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第19話 さあ、どうだい!?

 










 校庭にぞろぞろと集まる有象無象ども。


『普通にクラスメイトって言えないのかな?』


 運動着に着替えた俺たちの前に、浦住が立つ。

 本当に小さいな、このバイオレンスゴリラロリ。


「おーし、集まったかぁ。面倒オブ面倒の、特殊能力を使った授業だ。辞めてえなあ……」


 なんだこいつ……。

 じゃあ、どうしてお前教師になったんだよ。


 こいつを採用したバカは誰だ。

 何をもってこれを未来ある若者を導く大人として見ることができたんだ。


「ふわあ……ねむ。ねえ、枕になりなさいよ」

「この状況で何を言ってんだ、お前。シャキッとしろ、もたれかかるな鬱陶しい」


 隣に来ていた綺羅子が、コソコソと話しかけてもたれかかってくる。

 こいつは、軽い。


 乳がないからな。

 だから、寄り掛かられるくらいなら別に大してしんどくはないのだが、こいつが楽をしているという事実が俺の精神をすり減らせる。


 少しでも、綺羅子には不幸になってほしい。

 だから、彼女が楽をするのは許せないのである。


「皆の特殊能力が気になるし、いい授業よね」

「自分の特殊能力のこともいまいちわかっていないから、楽しみだったのよ!」


 クラスメイトたちは一気に沸き上がる。

 若いねぇ。


 俺なんて、一刻も早くこの特殊能力から解放されたいと思っているけど。

 いらないわ、これ。


 こんなものがあるせいで、俺は公務員というクソブラック労働者になることが定められているのである。

 しかも、命の危険がマシマシの。


 地獄かな?


「あー、きゃあきゃあしたがるのは分かる。というか、毎年そうだ。突然人智を超えた力を手にしたんだから、それに興味を持って遊びたくなる気持ちもわかるぞぉ」


 いいえ、遊びたくありません。


「だけどな、特殊能力を甘く見るなよ。これは、簡単に人を殺せる凶器だ。お前らは、ピストルを持っていると思え。簡単に人を殺すことのできる、危険極まりない武器を持っているんだ」


 浦住がめったにない、教師らしい姿を見せている。

 そのため、はしゃいでいたクラスメイトたちも、彼女の言葉を聞いていた。


 少々ビビっているのだろう。

 人を容易に殺すことのできる凶器を、自分たちが持っていると思えば、それもそうだろうが。


 俺は何とも思っていないけど。

 俺の特殊能力、無効化だしな。


 相手を攻撃する力なんて微塵もない。

 心優しい善人の俺に相応しい能力ですね……。


「言われているぞ、綺羅子」


 俺よりもはるかに殺傷能力の高い力を持っているのは、綺羅子である。

 あの爆発する深紅の槍。


 無からそれを作り出すことができるのだ。

 非常に強力である。


 ……あれ、もう気安く蹴落とそうとすることができないのでは?


「不必要には殺さないわ」

『必要なら殺すのか……』


 なんて女だ……。

 もちろん、俺は人殺しなんてしない。


『へー、常識があってびっくり。どうしても戦わないといけない時とかどうするの?』


 常識人の中の常識人である俺になんてことを……。

 まあ、どうしても殺さないといけない相手がいたら、綺羅子や他の連中が殺すように仕向ける。


 俺の手は汚れない。

 邪魔者は消える。


 うん、最高だ。


『うん、最低だ』

「そんな大層なこと?」

「簡単に人を殺せるとも思えないし……」


 しかし、浦住の話を聞いても、いまだに緩い考えの者もいる。

 当たり前だ。


 まだ中学校を卒業したばかりの子供なのだから。

 しかも、この学園に望んで入学したのではなく、強制的に入学させられていれば、特殊能力というものに対する意識も低いだろう。


 だから、俺も意識が低くても問題ないのだ。


『結局、自分を正当化するためだけの言葉か……』

「あたしが教師でいるのを、不思議に思っている奴らもここにはいるだろう。悪い意味で」


 はい。


「あたしがこの学園に雇われている理由は簡単だ。お前らの中に図に乗って公序良俗に反し、国家に敵対する輩を……」


 スッと足を上げる浦住。

 そして、それを振り下ろす。


 駄々をこねているのかな、お嬢ちゃん?


「……力づくで、踏みつぶせるからだ」


 浦住の足が地面に着いた瞬間。

 ズドン! というとてつもなく重たい破砕音が響き渡る。


 もちろん、それは浦住が発生させたもの。

 彼女の震脚によって、硬い地面に亀裂が入っていた。


『…………ッ!?』


 一気に緊張が走る。

 が、ガチのゴリラだった……?


 学名で言う、ゴリラゴリラゴリラ!?


「まあ、お前らの中に調子に乗り、特殊能力に踊らされるバカもいないとは思う。あたしもそんなクソ面倒くさいことなんてしたくないから、しっかり授業を聞けよぉ」


 ジロリと隈のある目で見据えられる。

 どうして俺を見ているんですかねぇ……。


 もちろん、俺は浦住先生閣下のお言葉を、一言たりとも聞き逃すつもりはなかった。

 分かったか、お前らぁ!


 閣下のお言葉を聞き逃すんじゃねえぞ!


『なに、この三下ムーブ』

「先生、少しいいですか?」

「なんだ?」


 手を上げていたのは、白峰だった。

 おらぁん! 浦住閣下に手間をとらせるんじゃねえよ!


 プチュッと潰されてえのか、ああん!?


「先生のおっしゃること、ごもっともだと思います。だからこそ、いきなり自分たちの特殊能力を使わず、どういったものなのか、どれほど危険なものなのかを知る必要があるでしょう」

「何が言いたい?」

「デモンストレーションをしましょう。特殊能力がどういったものか、まずは見てもらうのです」


 ……嫌な予感がする。

 綺羅子、背中を貸せ。


「私の背丈であなたは隠れないわよ」

「そうだった……。お前、チビだったわ……」

「殺されたいのかしら?」


 いかん。

 敵が増えた。


『自業自得なんだよなあ』

「あー……それは、さっきみたいにあたしがやればいいのか?」


 心底面倒くさそうな浦住。

 さっき、ちょっとだけ上がった教師評価がまた底辺になった。


 おめでとう。


「いえ、先程見させてもらったことから、新鮮味がありません。新しい方がいいでしょう」

「そうか」


 なにちょっとホッとしてんだ、このクソ教師。

 嫌だああ! 止めろおおお!


 何が言いたいのかわかるからやめろおおお!


「もちろん、素人にデモンストレーションをしてもらうわけにはいきません。だから、白峰家の子供であり、小さなころから特殊能力に触れあってきた僕。そして……」


 ついには、がっつりと俺を見る白峰。

 いやぁ、見ないで変態!


「鬼を倒したと吹聴している梔子くん。この二人で、模擬戦闘をやろうじゃないか!」


 浦住が、クラスメイトたちが、そしてニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべた綺羅子が、俺を見る。

 見るなって言ってんだろ、ド変態ども!


「さあ、どうだい、梔子くん!?」


 勝利を確信したように笑う白峰。

 一対一で断られても、こうして大勢の前ならばと思ったのだろう。


 多くの人の目がある場所ならば、プライドもあって断らないのではないかと見たのだろう。

 それに対して、俺はふっと笑みを浮かべて言った。


「嫌です」




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