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第17話 えー、面倒くさ

 










 あの忌々しいダンジョン探索から、数日が過ぎた。

 俺たちは学園に戻ってきて、毎日授業を受けている。


『授業を忌々しいって……』


 寄生虫の声がする。

 いや、普通に探索するだけだったら、俺もそこまで言わない。


 誰でも入ることができる場所じゃないから、観光気分的には悪くない。

 だが、俺は世界を滅ぼしかけた魔物と戦わせられているのである。


 ダメだろ。

 マジで大きな問題だろ。


 なんで中学校卒業したばかりの子供が、命がけの戦いに身を投じなければならんのだ。

 少年兵か?


『でも、結局君たちはマスコミとか教育委員会とかに言っていないじゃん。驚いたよ。見直したと言ってもいい』


 寄生虫の言葉通り、俺と綺羅子はあのことを外部に漏らしていない。

 いい年をした大人が俺に頭をペコペコ下げているのは、なかなか滑稽だった。


 とはいえ、もちろんそれで満足しておもらししなかったわけではない。

 当然、俺にも考えがある。


 ふっ、まあな。

 一時の怒りに任せて浦住たちの首を飛ばすよりも、いいことを思いついたんだ。


『……ん?』


 何も分かっていない寄生虫に、得意げになって話す。

 この不祥事を俺が抱え込むことによって、教師陣は俺の気を伺うようになる。


 当たり前だよなあ?

 だって、俺が外部におもらしをするという爆弾を持っているようなものなのだから。


 それを起爆させたら最期、彼らは職を失うどころか世間からも強烈なバッシングを受けることになるだろう。

 つまり、俺が何も要求しなくても、気を損ねないように優遇をするようになる。


 無意識に、俺のことを常に意識し、気分を害さないように行動するようになるだろう。

 ある程度の社会的地位と地盤を得ていれば、それを守ろうとするのは当然のこと。


 それを利用するのだ。

 学校において、教師からの優遇があれば、とても生きやすい。


 俺の外面で騙して利用してやろうと思っていたが……。

 黙ることで俺の評価も上がり、かつ相手の方から自発的に利用されてくれるという状況を作り出せた。


 やばい……俺、天才かもしれない……。


『やっぱり、中学卒業直後にこんなことを考えられる君っておかしいよ……』


 賢いと言え、賢いと。


「あー、だから、基本的にダンジョンに潜る際には、一人ではなく複数人で行動する。そうすれば、それぞれの欠点を補いあい、助け合うことができるからな」


 今はダンジョンの授業だ。

 これは、特殊能力開発学園らしいと言えばらしい。


 普通の学校では、ダンジョンの話はしても、探索の仕方なんて絶対に教えないだろうし。

 まあ、俺は全然知りたくないんですけどね。


 微塵も興味ないんですけどね。


「先生、それはすべての特殊能力者の義務でしょうか?」

「いや、そういうわけでもない。自分に自信があって、かつその力が国から認められていれば、単独でダンジョンに潜ることも可能だ。あたしも潜ろうと思えば潜れる。資格を貰っている。まあ、面倒くさいから絶対にしないが」


 なんでこいつ教師なんてやってるの?

 どれだけ面倒くさい連呼してんだ、この白髪暴力ロリ巨乳。


 明らかに社会不適合者じゃん。


『すべてに不適合者が何か言ってる……』


 すべてに!?

 どういうことだそれはぁ!


