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第22話 こ、こえぇ……

 










「さて、どうかな? 観衆はクラスメイトだけだから、小規模なものだ。しかし、僕が君を打ち倒したという情報は、他のクラスにも浸透するだろう。すなわち、僕の方が優れた男というわけだ」


 優越感たっぷりに、白峰 光太は良人に話す。

 彼は、もはや自分が負けるとは微塵も考えていない。


 目の前の男を倒し、名声を手に入れたその後の姿しか想像していないのだ。

 そして、自信家であることは間違いないが、的外れな妄想というわけでもない。


 なにせ、光太は英雄七家の一つ、白峰家の子供。

 一般人なら中学校卒業間近で受ける特殊能力検査で初めて有無が分かるが、光太はさらに小さなころに、すでに特殊能力の検査を受けて、それを鍛えてきた。


 つい先日手に入れたばかりの力を扱う者に、負けるはずがないのだ。


「そうか。戦闘能力で人間の優劣をつけようとしているのはどうかと思うが……(なんだこいつ。結局、俺を差し置いてモテたいだけかよ。言っておくが、ゲロ甘で金持ちな女子生徒は俺のものだぞ)」

『なにその気持ち悪いほどのクズ発言は……』


 あくまで光太を心配しているアピールをしつつ徹底的に貶す良人。

 これくらいのマルチタスクは余裕である。


 その他大勢のクラスメイトを持っていくのは構わないが、自分を養ってくれそうなクラスメイトだけは、絶対に譲るつもりはなかった。


「ただ強いというだけでクラスメイトの彼女たちから好かれると思っているのは、彼女たちへの侮辱に他ならない。訂正を求めるよ」


 良人はキリッと顔を作って言う。

 別に、光太はクラスメイトたちを侮辱していない。


 しかし、良人がそういえば、なんとなくそんな感じもしてくる。

 これを聞いていたクラスメイトたちも、良人が自分たちを庇ってくれて、光太が自分たちを見下している、ように感じ取ってしまう。


 印象操作である。


「(きゃー。あー、本当白峰くん、しゅき……)」


 この男、馬鹿にされたり侮られたりしたことは絶対に許すつもりはないが、それでも光太に対して好印象を抱いていた。

 光太の評価を下げ、自分の評価を上げてくれる隙を必ず作ってくれる。


 綺羅子を引き取ってくれる。


「(もう、これはマイベストフレンドといっても過言ではない)」

『君の友達認定の理由がひどすぎる』


 勝手に親友判定される光太。

 不憫で仕方ない。


 そもそも、自分を引き立てるアクセサリーとしか思っていない相手を親友と呼ぶ良人の腐った性根がやばい。


「よし、準備はいいかぁ?」

「(よくないです)」


 浦住の声。

 そう言えば、今から光太と戦闘をしなければならないのである。


 適当に白旗を上げる気満々の良人であるが、やっぱり面倒ごとに巻き込まれたことを思い出し、彼に対する評価を一気に下げた。

 気分屋なのである。


「随分やる気になっているようだが、あくまでこれはデモンストレーション。特殊能力がどういったものか、どれほど危険なものかを知らしめるためのものだ。決してやりすぎるなよ」

