【第86話:宿屋と冒険者ギルド】
王都へ着いたオレたちは、昔、メイシーが泊った事のあるという『精霊の涙亭』に泊まることにした。
なんでもその宿は、このエインハイト王国の色々な地方の料理が楽しめるという事なので、今から楽しみだ。
まぁただ、メイシーはその見た目と違ってお酒が好きなので、色々な地方のお酒が楽しめると言うのが推した一番の理由かもしれないが。
「うわぁ~! なんかいかにもファンタジーって街並みで、ちょっと感動するなぁ♪」
王都のような石造りの建物中心の街並みは、他の街では中々見る事が出来ないので、ユイナも少し珍しそうに短い観光を兼ねてゆっくりと歩いた。
それから一刻ほど。
目当ての宿『精霊の涙亭』は、広い街なので南門からだと少し時間はかかったが、メイシーの案内もあり、迷わず着く事が出来た。
「へぇ~、ここか。宿屋にしては随分小さな建物だけど、趣のある良さそうな宿だね」
「かわいい! メイシーさん、ここ良いですね! ボクこういう可愛い宿凄い好きです!」
「いいやろ~? ここはうちが王都で冒険者になった時に、ちょうど新しく出来た宿なんやけど、この国では珍しい鉱石レンガ造りで、凄いオシャレなんや」
鉱石レンガと言うのはオレもよくは知らないが、王都に多い普通の石造りの家と違って、少し緑がかった色合いをしており、綺麗に揃えられた形と、少し大きめの煙突と相まって、どこかの湖畔とかにポツンと建っていると、とても絵になりそうな、そんな雰囲気の宿だった。
「オリーちゃんいるか~?」
その宿の扉を開き、先頭を切って入っていったメイシーだったのだが……。
「あれ? あんた誰や? オリーちゃんはおらんのか?」
出てきた女主人は、どうも思っていた人物と違っていたようだ。
「いらっしゃいませ! えっと……オリーちゃん? って、もしかしてオリーナお婆ちゃんの事ですか? お婆ちゃんなら、ここを孫の私に継がせて里に戻っちゃいましたよ?」
そう言ってオレたちを出迎えたのは、少しくすんだ金髪の少女だった。
いや、本当に少女なのかはわからない。
その少女は、メイシーと同じドワーフだったからだ。
「あぁ、そうか。オリーちゃん里に帰ったんか~。じゃぁ、あんたはナルーハの奴の娘か?」
「あ、はい。ナルーハは私の父です。私は娘のセシルーナです。でも、父は冒険者なので、父も今どこにいるかわからないのですが……」
セシルーナと名乗ったそのドワーフの少女は、申し訳なさそうにそう言った。
「あぁ、かまへんかまへん! まぁ久しぶりやから会えるんやったら、それはそれで嬉しかったやろうけど、うちら普通にこの宿に泊まりに来ただけや。部屋に空きがあると嬉しいんやけど?」
「あっ、失礼しました! 空き大丈夫です! お泊りでしたら、さっそく手続きをさせて頂きますね!」
メイシーにとっては、どうやら古い友人と会うのも楽しみの一つだったようだが、残念ながら目当ての人物はここにはいないようだった。
「メイシー、残念だったな」
もしかすると、落ち込んでいるかと思って、そう声を掛けたのだが、
「あぁ、気にしなや。まぁ生きてたら、またどこかでそのうち会う事もあるやろ?」
あっけらかんと答えるいつもの明るさに変わりはないようなので、オレもユイナもちょっとホッとした。
「お待たせしました~! お部屋は一人部屋三つでよろしいですか?」
その後、宿泊の手続きを終わらせたオレたちは、軽く自己紹介を交わし、冒険者ギルドへと向かったのだった。
~
王都は人口に比例して冒険者の数も多いため、いくつもの冒険者ギルドが建てられている。
その中でも、宿から一番近い冒険者ギルドへとやってきたオレたちは、その大きさに少し驚いていた。
ここは、いくつもある冒険者ギルドの中でも、本部とされている場所なのだそうだが、メイシーが昔通っていた頃から建て直されているようで、オレとユイナだけでなく、メイシーもその大きさに驚いていた。
「しかし、おっきくなったなぁ。前の三倍ぐらいの大きさになったんちゃうか?」
「へ~♪ そんなに大きくなったんですね~」
「そもそも三分の一の大きさでも、ライアーノの街の冒険者ギルドより大きいかもしれないな……」
そんな会話をしながら冒険者ギルドに入った。
中には想像以上に多くの冒険者たちで賑わっており、その活気に圧倒されそうだ。
「やっぱり王都の冒険者ギルドは凄いな……」
子供の頃から憧れていた王都の冒険者ギルドに初めて入り、オレは興奮を隠せなかった。
ライアーノの街の冒険者ギルドは、長兄のファインに頼んで何度か連れていって貰ったことがあったのだが、さすがに母のマムアについて王都に来た時に、そんな自由は許されるわけもなく、噂で聞くだけだった。
だから、その冒険者ギルドの活気に、人の多さに、オレは何だかそれだけで嬉しくなって……、
「と、トリスくん……かお、かお……にやけちゃってるからね。ふふふ♪」
不覚にも、ユイナにそんなツッコミを頂戴してしまった。
その後、二階にある達成報告専用の窓口に行き、いくつもある受付の列の一つに適当に並ぶと、皆で護衛依頼の達成報告を行った。
もちろん『仮面の冒険者』としてではなく『剣の隠者』としての達成報告だ。
「それでは、こちらの報酬は振り込んでおきましたので」
その報酬は大した額では無かったが、憧れの王都の冒険者ギルドで、初めての護衛依頼の成功報酬だったという事もあり、何だか一つ大きな経験をしたような気がして、とても嬉しかった。
ただ、今度はユイナにツッコまれないように、コッソリと喜ぶことにしたのだった。
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王都のちょっとした一幕でした(*^^*)
そう言えば更新をお休みさせて頂いている間に、評価システムが
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