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第29話 古代のコロシアムか?

 










「やあ、梔子くん」

「どうした?」


 今日も今日とて話しかけてくるのは、白峰だ。

 俺よりも幾段かレベルの下がるものの、一般的にはイケメンと評されるほど整った顔立ち。


 そして、強力な特殊能力を持っていて、英雄七家? とかいう名家のお坊ちゃん。

 加えて、この特殊能力開発学園の数少ない男と来た。


 まあ、全部俺のイケメンの前にひれ伏す要素だが、うっとうしい男である。

 最近、毎日と言っていいほど話しかけてくるのだが、この男、先日俺のことをボコボコにしたクソ野郎である。


『いや、あれは授業の一環だったじゃないか』


 授業の一環でクラスメイトをボコボコに殴る蹴るの暴行を加えていいの?

 ダメだよね?


 たとえ、神が白峰を許そうとも、俺が許さん。

 末代まで祟るし、死んでも忘れないこの怒り。


『うーん、この……』


 こうして脳内で勝手に話し出すのは、寄生虫だ。

 おそらく、世界で俺が最初の患者だろう。


 人の言葉を介して話しかけてくる寄生虫なんて症例、見たこともない。

 いち早く虫下しの薬を開発していただきたいものである。


「ああ、ほら、あの子のことだよ。転校生」


 白峰が視線を向ける先には、ピシッと背筋を伸ばして座る異彩を放つ生徒がいた。

 先日このクラスにやってきた、欧州からの転校生である。


 名前を、ジェーン・グレイ。

 ボブカットに切りそろえられた、輝くような銀髪。


 真っ赤な目は、情熱の色であるにもかかわらず、理知的で冷たい色を放っていた。

 欧州から来た白人ということもあって、肌は透き通るように白い。


 制服越しにも分かるスタイルの良さもあいまって、まるで妖精のようだ。

 ……と、白峰が熱心に語っていた。


『君じゃないのか』


 は? 俺が他人の容姿を褒めるわけないだろ。

 そもそも、見た目なんてどうでもいいと思っているのに。


「……それがどうかしたか?」

「まだなじめていない様子だからね。どうしたものかと思って……」


 心配そうな白峰。

 一方で、俺はまあ馴染めないだろうなと思っていた。


 なにせ、グレイとかいうあの女、協調性が皆無なのである。

 いや、マジで。


 本当に人と接することができていない。

 挨拶をすればさすがに返してくるが、それ以外はほとんど会話にならない。


 会話というのは、キャッチボールである。

 時には、遊びも混ぜたりするだろう。


 だというのに、グレイは本当に目的に向かって一直線で、意味のある言葉しか発しない。

 それは、ビジネスなどではとてもいいことだろう。


 だが、ここは学校だ。

 友人をつくる会話には、まったく適していない。


 ということで、色々とクラスメイトたちは話しかけていたのだが、今ではすっかりとなくなり、孤立しているのである。

 ……どうでもいいや。


「なら、白峰くんが話しかけたらいいよ。君みたいな格好よくて優しいクラスメイトに声をかけてもらえれば、クラスに馴染みやすくなるさ」

「そ、そうかな? よし、行ってくるよ!」


 俺の言葉を受けて、嬉々としてグレイの元へと向かう白峰。

 ふっ、ちょろいぜ。


「……また適当なことを言って」


 ジト目で俺を睨むのは、綺羅子だった。

 黒髪のセミロング。


 すべてに絶望し、またすべてを絶望させる願望を秘めていそうな真っ黒な瞳。

 そして、グレイとは比べることもおこがましいぺったんこ。


 憎き怨敵である。


「あのままだったら俺に行かせるまであった。それは避けなければならなかった」


 白峰が日和って俺のことも誘っていたら、それは面倒くさくてたまらない。

 グレイがクラスに馴染もうが馴染めまいが知ったことではない。


 愛想の悪い奴に話しかけたくないし。


「お前から見て、あの転校生はどうなの?」

「さあ、分からないわ。だって、話したこともないし」

「一時期、女子グループが仲間に入れようとしていなかったか?」


 やはり、転校生というのは話題の中心だ。

 多くのクラスメイトが話しかけていたと記憶しているのだが……。


「女子グループもいくつかあるわ。それに、私はどこにも属していないから」

「ぼっちか……」

「栄光ある孤立よ」


 ふふんと胸を張る綺羅子。

 何格好つけてんだ、この女。


 というか、学校生活なんてどこかのグループに入っていないと、生活するのがしんどくないか?

