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第33話 よし、お前ら頑張れよ

 










「凄いじゃない。あの子たちを全員連れてこられるなんて」


 ワイワイと楽し気に特殊能力を使っているクラスメイト達をしり目に、綺羅子が話しかけてくる。

 もちろん、監督役の教師はいる。


 さすがに、一年生に危険な特殊能力を使うことをすべて任せることはできないのだろう。

 じゃあ、特殊能力を使えるクソみたいな競技大会とかも無くせよと思ったけど。


 綺羅子の視線は、その楽しそうなクラスメイトたちではなく、少し離れた場所でぼーっとしている独立派の面々を捉えていた。


「まあ、俺の口車にかかればこれくらい余裕よ」

『自分で口車って言っちゃうのか……』


 あんな個性の塊を、ここまで引きずり出せた俺の話術に震えろ。


「でも、お前が洗脳した鬼宮たちと違って、そんな大っぴらに反対を言っていたわけでもないし、俺が言わなくても普通に出てきていたと思うけどな」

「洗脳なんて外聞の悪いことを言わないでちょうだい。マインドコントロールよ」


 一緒じゃん。

 何を不服そうな顔をしているんだ、お前。


 マインドコントロールも相当やばいわ。


「独立派の面々は、本当に自由というか、自分本位なのよ。気が乗らなかったら、とことん参加しないでしょうね。多分、あなたが何かしらの説得をしてくれていなかったら、全員来ていなかった可能性もあるわ」


 それはそれでよかったわ。

 その非協力的な奴らが全員参加したものだから、俺も参加しないといけないみたいな流れになったじゃん。


 そいつらを説得するとか適当に言っておいて、部屋でのんびり惰眠を貪る俺の計画が台無しだよ。

 あーあ、ふっざけんなよマジで。


「ところで、白峰ご執心のあの転校生って、どこの派閥なの?」


 滅びた欧州からやってきたグレイとやらも、間違いなく競技大会に非協力的だろう。

 鬼宮たちの反抗期派閥……いや、そもそも誰とも仲良くしていないから、案外独立派か?


「誰とも仲良くしていないから、分類するなら独立派でしょうね。ただ、競技大会に関しては、彼女はどうも白峰くん派のようだわ」

「へー。白峰、やったじゃん」


 そんなに積極的なのか。

 俺は目を丸くして驚いていた。


 あの融通の利かなそうな女が、積極的にイベントに参加しようとするとは。

 まあ、どうでもいいか。


「で、今のこの時間は何?」

「競技大会に出る人を決めるために、特殊能力をどれだけ操れるかを見るのよ。言っても、私たちは入学してから数か月しか経っていないわ。白峰くんみたいな例外以外は、特殊能力が発現してから数か月だし、そうそう扱うことはできないでしょう」


