第35話 いい仲間たち
校庭と言う名のコロシアムには、一年生が全員集められていた。
二年生は明日、三年生は明後日やるらしい。
学年別にしているのはいいことだろう。
上級生と今の一年生が殴り合ったところで、白峰みたいな例外を除けばボコボコにしかされない。
そう、本日は地獄の競技大会開催日である。
クソみたいな開会式もやっている。
普段は入ることのできない一般人も観客として来ているし、テレビカメラも入っている。
未成年が危険な力で殴り合うのが、そんなに見たいのか。
外道にもほどがあるわ、日本人。
そういうところだぞ、日本人。
古代ローマのコロシアムでの殺し合いから何も成長していないな、クソ人類。
『でも、君も自分が出なかったら見るでしょう?』
戦っている奴が無様に泣き叫んだりしてくれたら、もう最高だよね。
超笑える。
『ゴミかな?』
しかし、そんなところに出場させられるのが俺ということになれば、話は別だ。
どうしたものか……。
「出たくねえ……」
「私も……」
俺と隣に立っている綺羅子が、げんなりとため息をつく。
重々しいため息だ。
近くにいてもテンションが下がるであろう重厚感。
さっさとどっか行けや、綺羅子。
お前のせいで、さらに悪化するだろうが。
『ここまできて今更言うの?』
一生言い続けてやる……。
ため息をついた後、俺は綺羅子を睨みつける。
「それもこれも、全部お前のせいだからな、綺羅子。お前が俺を道連れにするから……!」
「あなたが私を売らなかったら、そうする必要もなかったのよ……!」
ギロリと睨み返してくる綺羅子。
こ、怖い……。
白峰以外誰も競技大会に出ようとしなかったから、綺羅子を推薦しただけなのに……。
その後、道連れで俺も参加することになったんだが。
「お前の力なんて、完全に敵を破壊するためのものだろうが。競技大会が殺し合いだって言うんだったら、お前以外の適任はいないだろ」
『あれ、殺し合いだったっけ? 競い合いだよね?』
似たようなものだろ。
というか、綺羅子の特殊能力って【爆槍】だぞ?
あいつがその気になったら、相手は絶対に死ぬぞ。
「あなたの訳の分からないカウンターも凄いじゃない。あれで戦えるわね」
「発生原因とか全然分からないんだけど。どうやったら使えるのかも知らないんだけど」
「戦いの中で成長するって、主人公っぽいわよね」
「行き当たりばったりでどうにかしろと?」
ギュッとわき腹を突いてやれば、変な笑い声を出す綺羅子。
肉付きが薄いから、ダメージが大きいですねぇ。
とか考えていたら尻をつねられる。
いたぁい!
「本年度の特殊能力開発学園、競技大会を開催します!!」
俺と綺羅子がつねり合っていると、誰かが開催宣言をしていた。
開催するな、こんなクソイベント。
◆
「ああ、帰りたい……」
「私もよ……」
俺と綺羅子は、控室でぐったりとしていた。
俺の膝の上に頭をのせているので、なんとなく黒い髪の毛を弄ってみる。
サラサラだな、おい。
なんとなく触り心地がいいので、髪をとかすように撫でる。
とくに綺羅子も何も言ってこないので、この状況が続く。
『……なに、この無意識イチャイチャは』
それにしても、帰りたい……。
競技大会。
それは、特殊能力者同士をぶつかり合わせ、それを見て愉悦に浸る悍ましい人間どもが楽しむイベント。
『魔王みたいなことを言っているけど』
その競技とは、言ってみれば模擬戦である。
各クラス3人ずつ出し合って、戦わせるのだ。
一対一を順番にするというわけではないのが、まだ幸いだ。
そんなの、白峰にボコられた時のように見せしめになるだけだし。
ああ、でも辞めたい……。
「白峰はどこ行った?」
「なんかクラスメイトたちに応援されていたわよ……」
相変わらずぐったりしたままの綺羅子が答える。
ああ、白峰派の連中か。
ほーん、そうかそうか。
「ふーん。……俺は?」
いや、白峰の立場が羨ましいと思ったことは一度もない。
マジで。
これは強がっているとかではなく、本気で。
ただ、俺に何もないというのはどういう了見だ?
俺だって嫌々クラスのために戦う羽目になっているんだぞ?
普通、『私たち無能のために、崇高なる御身に危険な戦場に出ていただくことになり、大変申し訳ありませんでした! つきましては、自分たちの全財産を譲渡させていただきますので、なにとぞよろしくお願いいたします!』くら言うよね?
『普通、言わないよね?』
「あなたにも来るわよ、ほら」
そう言うと、綺羅子は俺の膝から起き上がる。
すると、直後に人の歩く音が聞こえてきて、扉が開かれた。
そこにいたのは、独立派の面々である。
……それはいいんだけど、お前どうやってこいつらが来るって気づいたの?
こわっ。
「いやー、遂に来たっすね、このときが! ウチらのクラスを代表して、ぜひとも頑張ってほしいっす!」
相変わらず見えない隠木がべしべしと肩をたたいてくる。
いてぇ。
「隠木か。俺よりも君の方が適任だと思うけどね」
そうだ。
白峰と同じく特殊能力の扱いにたけているこの女、なぜか出場しないのである。
舐めてんのか、ボケ。
お前みたいな肉ダルマが、ここで戦わないでいつ戦うんだよ。
「真正面から戦うのは不向きっすよ、ウチ。基本的に、奇襲とか夜襲とか不意打ちとか専門っすから」
なんて姑息な女だ。
それでもいいからやれよ。
あの黒杉とかいうエセヤンキーがむかつくから、今すぐ首を掻っ捌いてこい。
そう思っていると、立花がひょこひょこと目の前に現れて、シュバッと手を上げる。
「たちばなは激励に来たから、もう帰るね」
そう言うと、彼女は扉から出て行った。
早すぎぃ!
激励!? 何もしていないだろうがお前ぇ!
マジで嫌々付き合いで来ました感を出すな!
今度は、フラフラと俺の前にやってきた行橋(姉)。
「私も眠たいしぃ、帰っていい?」
そう言った途端、ばたりと倒れ込んだ。
寝た。
寝るな!
しかも、お前が枕にしているのって、俺のカバンじゃねえか!
止めろぉ! よだれ垂れてるじゃねえかぁ!
今度は、俺の前にトテトテと現れたのは行橋(妹)。
「私はちゃんと応援するわ。頑張ってね。とくに、白峰くんより二人に頑張ってほしいの。独立派の影響力を強めることができるしね!」
くふふっと黒い笑顔でほくそ笑む行橋(妹)。
何なんだこいつら……。
結局、誰も俺のことをまともに応援してこない……。
やだ、俺の人望、なさすぎ……?
嘆いていると、綺羅子が俺の肩に手を置いて、満面の笑みをニッコリ。
「いい仲間たちじゃない^^」
「……^^」
とりあえず、綺羅子の鼻をギュッとしておいた。
「ふぎゃっ!?」




