第27話 なんだこいつ……
あー、クッソだるい……。
俺は始業前の教室で、一人天井を見上げていた。
もちろん、他のクラスメイトたちも、各々時間を潰している。
無駄に他人と関わりたくないから、何か考えている風にふるまっておけば、意外と気を利かせて声をかけてこない。
今ふと思ったんだけど、週5日朝9時から夕方まで強制労働とかおかしくね?
『君がやっているのは学業だけどね』
学業も労働だわ。
これは実際に学校にいる時間を言っているのであって、当然もっと早く起きなければならない。
そんな拘束時間を考えると、やはり割に合っていない。
加えて、馬鹿な奴らは部活動なんかをしているから、さらに時間が拘束されている。
『いや、それは好きにやっているんだからいいじゃん……。というか、君は結局何を言いたいのさ』
寄生虫の言葉に、鷹揚に頷く。
俺が言いたいことを、ただ一つだ。
学校、週1日にしない?
『できるわけないじゃん』
いや、義務教育だったら、まだ我慢するよ?
中学校を卒業してもバカは腐るほどいるから、それ以上の馬鹿を生み出さないためにも必須だ。
俺みたいな優秀な人間は、週2日くらいでいいと思うけど。
『自分はバカじゃないとでも?』
当たり前だろ。
俺ほど理性的に動ける人間は、そうはいない。
でも、高校からは義務ではないのだ。
ならば、そんな毎日学校に行く必要はない。
『望んで高校に行っているんだったら、ちゃんと行かないと』
誰が望んでここに来たんだ!
誰がこの学園に入学させてくれと頼んだ!?
完全に強制連行だっただろうが!
何だったら、致命傷を負うくらいの攻撃も受けたわ!
『くだらないことを言っていないでさ。白峰くんが来たよ』
寄生虫の言う通り、ゆっくりと近づいてきているのは白峰だった。
お、さっそく報復か、お?
あ゛あ゛!?
やんのかゴラァ!
今度は綺羅子が相手だ!
「(いやよ)」
チラリと見れば、恐ろしく冷たい目を向けてきていた。
こいつ、アイコンタクトで意思を……!
てか、何で俺の思考を読み取ってんだ、こいつ。
怖い……。
「やあ、梔子くん」
白峰が話しかけてくる。
あの激しい戦闘の後だから、クラスメイトたちも全員がこちらを注目していた。
こっち見るな。
「何か用かな、白峰くん」
「その……謝罪させてほしい。僕は君に嫉妬をして、あのような強引なことをしてしまった。完全に僕に非がある。だから、ごめん」
頭を下げる白峰。
……何を当たり前のことを言っているの?
お前が悪いことなんて誰でも知っとるわ。
そのうえで何を俺にするかが大切なんだよ。
賠償金とか。
「(分けなさいよ!)」
今度はぎらついた目を俺に向ける綺羅子。
なんでだよ!!
テメエ、何もしていないだろうが!
「気にしないでくれ。俺も、色々とやってしまったこともあるしね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
和解の雰囲気に、教室内の空気が緩む。
まあ、内心では一切許さないんですけどね、初見さん。
「綺羅子も、あんな形じゃなかったら友達になりたいと言っていたよ。仲良くしてあげてくれると嬉しいな」
「!?」
「そ、そうか。だったら、僕もしっかりと彼女と友達になり、その先に進めるように努力しよう!」
ギョッとして俺を見てくる綺羅子である。
俺はそんな彼女を無視し、にっこりと白峰に笑みを送る。
そうだ。
頑張って綺羅子に構い続けろ。
「ありがとう! 君は僕の親友……マイベストフレンドだ!」
「!?」
だ、誰が親友だ!?
こんな大勢の前で言いやがって……!
本当にそう思われたらどうするんだ、このバカ!
