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第44話 吸血鬼

 










「くっ、ひっ、ほっ、ふぉっ!?」

「ぷっ、ピエロみたいね」

「(じゃあ、お前が戦えや!!)」


 良人が特殊能力を無効化するというのは、グレイも当然知識の中にある。

 そのため、彼と戦うにあたっては、特殊能力を使えない。


 彼女は、ひたすらに肉弾戦を仕掛けた。

 姫という地位の高い存在ではあるが、護身術程度は教えられる。


 加えて、グレイの国は魔物の氾濫もあって、軍事に一気に傾倒せざるを得ない状況だった。

 彼女の近接戦闘能力は、そこらの軍人を軽く凌駕していた。


 そのため、良人は格好よさを意識することすらできず、ひたすら逃げ惑うしかない。

 綺羅子、これにはご満悦である。


 もちろん、彼も素人。

 軍人以上に鍛えられた近接戦闘を仕掛けられて、無傷でいられるはずもない。


 所々拳を貰ってあざができている。

 ブチ切れである。


 しかし、抑え込まれて関節技を決められていないのは、ひとえに逃げ一択だからだ。

 反撃も一切考えず、逃げることに徹している者を抑え込むのは、なかなか難しい。


 加えて、良人の逃げる、避けるといった技術の異常なまでの高さがあった。

 白峰にボコられるという絶対許せない展開があったこともあるが、これは彼の天性のものである。


 逃げることを宿命づけられた男、梔子 良人。

 グレイの攻撃も、何とか逃げ続けていた。


「(素晴らしい判断、決断力です。やはり、この人は欲しい……!)」


 逃げられ続けているグレイだが、では良人を侮り嘲るかと言われれば、それはしない。

 彼の判断は正しい。


 正直、少し前まで一般人だった良人に、軍事教練も受けたグレイが負けることはないだろう。

 勝てない、そして逃げられない状況。


 ならば、時間を稼いで助けを待つというのは、とても理にかなっている。

 自分で何とかしようとせず、最善の策をとるのはなかなか難しいことだ。


 コルベールの【ドーム】は、高い防御性もある。

 外部から攻撃を受けても、そうそう崩れることはない。


 だが、特殊能力開発学園の教師陣は、高いレベルの特殊能力を持っている。

 破壊され、中に入られることも十分に考えられる。


「(一番されたくないことをしてきますね。この状況でも冷静さを失わないのは、さすがです)」


 グレイは良人を高く評価する。

 しかし、このまま彼の策略に乗り続けることはできない。


 時間がないのは、彼女の方である。


「ならば……」

「(へいへーい。頑張れ頑張れ♡ 私が応援してあげるわよ)」


 心配そうに(キャッキャしながら)良人を見ている綺羅子。

 彼女を攻めるしかない。


「……あら?」


 ここで、グレイの赤い目が自分を捉えていることに気づく綺羅子。

 冷や汗をタラリと垂らす。


「私の特殊能力、お見せしたことはありませんでしたよね。私、こういうことができるんです」


 グレイがそう言うと、彼女の身体を黒い靄が覆っていく。

 そして、彼女の身体がゆっくりと霧散していき……。


「こ、コウモリ!?」


 バッとグレイの身体が多数のコウモリに変化。

 四方八方に飛び回る。


 人間がコウモリになるという異常な光景を目の当たりにして、二人は目を丸くする。

 ちなみに、ターゲットが変わったと良人は気を抜きまくっており、綺羅子は逆に大変焦っていた。


「くっ……! 【爆槍】!」

「(うわ、躊躇なく殺しに行ったぞ、あいつ)」

『あの冷徹なまでの即決即断を未成年ができるってえげつないね』


 飛び回るコウモリに、破壊力満点の槍を振るう。

 と言っても、彼女はド素人。


 槍の使い方なんて、まったく知らない。

 えいやっと突き出しても、身軽に飛び回るコウモリを仕留めることはできなかった。


『それに、その中の一匹を殺しても、何の意味もありません。このコウモリの総体こそが、私なのですから』


 数匹殺されたところで影響はない。

 そうグレイは告げた。


「きーらーこー。だいじょーぶか?」

「全然やる気のない心配の声ならかけないでちょうだい……!」


 もう俺の役割は終わりだと、のほほんとする良人。

 綺羅子のことを心配しているアピールはするが、助けるつもりは毛頭ない。


 さっきも自分だけが戦わせられていたのだから、当然である。

 なお、そうでなかったとしても助ける気はなかった模様。


「くっ……! こんなことを続けていても、何も変わりませんよ!」

『ええ、そうですね。決定打に欠けます。このままだと、外から侵入されて捕らえられるでしょう。ですから……』


 苦し紛れの綺羅子の声に、グレイはそう反応する。

 コウモリたちは、自由気ままに飛び回る。


 綺羅子がターゲットにされていることで、良人は完全に気を抜いている。

 だから、コウモリたちが彼の背後で集まっていたことに、気づくのが遅れた。


「こうして、最初からあなた狙いでした」

「なにぃ!?」


 ギョッと振り返ろうとする良人。

 すでに、コウモリが集まってグレイは人の形に戻っていた。


 完全な不意打ち、奇襲である。

 これには綺羅子もにっこり。


「【吸血】」


 そして、その鋭い牙が、良人の首筋に食い込むのであった。











 ◆



 ジェーン・グレイの特殊能力は、【吸血鬼】。

 吸血鬼として知られているような能力なら、基本的に扱うことができる。


 弱点も有効なのだが、本物に比べれば我慢できる程度のものでしかない。

 身体をコウモリに変えることもできるし、吸血鬼の最たる能力、吸血を行うこともできる。


 ただ、蚊などのように、血を啜っておしまいというわけではない。

 血を吸った相手を魅了し、操り人形に仕立て上げることができる。


「(梔子さんの【無効化】は、特殊能力が物理的に衝突する直前に作用していると考えるのが妥当。では、体内に侵食する特殊能力ならば……)」


 グレイの魅了は、血を啜ってから発動する、いわば後天的な特殊能力。

 これならば、【無効化】の適用範囲外になるのではないか。


 そう思っていた。

 そして、実際に首に食らいつき、血を啜ることを無効化されなかった。


「(いける……!)」


 プハッと口を離す。

 鋭くとがった歯に、血が濡れている。


 顔を真っ青にしてプルプル震えている良人に、グレイは特殊能力を使う。


「さあ、私と共に、ロストランド王国に向かい、憎き魔物たちを殲滅してください!」

「……ッ!」


 魅了が発動する。

 無効化されずに、確かに作用したのだ。


「やった……!」


 歓喜の声を上げるグレイ。

 仲睦まじいカップルのことだ。


 片方が頷けば、片方はどう思っていようとも心配でついてくるに違いない。

 二人ともを制圧する必要なんてないのだ。


 片方を捕らえれば、両方手に入れることができる。

 これで、失われた祖国を取り戻すことができる!


 歓喜に震えるグレイ。


「……え?」


 だから、特殊能力が途中で打ち消されたことに、目を丸くした。



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