「ええ、もちろんです。もっとも、危険なのは梔子くんだけでしょうが」

「(この俺を侮った? 許せねえわ……)」

『プライドたかっ!』


 光太としては、ここで良人を圧倒し、上回れば、自分を慕うクラスメイトの方が多くなるだろうと考えていた。

 そして、こちらを油断なく見据えてくる彼に負けるはずもないと。


 内心怒りまくっている良人、光太を蹴落とさないと気が済まなくなる。


「そうやって足元を見ないと、とんでもないことになると言うことを教えてやるよ」

「それは楽しみだ」


 ふっと笑いあう二人。

 まさに、好敵手。


 男同士らしい会話に、クラスメイトもドキドキ。

 なお、一人はさっさと白旗を上げて幼なじみを押し付けるつもりである。


「良人ー!!」


 そして、その未来を知っていて、決して許容できない女がいた。

 名を、黒蜜 綺羅子。


 適当に都合のいい男を捕まえて、のんびりと財産を貪りながら生きていく所存の女である。

 まさしく、彼女の姿は良人を気遣うもの。


 自分のために戦うその姿を案じる、幼馴染の……。


「絶対に、絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に勝ってくださいねー!!」


 違った。

 くぎを刺していただけである。


 ――――――簡単に負けたら殺すぞ。


【絶対】という言葉の数だけ殴られそうである。


「ああ、もちろんだよ(ひぇ……)」

『怖い……。どれだけ白峰くんが嫌なんだ……』


 ガチビビりする良人と寄生虫。

 こういう反応だけは仲良しであった。


「あー……まあ、あたしに始末書とかを書かせない程度にやれよ。じゃ、はじめ」


 浦住は面倒くさそうに、しかし自分が一から授業をしなくてよくなったので、ちょっと機嫌はよかった。

 試合開始の直後、光の弾丸が良人を襲う。


 それは、外れて少し離れた地面に着弾した。


「…………」


 チラリと横目で着弾を確認する。

 硬く踏みしめられた地面がえぐられている。


 訳の分からない力は、それだけの威力を秘めている。

 人体に着弾したらどうなるだろうか?


 ヘタをすれば、骨を粉々にされ、臓器を破壊されることだろう。

 それを見て、良人は即座に頭を回転させ、0.1秒で答えを出した。


「(あ、ダメだ。勝てねえ。逃げよう)」

『早いよ!』

「(馬鹿野郎! 地面がえぐれているんだぞ!? こんな攻撃を喰らったら、確実に死ぬわ! なんで人間が一撃で地面をえぐれるんだ、おかしいだろ! そんなゴリラと戦いたくないわ!)」


 戦略的撤退。

 もともと、白旗を上げて敗北する気満々だったが、加速度的にその瞬間が早まる。


「ずっと特殊能力に触れてきたというアドバンテージがあるから、僕は君にハンデをあげよう。僕の特殊能力についてだ」


 なんてことを考えていたら、光太が得意げに話し始める。

 優位な立場をひけらかしたいのだろう。


 ただでさえ着火の早い良人の導火線、燃え上がる。


「僕の特殊能力は、『光』。このように、光を集めて攻撃することができる。輝かしい僕に相応しい力だろう?」

「ああ、きれいだ」

「ふふん、分かっているじゃないか」


 敵からの称賛に、さらに気を良くする光太。

 しかし、彼は気づいていない。


 もともと数十センチもないクソ短い導火線は、すでに燃え尽きているのだということに。


「ただ、それを扱う者は、どうやらそうでもないらしいな」

「……ふーん」


 降参するよりもとりあえず相手を煽る。

 これ、良人の心意気なり。


 スッと冷たくなる光太の目。

 そこには、強烈な敵意がにじんでいた。


 煽っておいてビビりつつ、良人は焔美からのアドバイスを思い出していた。


『まず、ウチからのアドバイスとしては、お坊ちゃんに考えさせないようにすることっす。あれ、めちゃくちゃ短気なんっすよ。賢いんすけどね。だから、ちょっと挑発するだけで、簡単に理性を吹っ飛ばせるっす』

「まだ減らず口を叩けるんだったら、素晴らしいことだよ。それが、いつまで続けられるか、見ものだね!」


 光太は手のひらから光の弾丸を乱射する。

 その数はすさまじく、また威力も上がっている。


 先程の威嚇射撃とは、比べものにならない。

 当たり所が悪ければ、瀕死になることだろう。


『とりあえず、光を乱射させてくださいっす。特殊能力だって、無限に行使できるわけじゃないっす。とくに、お坊ちゃんって体力がないんすよ。とりあえず、疲れるまで無駄撃ちさせましょう』

『いや、その過程でやられないか?』


 戦闘のせの字も知らない男、梔子 良人。

 同級生との喧嘩すら全力で避けて、うまいこと世渡りしてきた男だ。


 時間稼ぎもできる自信はなかった。

 なお、口で煽りまくる余裕はあった模様。


『いやいや、梔子くんには、チート一歩手前のとんでもなく強力な特殊能力があるじゃないっすか』


 姿は隠していても、焔美がいたずらな笑顔を浮かべていたことは分かった。

 というか、親しい者を割と売ってきていた気がするが、まあ良人としては自分のためになるからオッケーである。


 もちろん、彼女のことは人として絶対に信頼しないと決めたが。


「…………ッ!」


 一発の光弾が、ついに良人を捉える。

 大ダメージを与える。


 それは、光太も、浦住も、そしてクラスメイトたちも思った。


「(平気でしょうから、さっさとぶっ殺しなさい!)」


 何とも思っていなかったのは、綺羅子だけである。

 当たった直後、その光弾は一瞬ののちに霧散した。


 そう、凶悪な良人の特殊能力、無効化である。


「なっ、なに!?」

「(こ、こえぇ……)」


 なお、死にかけた恐怖は消えない無効化されない模様。




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