 しかし、複数人で行動かぁ。

 浦住の言っていたことを思い返す。


 正直、大勢と行動するのは好きじゃない。

 有象無象と一緒にいれば、俺も有象無象と勘違いされかねない。


『自分だけ特別っていう、その底のしれない自信はどこから……』


 まあ、肉盾と囮と生贄がいると思えば、別にいいか。

 そいつらが死んでも、適当に涙流しながら悔やんでいたら、俺の評価が上がるだろうし。


 全部俺の踏み台だわ。


『本当にモンスターだよね、君。君ほどねじ曲がった人間は、今までに存在しなかったと思うよ』


 このイケメンを捕まえてモンスターとは……。

 そんなことを考えていると、どんどんと浦住にクラスメイトが質問をしていっている。


 好きだねぇ……。


「先生、何でそんな危険なダンジョンに潜らないといけないんですか……?」

「あー……お前ら、ダンジョンが突然現れた時のことを知っているか?」

「ダンジョンが現れたことによって、特殊能力者も出てきたんですよね?」

「まあ、そんな感じだな。もともといた特殊能力者が、これを機に公になったかもしれないが、そこはどうでもいいだろう。興味ないし」


 もしかしたら、超能力者とか言っていた連中もいたが、本当に特殊能力持ちだったのかもしれないな。

 全部眉唾物だと思っていたし、今も思っているけど。


「突如、世界各地に7つ現れた、地下迷宮。それがダンジョンだ」


 歴史の授業かよ。

 興味ねえ……。


『君、興味のある授業ないじゃん』


 ヒモになる方法とか、寄生先の見つけ方とか。


『教育機関で何を学ぶんだ、それは……』

「そのダンジョンからは、魔物と呼ばれる怪物が溢れ出し、国や文明を破壊した。実際に抑え込みに成功したとされているのは、日本とアメリカ、中国だけだ」

「ほ、他は滅んだんですか?」

「滅んだ、と言う表現が正しいかは分からないな。今も劣勢になりつつも戦い続けている国もある。滅んだと言っても、皆殺しにされたわけではないだろうし、そこは不明だ。なにせ、連絡が取れないんだからな。ああ、インドは今でも激戦を繰り広げているはずだぞ」


 へー、大変っすね。

 まあ、俺関係ないんすけど。


「私たちはあんまり覚えていないんだけど、そんなひどい戦いだったんですか?」

「ダンジョンも一律同じの規模ではなく、魔物の数と質も異なるとされている。日本の場合は、幸運とか偶然とか、そういうところで抑え込めたこともあるだろう。と言っても、被害は大きかった。数百万の犠牲者が出ているしな」


 まあ、いきなり国内に現れて化け物が大暴れしたらそうなるわな。

 それを食い止めたのが、特殊能力を早くに発言して抑え込みに協力した一般市民だ。


 今では英雄気取りだ、そいつらは。

 なあ、綺羅子ぉ!


「その惨劇を二度と繰り返すことがないよう、ダンジョンを調査する必要がある。予兆が分かれば、対策と準備がとれるからな。お前らはそのためにこの学園に強制入学させられたんだ」


 だからって、俺の意思を無視して道を強制するとか許されないんだけど。

 それ、俺以外の奴らがやればいいよね?


 ……なんで俺が見ず知らずの奴のために、命をかけてダンジョンに潜らにゃならんのだ。


「そんなに嫌そうにするな。確かに危険だが、だからこそとてつもなく待遇はいいぞ。給金は高いし、ダンジョンにあるものを持ち帰れば、国が高額で引き取ってくれる。一年で億万長者も夢じゃない」


 俺以外にも嫌な奴はいたようだ。

 しかし、表に出すとは三流め。


 俺は一切顔には出さないぞ。

 浦住はそんな奴らをなだめるように、金銭的なメリットを話した。


 ……ほほう?

 固定給プラス歩合給みたいな?


 ほーん?


『やったじゃん! これでちょっとはダンジョンに潜る気になるね!』


 俺を守銭奴と思ってない?

 しかし、俺がダンジョンに潜って危険な目に合う必要はどこにもない。


 いや、適当に捕まえた女にダンジョンに潜らせて、俺は安全圏で養ってもらった方が一番いいな。

 うん、そうしよう。


 幸い、この学園には寄生先候補がたくさんいるし、困ることはない。

 なんだよ。やっぱり、世の中って俺を中心に回っているじゃん。


『えぇ……』

「まあ、そんな感じだ。だから、お前らも頑張れよ」


 浦住はそう言って話を打ち切る。

 それはいいんだけどさあ……。


「…………むう」


 さっきから、後ろからチクチク背中を刺してくるこの隠木(バカ)を何とかしてもらっていいっすか?

 何してんだ、隠木ぃ!


 シャーペン痛いんだよ!

 そんなことをしていると、チャイムが鳴る。


 あーあ、まだ終わらねえのかよ。

 帰りたい……。


「あー、次は体育だな。全員着替えて外に集まるように」

「体育って、何するんですか?」

「ここは特殊能力開発学園だ。なら、やるべきことは決まっているだろ?」


 濃い隈のある目で、全体を見据える浦住。


「特殊能力を使った、特別授業だ」


 えー、面倒くさ。




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