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第25話 皆の見本になりたい

 










 身体の所々に包帯を巻いている俺の姿が、鏡に映っている。

 なんて痛々しい。


 かわいそうすぎる……。

 こんな痛々しい姿を見ていると、こんなふうにした白峰、彼をたきつけた隠木、そしてなんとなく綺羅子に対する怒りが沸き上がる。


 おのれ、地獄に堕ちろ。

 ……しかし、不思議なもので、鏡をずっと見ていると、俺の姿はとても格好よく見えてくる。


 傷のあるイケメン。

 ……うん、何かいい感じ。


 やっぱ、俺って何でも似合うわ。


「どういう……どういう……?」


 そんなことを考えていたら、綺羅子が怪訝そうに俺を見ていた。

 なんだよ。


 というか、俺の部屋に当たり前のようにいるんじゃねえ。

 清浄な空気が汚れる!


「それはいったい何の疑問だよ」

「いや、あなたの特殊能力って無効化でしょ? 何相手をぶっ飛ばしてんの? 怖いんだけど……」

「お前がたきつけた戦闘なのに、なんてことを言いやがる……!」


 もともと、さっさと白旗を上げるつもりだったのに……!

 というか、綺羅子が余計なことを言わなければ、俺は周りの目を気にして白峰と戦う必要はなかったのだ。


 やはり、諸悪の根源。

 いずれ処理しなければならない怨敵だ。


「だいたい、俺も知らんわ。なんか気が付いたら白峰が吹っ飛んでいたし」

「えぇ……」


 唖然と俺を見る綺羅子。

 いや、本当に知らんし。


 そもそも、特殊能力なんて俺にはないと思っていたし。

 無効化だけでもよくわからんのに、さらによくわからん特殊能力が増えて、もうわけわからんわ。


「まあ、これが俺の力というか、才能というか、ギフトというか、天賦の才というか……。まあ、そういうことだよな」

「自画自賛がきつすぎて嫌」

「お前も相当だろうが」


 知っているぞ。

 自分のことを絶世の美少女と信じて疑わないだろ、お前。


 確かに、見た目はいいかもしれない。

 だが、内面がドブを1年間真夏の日差しの中で腐らせたような感じだから、とてもじゃないが恋愛感情を持つことは不可能である。


「というか、訳の分からない力って、怖くない?」

「怖い。無効化さえよく分かっていないのに、もっと訳の分からない力が出てきたらビビる」


 綺羅子の問いかけに、即座に頷く。

 いや、怖い。


 そもそも、特殊能力自体、俺はまったくもって信用していない。

 いきなりポンと渡されて、それを信頼して使うことができるだろうか?