 よく平然とボッチでいられるな。


『君もボッチじゃん』


 その気になれば簡単にグループに入れるからね。

 そんなことを考えていると、熱心にグレイに話しかけていた白峰が、とぼとぼと戻って行っていた。


「あ、失敗したみたいね。ウケる」

「確かに」

『最低だよね、君たちって』


 綺羅子が最初に笑ったから、最低は綺羅子です。

 そんなことを考えていると、白峰がこっちに近づいてくる。


 いかんいかん。笑顔を消さなければ……。


「ダメだったよ……」

「そうか。おそらく、緊張しているんだろうな。異国で知り合いもいなければ無理もない。これからも、くじけることなく言葉をかけ続けていたら、いずれ分かってもらえるさ」

「そ、そうだよね! 頑張る!」


 暗くなっていた顔が、一気に明るくなる。

 ちょろいぜ。


 これで、俺があの鉄仮面転校生のご機嫌を伺う必要はなくなったわけだ。

 生贄、白峰。


『唆すことに関しては右に出る者はいないね。将来、黒幕とかやってそう』


 なんのだよ。

 むしろ、暗い雰囲気だった同級生を救い上げたのだから、褒められるべきだろ。


 そんなことを考えていると、担任の浦住が入ってきた。

 白髪のおさげ。


 目の下の濃い隈。

 このクラスの誰よりも小さな体躯に、不釣り合いなほど成長した胸部。


 そして、暴力ゴリラ女だ。

 こいつ、嫌いなんだよなあ。


「おー、さっさと座れ。また面倒くさい一日が始まるぞー」


 心底気だるそうにため息をつく浦住。

 なんで教師が朝から気の滅入ることを生徒に言うんだよ……。


「と言っても、今日は報告事項があるからちゃんと聞いとけ」


 いつもは大したことがないから、一瞬で終わるホームルーム。

 ……この学校のイベントは、ろくでもないから聞きたくないなあ。


 レクリエーションが命がけの魔物との戦闘になったことは、忘れない。


「近々、競技大会がある。それの選抜メンバーとか決めておけー」


 ……なに、その面倒くさそうなイベント。

 不参加、おっけー?


『ダメでしょ……』


 しかも、競技大会ってなに?

 どこかの部活の話か?


 誰もわからんだろ、そんなこと。

 しかし、周りを見れば、困惑しているのは俺だけだった。


「そっか、もうそんな季節よね!」

「今までテレビで見ていた話だから、自分たちとなるとすっかり忘れていたわ」


 ……テレビ?

 当たり前のようにみんな知っている様子なので、気軽に尋ねることもできなくなってしまった。


 まあ、そんな時は無駄に知識を蓄えた綺羅子に聞いてあげるとしよう。


「(……なあ、何でみんな知っている感じなんだ? 俺、全然知らないんだけど)」

「(……あなた、本当に現代を生きていたの? 数百年前からタイムスリップしてきたとかじゃなくて?)」

「(じゃなくてよ)」


 なんて失礼なことを言うんだ、こいつ。

 俺が中世の土人共と同じレベルだとでもいうのか?


『レベルというと、君は過去現在未来のすべての人間の最下層に位置しているよ』


 …………?

 何を言っているんだ、この寄生虫は?


 まるで意味が分からんぞ。


「(競技大会っていうのは、特殊能力開発学園が年に一度開いている特殊能力を使った様々な競技の大会よ。派手で華やかな特殊能力同士のぶつかり合いが見られることから、外部からマスコミが入ってきてリアルタイムで中継されるほどよ)」

「(いつからここはコロシアムみたいな見世物小屋になったんだ?)」


 野蛮極まりないな。

 古代のコロシアムか?


 特殊能力とかいう人を殺しかねない力を使って、未成年同士を戦わせて、それを見て日本全国が楽しむの?

 やばいだろ……。


 この国の倫理観はどうなっているんだ……。


「(視聴率も毎回めちゃくちゃ高いから、誰でも知っているけれど。まったく見ない私でも知っていたし)」

「(見ないのかよ)」


 まあ、他人がキラキラしてそうなものを見たくないんだろうな。

 高校野球とかインターハイとかも鼻で笑ってテレビを消すような女だし。


 仕方ない。


「一限目は好きに使っていいから、競技大会の話をしとけ。じゃ、あたしは寝てるから」


 そう言うと、浦住は本当にすやぁ……と眠り始めた。

 ……なんだこいつ。


「よし、皆。じっくり競技大会の話をしようじゃないか!」


 代わりに教壇に立ったのは、やる気満々の白峰である。

 俺はやる気なしなしだ。


 面倒くさい……。

 当日は休むか。




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