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第3話 ……なにしてんの、こいつ?

 










「う、嘘……」

「梔子くんが……?」

「く、梔子、お前……」


 クラスメイトたちの愕然とした声が聞こえてくる。

 どうしてそんな反応をしているんだ?

 そう言えば、俺が手をかざした時に水晶が光ったような気が……。

 ……俺は夢を見ているようだ。


『往生際が悪っ! ガッツリ光っていたよ!?』


 そんなはずはない。

 なぜなら、俺は男。

 能力が非常に発生しづらい性別。

 無能力者への道が約束されているのだから。


『数こそ少ないけれど、男性でも能力持ちはいるんだから、その中に君も入ったんじゃない?』


 そんなわけあるかぁ!

 どうして俺に限って……!

 やる気満々だったあいつも、無能力者だったんだぞ?

 なら、やる気がまったくない俺が能力者であるはずがない。

 もう一回だ、もう一回!

 俺は再び水晶に手をかざす。


 ピカー!


「ぐぉっ、まぶしっ!?」

「……これほど強い反応は、私も初めてです。すさまじい逸材が現れたようですね。日本も安泰です」


 税金泥棒の黒服が呟いている。

 安泰?

 俺を国家の犬にするつもりか!?

 不敬だろうが!!


『いや、もう諦めたら?』


 呆れたような声が脳内で響く。

 馬鹿やろう、この寄生虫が!

 そう簡単に人は諦めたらいけないんだよ!

 諦めなければ、何でも前に進むんだ!


『凄くいいことを言っているんだけど、自分が現実から逃げるためにその言葉を使うのはどうかと思う』


 必死に頭を巡らせ、どうして水晶が光ったように見えるのかを検証する。

 あれだ!

 水晶の不具合なんだ!

 もう一回やれば、ちゃんと……!

 俺は水晶に手をかざす。


 ピカー!


「まぶしっ!?」


 ……手をかざす。


 ピカー!


「まぶっ!?」


 …………かざす。


 ピカー!


「まっ……!?」


 ……………………。


 ピカー!


『何回やるの!? しつこいよ! いい加減諦めて、大人しくしろぉ!』


 嫌だぁ!

 絶対に嫌だぁ!

 おかしいよ!

 こんなの絶対おかしいよ!


「こ、こら! 何度も水晶を光らせるのは止めなさい!」


 学年主任の教師が止めようと近づいてくる。

 何だ!?

 この俺にケチをつけようってか!


「これだけの光、非常に強い能力だろう。間違いなく、学園送りだな」

「っ!?」


 黒服の声が聞こえてくる。

 学園……あのクラスメイトが入りたがっていた、能力者だけが集められる場所。

 俺にとっては、断頭台に向かうようにしか考えられない。


『やったね。受験しなくても、進路が決まったじゃん』


 もう志望校に受かってんだよなああああ!

 間接的徴兵なんかに屈するか!

 俺は自分に視線が集中していることを確認する。

 とくに、政府の犬どもは俺を捕らえようと近づいてきている。

 いまだ!

 俺は水晶に手をかざす。

 くらえぇ! 目つぶし!


 ピカー!


「うわああああああああ!」

「目が、目がああああああああああ!」


 阿鼻叫喚となっている間に、俺はすぐさま駆けだした。

 入り口を固めていた黒服だが、強烈な光を浴びたことで目をやられており、簡単に抜け出すことができた。


「に、逃げたぞ! 追えええええ!」


 後ろから怒声が聞こえてくるも、俺は止まらない。

 止まるんじゃねぇぞ……。

 あと、逃げてない!

 後ろに向かって進んでいるんだ!!


