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第30話 何してんだこのド貧乳!!

 










「競技大会は、紅組と白組に分かれて点数を競い合うと聞いている。僕たちがどちらになるか、敵や味方がどのようになるかはまだ分からないけれど、できる限りの準備はしておこう」


 白峰が教壇から言う。

 ああやって勝手にリーダーをしてくれる奴がいるのは助かるな。


 俺は絶対にやりたくないし。

 どれだけしっかりしている奴がリーダーをしても、絶対に批判勢力は生まれるものだ。


 八方美人でいたい俺にとっては、やりたくない立ち位置である。


「そして、僕たちで一致団結し、勝利をつかみ取ろう!」


 グッと拳を突き上げると、クラス中から歓声が上がる。

 えー……面倒くさい……。


 お前らが頑張ればいいんじゃない?

 俺は適当に見ておいてあげるから。


「うん、頑張ろうね!」

「私たちが一番になろう!」


 キャッキャッと楽しそうにするクラスメイトたち。

 はああああ?


 なにこの同調圧力。

 これ、全然やる気ない俺も頑張らないといけない系?


 ありえねえわ……。


『ありえないのは君だよ……。学校のイベントなんてそうそうあるわけじゃないし、クラスが一つになって頑張ることができる数少ない機会なんだから、協力くらいしたらいいじゃない』


 嫌です……。

 やりたい奴だけやればいいじゃん。


 俺、やりたくないから。


『でも、中学校ではうまいこと切り抜けていたよね』


 当たり前だよなあ。

 あからさまにやる気ないアピールしたら、そりゃ顰蹙を買う。


 協力的に見せかけておいて、サボるのが最適解だ。


『ばれるんじゃない?』


 普通はな。

 だけど、注意が自分に向けられなかったらいいんだ。


 つまり……。


「おい。なに勝手に全員協力するみたいな雰囲気を出してんだよ。あたしはやるなんて言ってねえぞ」


 そう、こういうはっきりと言っちゃってヘイトを集める係が必要なのだ!


「えーと……鬼宮さん?」


 白峰もまさかここで反論されるとは思っていなかったようで、文句を言った女――――鬼宮とやらを見る。

 ……初めて知ったわ、こいつの名前。


 ヤンチャというか、気が強そうというか……。

 人間、見た目で性格もある程度わかるもんなんだな。


「だいたい、あたしは望んでこんなところに来たわけじゃねえんだ。いきなり連れてこられて、自由も束縛されて、それで競技大会を頑張れだ? 舐めてんじゃねえよ」


 刺々しい言葉だが、俺はコクコクと何度もうなずいていた。

 わたくし良人、全面的に同意いたします。


 そうだよな。こんなところに望んできたわけじゃないよな!

 なんだ、このヤンキー。


 意外といいことを言うじゃないか。

 見直したぞ。


「あたしらは協力しねえ。やりたい奴だけやればいい」


 鬼宮の愉快な仲間たちも、同調するように声を上げた。

 そうだそうだー!


 いいぞ、もっと言ってやれ。

 しかし、それに黙っていないのが、白峰の味方をするクラスメイトたちである。


「ちょっと! 競技大会は学園の一大イベント。しかも、組に分かれるんだから、クラスどころかもっと大きな枠組みで団結しないといけないのよ! そんな好き勝手許されないわ!」

「そうよ! 白峰くんも頑張ろうって言ってくれているんだから、やるべきよ!」


 ここで鬼宮の取り巻き共も黙っていない。


「うるせえ! そんなに男に飢えてんのかよ!」

「ダサいなあ、彼氏のいない処女どもは」

「なっ!? そんな理由じゃないって言っているでしょ!」


 ギャアギャアと始まったのは盛大な口喧嘩。

 ……え?


 なにこのキャットファイト。

 キャンキャンうるさいんだけど。


 あのさあ、騒音迷惑なんですけど。

 俺は隣に座る綺羅子へと顔を近づけて、コソコソと話をする。


「(おい、綺羅子。お前も女だろ。同性の責任をとって止めてこい)」

「(じゃあ、あそこで右往左往している同性の責任をあなたが取りなさいよ)」


 はっ、とあざ笑いながら綺羅子が目を向ける先には、突発的に発生した口喧嘩にワタワタしている白峰が。

 白峰ぇ!


 なに女同士の喧嘩に引いてビビってんだ!

 俺のことをボコボコにしたんだから、今喧嘩しているクラスメイト共もボコボコにして差し上げろ!


「(しかし、結構クラスが割れるんだな。あのヤンキーみたいなヘイト吸引機、一人しかいないと思っていたわ)」

「(あなた、級友をなんて呼び方で呼んでいるのよ……)」


 呆れた目で睨んでくる綺羅子。

 だから、ヘイト吸引機。


「(ていうか、結構このクラスって派閥があるのよ)」

「(……派閥? 高校生のクラスで? 馬鹿なの?)」

「(人が集まればそういうのは自然とできるわ。仲良しグループと言ってもいいけど)」


 俺はそれを聞いてブルリと震える。

 うわぁぁ……俺が一番苦手なやつだ……。


 馬鹿どもが群れて仲間外れにしたり敵対したり……。

 おえっ、気持ちわるっ。


「(で、今ぶつかっているのがそうだっていうのか?)」

「(一番わかりやすいわよね。『白峰くん大好きイケイケ正統派』と、『反抗期真っ只中主流派に抗う私カッケー派』よ)」

「(お前のネーミングセンスやばくね?)」


 綺羅子の内心での評価に引く。

 クラスメイトをなんだと思っているんだ……。


 しかし、まあクラスに何人もいれば、自然とグループはできるよな。

 で、今はその二つに分かれて争っていると。


 ……どうでもいいな、マジで。


「(じゃあ、このクラスはこの二つの派閥ってわけか?)」

「(もっと言えば、その二つに与しない独立派もいるわ。どっちに入るにも気後れした陰キャと、群れるのがそもそも嫌いな一匹狼(笑)がいるわよ)」

「(マジか)」


 独立派とかもう多すぎてわかんねえ。

 興味のないことを覚えられないし。


「(あなたと私もそこよ)」

「(マジか!?)」


 なんか変な派閥に組み入れられている!?

 しかし、よくよく聞けば、別に他の二つのグループと違って仲良く一緒に行動しているというわけではなく、個々人で動いているらしい。


 グループに入れなかった連中の集まりか。

 じゃあ、まあいいや。


「くっ……! この状況を何とかまとめられるリーダーが必要だ……!」


 白峰がなんか言っている。

 大変だねー。


 とはいえ、基本的に白峰に対しては好意的なのがこのクラスだ。

 もともと、男の数が少ないからな。


 工業高校で女子がちやほやされるのと同じだ。

 一応反発している鬼宮の仲間たちも、あまり白峰には攻撃していないし。


 何とかできるだろう。

 ……とか思っていたら、綺羅子がこちらを見て、ニヤァと笑った。


 な、何だ?

 その邪悪な笑顔は……。


「確かに、まとめ役は必要かと思いますわ」

「おい、ちょっと待て」


 嫌な予感がするので制止するも、やはり綺羅子は止まらない。

 この猪が……!


 彼女は俺に手を向け、誇らしげに宣言した。


「なら、私は良人を推薦します!」


 ああっ!?

 何してんだこのド貧乳!!




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