「ぷふーっ! くすくすくすくす」
さっきまで苛立ちの目で俺を睨んでいた綺羅子が、心底楽しそうに噴き出している。
クソ……! こんなはずじゃなかったのに……!
『君が親友認定していたじゃん。よかったね、両想いで』
嫌だああああああああああ!
あんなの適当なことを言ったジョークなのにぃ!
結局、白峰を使った攻防戦は、俺と綺羅子の痛み分けとなってしまうのであった。
『白峰くんに対して失礼すぎる……』
「あー、席つけ。今日も面倒くさいホームルームの時間だ」
教室に入ってくるのは、教師の資格がない教師、浦住だった。
マジでこいつふざけるなよ。
俺の嫌なこと、ほとんどお前が関与しているじゃねえか。
ぶっ飛ばすぞ。
「さて、いつもなら特に話すこともないから、出席確認だけして終わるんだが……。今日はちょっと違っていてな」
「何が違うんですか?」
「転校生だ」
『えええええええっ!?』
サラッと浦住が言ったことに、教室中が大騒ぎになる。
それもそうだろう。
まだ一か月くらいしか経っていないのに、このタイミングで転校生とは想像しづらいところがある。
『それに、この学園の特殊性もあるよね。普通の学校間の転校とは違う。適性検査で漏れていた特殊能力者が入ってくるとも思えないしね。訳アリだろうなあ』
そうか。じゃあ、絶対にかかわらないようにしよう。
「……めんどくさ。もう転校生にさせればいいか。ほら、入ってこい」
「はい」
浦住が退廃的な隈付きの目を向けると、きれいで透き通る声が聞こえてきた。
こいつ、転校生の紹介という大事な役割を丸投げしやがった……。
しかも、答えた声も微塵も震えていないし。
浦住の丸投げにクラスの中も白けていたのだが、入ってきた転校生を見て騒ぎがなくなった。
「うわ、すっごい美人……」
入ってきた転校生の容姿が、驚くほど整っていたからである。
輝く銀色の髪はボブカットに切りそろえられている。
真っ白な肌は病弱さを感じさせるほどだ。
とくに印象的なのは、その真っ赤な瞳だ。
まるで、血のようだ。
スタイルも整っており、規則正しく歩く姿は凛々しい。
多くの視線を集めているから多少は緊張しそうなものだが、そんな様子は見受けられない。
視線を集めるのを慣れていると思わせるほどに。
俺は横にいる綺羅子にこっそりと話しかける。
「(綺羅子、落ち込むなよ)」
「(残念ね。私の方が美少女だわ)」
俺がからかえば、綺羅子はまったく動揺せず、誇らしげにナイ胸を張る。
ちっ。自分の容姿に対する自信はえげつないな、こいつ。
つまらない奴だ。
「私の名前は、ジェーン・グレイと申します。欧州出身です」
教壇に立つと、転校生――――グレイはじっと教室を見渡して言った。
その見た目と美しい声に気を引かれるクラスメイトも多いが、それ以上に彼女の出身地が教室中をざわめかせた。
「欧州って……」
「(魔物の氾濫で壊滅したところね)」
綺羅子がコソコソ解説してくる。
ああ、日本やアメリカみたいに抑え込みに失敗したのか。
全滅していなかったのか。
「(じゃあ、こいつは何しにきたんだ……? 亡命か?)」
今度は俺も綺羅子にコソコソと話しかける。
まあ、亡命くらいしか理由はないよな。
さすがに欧州の人間が皆殺しにされたとも思えないし、世界各地に難民として散った感じだろう。
彼女もそんな感じで日本に来たと。
それを察したのか、白峰などはウキウキで話しかけようとしている。
よし、行けピエロ。
「私は、ここにいる方々と慣れ合うつもりはありません」
…………ん?
ビシッと冷たい言葉がグレイから聞こえる。
うーん?
「あまりなれなれしく、親しくしないでください」
なんだこいつ……。
第一章完結です!
次回から第二章となります。
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