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第43話 諦めろよ!

 










 とあるSNSでは。


『一年生史上最高の戦いが、途中で中断しそうな件について』

『史上最高の戦いは、一組と二組の一回戦だから。決勝戦がなくなるのはまだ我慢できるわ』


『俺はもっと英雄七家を見たかったんだよ!』

『一回戦を見れていなかったんだけど、そんなに良かったの?』


『下克上だぞ。英雄七家が負けた』

『英雄七家が英雄七家を倒すのは別に不思議なことじゃないだろ。今までもあったし』


『黒杉家を倒したのは白峰家じゃねえよ。駆け落ちカップルだ』

『えぇ……。色ボケしているのに負けたのかよ……』


『褒められたことではないけど、あの子らだけ責めるのは違うだろ』

『は? なんで?』


『自由意思を奪って当然のように特殊能力開発学園に入学させて、卒業させたら国家公務員だぞ』

『勝ち組じゃん』


『その国家公務員の死傷率のことを考えているんですかねぇ……』

『公表されているだけでもかなりの数だし、そうでないのを含めたらもっと多いだろうな。ダンジョンで死んだら遺体も持ち帰る余裕がないから、行方不明扱いになるって元公務員が暴露していたし』


『そりゃ嫌がるだろ』

『は? 他の奴らもそうしているんだから、二人だけわがままで逃げるとか論外だわ』


『自分が助かろうと言うよりも、二人ともお互いのことを思って逃げたんだもんな。叩く気にならないわ』

『俺だって特殊能力があってあそこにぶち込まれるとか絶対に嫌だしなあ』


『でも、あそこって女ばかりだから、梔子って常時ハーレム状態だぞ』

『絶対に許さない』


『顔も見たくない』

『あいつを庇ったのは間違いだった』


『てか、何でそもそも特殊能力って女にしか発現しないんだ?』

『男でも特殊能力を出す奴はいるだろ。数はめっちゃ少ないけど』


『それでも、基本的に英雄七家みたいなしっかりとした血の一族ばっかだけどな』

『梔子みたいなのはほんと珍しいよな』


『そんなのはどうでもいいんだよ! 梔子たちの戦いが全然見えねえよ! 何だあの黒い箱は! 誰だよ、あんな無粋なものを使いやがった奴!』

『なんか乱入してきていたよな。めっちゃ美人が』


『実況が亡国の姫とか言っているぞ』

『……どういうことなの?』


『滅びた国を救うために梔子たちを誘拐しに来たんだぞ』

『嘘をつくな。姫様親衛隊の俺が許さん』


『いつの間にか家来になっている奴がいるんだけど』

『でも、中ではマジでどうなってんだろうな』











 ◆



 ドームの中では、すでに良人と綺羅子、そしてグレイの衝突は何度となく繰り広げられていた。

 と言っても、良人が必死にグレイの攻撃をいなしているだけだが。


 綺羅子は、うまい感じに彼の影に隠れてコソコソしているため、攻撃の対象にされていない。

 強い。


「これが、君の特殊能力か?」


 良人が問いかける。

 もちろん、大して興味はない。


 ただ、時間を稼ぎたかっただけだ。

 逃げ続ける体力も、ほとんど限界である。


 大量の汗を流し、ぜーはーと肩で息をしつつ、キリッとした表情で問いかける。


「(教師ぃ! さっさと助けに来いや、無能共がぁ!)」

「いえ、私の特殊能力は違います。これは、私の協力者によるものです」

「なるほどな。彼らが倒れてしまったのも、このドームのせいか?」


 心配そうに倒れる白峰たちを見る。

 当然、心配していない。


「それも違います。彼の使うドームは、そんなに便利な特殊能力ではありません。ただ、こうして外と内に隔離し、暗い空間を作り出すだけのものです。とはいえ、隠密をしなければならない軍事作戦中には、非常に重宝する力ですが」

「それだけじゃないだろう。白峰たちが倒れているのも、このドームの力か?」

「その通りです。私からすれば、あなたたちが平然と立っていることが驚きです」


 グレイは純粋な賞賛を口にした。

 コルベールの使う【ドーム】で彼らを無力化し、連れて行こうと考えていた。


 自分が戦うにしても、少しの時間稼ぎで彼らは立ち上がることができなくなると。

 しかし、もう十分近くたつも、いまだに彼らは健在だ。


「このドームは、中にいる者の精神力を蝕み、吸い取る。彼らが倒れているのは、精神的に激しく疲弊しているからです」


 肉体的にダメージを与えるものではない。

 しかし、精神的に疲弊させ、気を失わせるこの力は強い。


 立ち上がれなくなった人間なら、簡単に殺すことができる。

 戦争などではとても重宝する力だ。


「常人ならとっくに気を失っていても不思議ではないのに、あなたたちは立ち、私と戦っている。その事実は、私を驚かせています」

『つまり、メンタルが鋼でできている二人だからこそ、倒れていないということか。どれだけ精神的に強いの、君たち?』


 自分以外どうなってもいい。

 自分が良ければ、すべてよし。


 そんな信条を当たり前のように持っている二人のメンタルは、コルベールの特殊能力ごときに負けるはずがなかった。


「(面の皮が厚い綺羅子なら納得だな)」

「(面の皮が厚い良人なら納得ね)」


 うんうんと頷く二人。

 どっちもどっちである。


「さすが、としか言いようがありません。だからこそ、あなたたちには助けてほしいんです」

「先ほども言っただろう。その答えに変わりはないよ」

「ええ、その通りですわ。今のあなたがしていることは、間違っています。それだけは言えますわ」


 再三にわたるグレイの勧誘を拒絶する。

 敗戦濃厚の死地に送り込まれることなど、絶対にごめん被る。


 何としてでも日本にかじりついてやる。


「そうですか。ならば、あなたたちを無理やりにでも連れて行かせてもらいます!」

「(諦めろよ!)」


 襲い来るグレイに、涙目になる良人であった。




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