 綺羅子の言葉に頷く。

 それもそうだろうな。


 聞けば、競技大会でも3年生同士の戦いが一番盛り上がるらしいし。

 特殊能力を十全に扱える者同士の方が、面白いもんな。


 じゃあ、1年生の競技大会なんてするなよ。

 時間の無駄だろ。


「俺も使えないって白峰に進言しておいてくれ」

「良人は絶対に活躍するから、酷使するほど使ってくださいと伝えたわ」

「殴られたいの?」


 実際、俺の力は役に立つだろうが、俺自身がクラスの役に立たせるつもりがまったくないので、無意味である。


『いや、クラスのために頑張りなよ』


 なんで俺が他人のために頑張らなくてはいけないんだ。

 俺は俺だけのためだけに頑張るんだ。


「黒蜜さん! ちょっといいかな?」

「…………」

「この距離で聞こえなかったは無理だぞ」

「ちっ。はい、何でしょうか!?」


 白峰に呼ばれた綺羅子は、一瞬聞こえなかったふりで乗り切ろうとするも、舌打ちをして彼の元へと向かって行った。

 すげえ。荒んだ顔を一瞬で笑顔にして白峰の元へ。


 演技力はなかなかですね……。


「いやー、相変わらず仲良しそうで羨ましいっす」


 相変わらず透明で分かりづらいっす。

 しかし、最近はこいつがその場にいるのかくらいは分かるようになってきた。


 だから、俺も綺羅子も素で話をしていたのだ。

 まあ、気を抜けないので、あまりあけすけに大声で話もできないのだが。


 隠木の後ろには、独立派と言う名のボッチ集団がいた。

 雁首揃えてなんだお前ら。


「君たちは測定に参加しないのか?」

「ウチが特殊能力を扱えるってことは、坊ちゃんもよく分かっているっすから」

「面倒くさぁい」

「お姉ちゃんの御守をしないといけないから」

「たちばながこれをする理由が分からないんだよ」


 隠木、行橋(姉)、行橋(妹)、立花と続く。

 こいつら、マジでここに顔を出しただけじゃん……。


 何しに来たんだお前ら、本当。

 じゃあ、出てくるなよ。


 俺もサボれたのに。


「その点、梔子くんは大会出場決定よね。あのリーダーと、あんなに凄い戦いをしたんだから」

「はっはっはっ、ご冗談を。俺も特殊能力に目覚めたのは数か月前だから、それはないよ(憤怒)」


 クソみたいなことを言ってくる行橋(妹)に笑う。

 まあ、内心ブチ切れているんですけどね。


 迂闊なことを言うな、クソギャル。


「たちばなはあんまり興味なかったけど、思いっきり名前入っていたよ?」


 あぽ?

 たちばなちゃんなにをいっているのかな?


 日本語って難しー! すごーい!


「おいおい、まだ校庭を使ってんのかよ? もう時間切れじゃねえのか?」


 愕然としていると、ぞろぞろとコロシアムに入ってくる連中が。

 しかし、そんなことはどうでもいい。


 先頭を歩いているのがいかにもヤンキーでも関係ない。

 俺が競技大会に出る……?


 嘘でしょ……?

 白峰が全部出ればいいじゃん……。


「ああ、ごめんよ。少し熱中していて……」

「そんなのどうでもいいから、さっさと退けよ。こっちだって、時間があるんだからよ」


 そんな白峰と、先頭のヤンキーが話をする。

 どうやら、このコロシアムは時間制限があったらしい。


 まあ、誰でも特殊能力の確認はしたいよな。

 競技大会なんてものがあったら。


 俺たちは、どうやら少しオーバーしているらしい。

 よっしゃ、さっさと帰ろうぜ。


「随分調子乗った言い方してんじゃねえか、テメエ。誰だよ?」

「あん?」


 鬼宮さん、さっそく喧嘩を売る。

 ヤンキーとヤンキーが目を合わせれば喧嘩をする。


 これ、森羅万象の常識だから。

 いつの間にか白峰から離れて俺の隣に来ていた綺羅子に、こっそりと話しかける。


「おい、綺羅子。お前の舎弟が喧嘩を売りに行ったぞ。親分として助けに行け」

「トカゲのしっぽ切りって知っている?」


 切り捨て判断早くない?

 無表情で一切躊躇せず言ったものだから、俺の方がビビった。


 ふざけるな。


「俺のことを知りたいんだったら、白峰から聞けよ。知り合いだもんなあ」


 ヤンキーは答えるつもりはないらしい。

 くっくっと笑う姿は、様になっていた。


 白峰の知り合いか?


「彼の名前は黒杉くん。英雄七家だよ」


 白峰の同類ということか。

 誰やねん。


 周りのクラスメイトはザワザワとして、『あれが……』みたいな反応をしているけど、全然知らねえわ。

 英雄七家とかいう中二病全開の言葉、恥ずかしくないの?


 そんなことを考えていると、黒杉が俺を見る。


「テメエが白峰以外の男か。顔だけはいいようだが、他は愚図っぽいな」

『あ。異常なまでに着火が早くて導火線が短い良人を煽ったら……』


 嘲りを多分に押し出した顔と声音だ。

 それが、俺に向けられている。


 ……この俺をバカにした?


「君は白峰とは同じ英雄七家とは思えないね」

「あ?」


 俺の口は自然と動いていた。

 黒杉が額に青筋を浮かばせながら、ギロリと睨みつけてくる。


 普段ならビビってフォローするところだが、俺は煽られたのだ。

 つまり、ある程度こいつをこき下ろさないと気が済まない。


「君は俺だけじゃなく1組全体をバカにしているようだけど、俺たちは負けないよ。もちろん、同じ英雄七家の白峰も、君よりはるかに立派で強い」

『じ、自分だけにヘイトを集めるのを避けるため、黒杉くんがクラス全体をバカにしていると捏造した!? しかも、個人的なヘイトは白峰くんに押し付けた!?』


 俺はふっと笑う。

 これ、常識ですから。


『そんな常識あってたまるか』

「はっ、言うじゃねえか。この俺にそこまで言ったんだ。せいぜい楽しませてくれよ」


 そう言うと、黒杉たちとは入れ違いになる。

 ああ、楽しませてやるぜ、俺の手駒たちがな!


 よし、お前ら頑張れよ。


『人任せだ!』

「いやー! 格好いいこと言うじゃないっすか!」


 バンバン! と俺の背中をたたく透明人間。

 除霊されろ。


「たちばなは関係しません」

「私もぉ」

「私は面白そうだからちょっかい出すよ?」


 凄い。

 見てくれ、独立派の結束力を。


 全員が無関係を決め込み、一人は愉快犯だ。

 何だこいつら……。




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