『それを逃げているって言うんだよなあ』


 寄生虫の言葉には耳を貸さず、俺は必死に足を動かすのであった。

 先のことは、一切考えず。











 ◆



「へー。暇つぶしになったくらいの、実のない話だったわ」

「お前が聞いてきたんだろ!」


 俺の話を聞いた綺羅子の感想がこれだ。

 お前、実がないって……。

 実しか詰まっていなかっただろ。

 ギチギチだっただろ。


『現実逃避したっていうだけだしね』


 お前も敵か、ブルータス。


『誰?』

「で、どうするの? 私はニュースにもなっていないから、県をまたいで金持ちの男を捕まえて養ってもらうつもりだけど」

「アバズレめ……」


 ふふんと胸を張る綺羅子。

 ないぞ、胸が。

 ぺったんこだぞ、胸が。

 断崖絶壁だぞ、胸が。

 しかし、どうやって言い訳をするか。

 もちろん、山奥なんてところで自給自足生活なんてするつもりはない。

 人間らしい生活とは、他人に働かせて自分に貢がせることである。

 俺一人で俺のために生きていくのではなく、他人が俺のために生きていくべきなのである。


『独裁者なんて目じゃないね!』


 独裁者なんてしょぼい連中と一緒にされても困る。


『その自己評価はどうなの……?』


 さて、理由だ。

 俺があの時、逃げ出した理由。

 うーん……。

 俺はじっと綺羅子を見る。

 ……おい、嫌そうな顔をするな。

 そんな時、ふと思いいたる。


「脅迫されていた、とか……?」

「ど、どうして私を凝視しているのかしら……? ちょっと……私に全部押し付けるつもりじゃないでしょうね!?」


 たとえば。

 そう、俺自身の考えではなく、誰かから強要されていたのだとしたら。

 俺の演技力も合わされば、悲劇の被害者になることができるのではないか?


『冷静に他人にすべて押し付けようとしているところがえぐい』


 賢いと言え。

 ちょうどいいところに生贄がいる。


 ヨシ!


『そんな元気に納得するところかな!?』

「おい、いたか!?」

「ここに逃げ込んだのは確かなんだ。絶対にいるはずだ。徹底的に探せ!」


 綺羅子を捕らえようとしたところで、そんな怒鳴り声が聞こえてきたものだから、身体が跳ね上がる。

 ば、バカな……!

 もう見つかったというのか!?


『まあ、そんな距離離れていないしね。君、体力ないし』


 必要ないからね。

 些事は全部他人にやらせればいいだけだし。


「あー、もうダメみたいね。全部あなた目当ての男たちよ。むくつけき男たちのわっしょい祭りだわ」

「どういう意味?」


 くっくっくと笑う綺羅子。

 嗜虐に満ちた笑みは、邪悪以外のなにものでもない。

 生贄にされないと分かったからか、訳の分からないことも言いだしているし。


「ま、とにかくあなた目当てなんだから、さっさとどこかに行きなさいよ。私に迷惑がかかるでしょ」

「ああ、そうだな……」

「あら、珍しく聞き分けがいいわね。よしよし、いい子いい子。今みたいなら、私が適当な男に養ってもらいつつ、あなたを飼ってあげてもいいわよ」


 頷く俺の頭を撫でてくる綺羅子。

 俺をペットだと思っているのはどうなの?

 お前がペットになるんだよ!


『倒錯したカップルかな?』

「いや、その必要はない。お前にそんな未来はないからだ」

「は?」


 がっしりと細い腕をつかむと、何すんだとばかりに睨みつけてくる。

 そうだ、お前が幸せになる未来はありえない。

 なぜなら、ことごとく俺が邪魔するからだ。


『誇らしげに宣言するところじゃないよね?』


 寄生虫の言葉には耳を貸さず、俺は綺羅子の腕を引っ張って転げさせる。


「てい」

「わっひゃあっ!?」


 ぶほぉっ!?

 わっひゃあって! わっひゃあって!

 おひょひょひょひょ!!


『君の笑い方って悪魔そのものだよね』


 もちろん、綺羅子がけがをしないように転がしている。

 腐葉土のため、柔らかい。

 まあ、サラサラの触り心地がいい黒髪に葉っぱなどがついているが、とくに気にしない。

 俺は被害を受けていないから。


「おい、こっちから声がしたぞ!」

「急げ!!」


 声が近づいてくる。

 そんな状況にありながらも、俺は笑みが消えない。

 そこで、ようやく綺羅子は理解したようだ。

 自分が、囮として使われることに。


「き、貴様……! なんてことを……!?」

「このまま注意を引き、捕まれ。その間に、俺は逃げる」

「はああああああ!?」


 大絶叫。

 だが、圧倒的優位は俺にある。

 もちろん、この女が大人しく捕まるとは思わない。

 その際には、俺のことも密告するだろう。

 だから、さっさとこの場を去らせてもらおう。


「そんなふざけたこと、この私が認めるはずが……!」

「さらばだ。運動音痴よ」


 俺は満面の笑みを浮かべ、尻もちをつく綺羅子を見放した。

 俺のイケメン及び演技力があれば、適当な女をだまくらかして、なんとなく生きていくことができるだろう。

 俺の未来は明るい。


『ヒモになる前提の明るさはどうなの?』


 さてと、じゃあ俺はこの辺で……。

 そう思って足を踏み出した時だった。


「とうっ」

「ぶべっ!?」


 脚をひっかけられ、顔面から地面にダイブした。

 ……なにしてんの、こいつ?



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