っても、今回は君に人気がないとか、そういう理由でクラスメイトが寄ってこなかったというわけでもないようだけどね』
話を逸らすつもりか、この寄生虫。
そう思っていたら、いつの間にか俺の机が複数のクラスメイトに囲まれていた。
え? 怖い……。
「くっちなしくーん! ウチらと一緒にグループになりましょう! まあ、派閥的にもう決まっているようなものっすけどね」
エントリーナンバー1番!
見えない痴女、隠木!
「たちばなも賛成だよ」
エントリーナンバー2番!
自分のことを苗字で呼ぶというキャラ付けを間違った女、立花!
「私はどっちもでいいかなぁ」
エントリーナンバー3番!
いつもダラダラしていて羨ま……むかつく行橋(姉)!
「だらけるお姉ちゃんもかわいい……」
エントリーナンバー4番!
姉に向けている異常な愛情は悍ましい、行橋(妹)!
「……私もお願いします」
エントリーナンバー5番!
亡国の姫で俺を魔物はびこる死地に拉致しようとした、グレイ!
も、問題児ども……! どいつもこいつも……!
しかも、誘拐犯も混じっているじゃねえか……!
『この無派閥が君を取り入れると想定していたから、他の派閥の子たちは誰も君を誘わなかったんだろうね。その代わり、白峰くんの倍率がとんでもないことになっているけど』
白峰ぇ!
こいつらもちゃんと引き取れやあ!
なんで俺のところに不発弾を全部突っ込んできたぁ!
「黒蜜さん! 私たちも一緒になりましょう!」
「え、ええ、そうですね……?」
焦って辺りを見渡していると、隣でヤンキー共に囲まれた綺羅子がいた。
激しく狼狽している。
先ほどまで俺をいじめて生き生きしていた彼女はどこにいったのか。
ちょっとほっこりした。
「(ヤンキーに囲まれて怯えている綺羅子ちゃん、かわいいね^^)」
「(このクソ野郎……!)」
「ああ、よろしく頼むよ」
苦しむ綺羅子を見られたおかげで、温かい気持ちになれた。
本当なら絶対に一緒のグループになりたくないが、受け入れてやるとするか。
「じゃあ、さっそくっすね!」
「え、何が?」
さっそく楽しそうに話をする隠木。
嫌な予感がするから喋らないでほしい。
「臨海学校……つまり、海っすよ? なら行くところなんて決まっているっすよね?」
決まっていないです。
他の連中も、やけに目をキラキラさせている。
「水着を買いに行くっすよ!」
おーっと一斉に腕を突き上げる無派閥共。
お前ら、こういうのに全然興味なさそうなのに……。
あ、俺いらないんで勝手に行ってください、どうぞ。