 有象無象の馬鹿どもはできるだろうが、俺みたいな真っ当な人間は絶対にできない。

 いきなり唐突に現れた力だ。


 では、いきなり唐突に消えない保証はどこにもない。

 この力に頼り切っているときにそうなれば、もう二度と自分の足では立てなくなる。


 だから、俺は怖いのだ。


「そもそも、特殊能力は一人につき一つだけのはずよ。それなのに、どうして……」

「選ばれし存在だからな」

『さっきまで気味悪がっていた力なのに、どうしてこんな反応ができるんだろう……』


 周りと違う、普通ならできない。

 それ、俺を喜ばせる言葉である。


 しかし、特殊能力って、一人につき一つが原則なのか。


『それも知らなかったんだね』


 だって、まったく興味なかったし。

 自分に発現するとも考えていなかった。


 無理やり特殊能力開発学園に入れられる連中を見てあざ笑おうとしていたのに、どうして……。


「まあ、白峰をぶっ飛ばしたのは評価してあげるわ。これで、私は商品として譲渡されることはなくなったもの」

「タダでいいからあげるって言っておく」

「ぶっ殺されたいのかしら? 私は国宝級の価値がある存在よ」


 当たり前のようにとんでもないことを言う綺羅子。

 どれだけ自分に自信があるんだよ……。


 俺にとっては、お前はなくなりかけのトイレットペーパー並みの価値があるぞ。

 良かったな、貴重で。


『信じられないことだけど、君には特殊能力が二つあるようだ』

「俺には特殊能力が二つあるんだって」

「いや、それさっき私が言ったわよね? なんで繰り返したの……?」


 寄生虫が言っていることをそのまま言っているだけだから。

 というか、特殊能力なんていらないって言ってんだろ。


 なんで二つもあるんだ。


『おそらくだけど、あれは自分の受けたダメージを相手に返す、カウンター型の特殊能力だ。実際、白峰くんを吹き飛ばしたのは、君が今まで受けたダメージだろう』


 なるほどね。

 あの白峰とかいうバカ、あんなにぶっ飛ぶほどのダメージを俺に与えていたの?


 ダメだろ、刑事事件にしてやるからな。

 いい家らしいから、賠償金を搾り取ってやる……!


 俺の二つ目の特殊能力は、受けたダメージをそのまま相手に返すのか。

 つまり、傷つかないと効果を発揮しないと。


 ……全然使えねえな。


『いや、あれは1.5倍くらいに威力が増していたよ』


 ……なんでちょっとだけ威力を増しているんだよ。

 じゃあ、等価的に同じダメージを与えるんじゃないのか。


『特殊能力は想いの発露だからね。たとえば、無効化はすべての存在を拒絶したがる君の想い』


 うん。

 否定はしない。


『君、あの時どんなことを考えながら戦っていた?』


 寄生虫に問いかけられて、思い出したくもないことを思い出す。

 うーん、白峰にボコられていたときかあ。


 特殊能力のデモンストレーションって話はどうした、とか。

 これを止めないとか浦住は教師の資格まったくねえな、とか。


 俺だけこんな苦しくて痛い思いをするのは許せない、お前はもっと苦しんで痛い思いをしろ、とかかな。


『それだよ……』


 そうか。

 それが、俺の二つ目の特殊能力の根源か。


 怪訝そうに俺を見ている綺羅子を見返す。

 そして、言った。


「なんか負けたくない、皆の見本になりたいって思ったら生まれた特殊能力らしいわ」

『ええ!?』

「嘘つきなさいよ。あなたがそんな殊勝なことを考えられるはずないでしょ。もし本当なら裸踊りをしてあげるわ」


 はんっ、と鼻で嘲笑する綺羅子。

 ちっ! 騙されなかったか。


 まあ、こいつを騙してもメリットはないし、別にいいんだけどね。


「男と大して変わらない身体をしている奴が何を言ってんだ」

「あるわよ! あるわよ! ちゃんと見なさいよ!」


 錯乱した綺羅子が、突然制服を脱ごうとする。

 馬鹿! 誰が得するんだ、この展開!


「止めろ! お前のその気安さのせいで、隠木に恨まれてボコボコにされたんだぞ、俺!」


 必死に止めようとする俺。

 このバカがいつものように平然と俺の入っていた風呂に乱入してきたから、今回の悲劇につながったんだ。


 隠木が追従してきて、裸を見られたから怒って、白峰をたきつけて、あの戦いだ。

 ……今から考えると、俺全然悪くないよな。


 どうして俺だけこんなひどい目に合っているのか。

 先に風呂に入っていたのはそもそも俺だし、隠木や綺羅子のような異性の身体を見たからなんだと言うのだ。


 全然微塵も全く心が動かなかったのに、どうして……。


『それじゃない?』


 そんなことをしながらドタバタとしていると、ガチャリと音が鳴った。

 それは、明らかに扉が開いた音だった。


 ……扉が開いた?


「何を、して、いるっすか……?」


 誰もいない。

 しかし、その声はとてもよく知っていた。


 ぎゃあああああああああああああ!?

 また面倒なところを見られたぁ!


 てか何勝手に入ってきてんだ、このクソ女ぁ!




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