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【書籍化作品】呪いの魔剣で高負荷トレーニング!? ~知られちゃいけない仮面の冒険者~【Web版】  作者: こげ丸
第一章 『噛み合った運命の歯車』

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【第33話:罪】

 身体から痛みがひいていく。

 深かった傷口が閉じていくのがわかる。


 そして、身体の奥底から力が漲り、溢れるように魔力が身体を満たしていく。


「はぁ~~~……」


 大きく息を吐きだした時には、気分も落ち着いていた。

 今度は叫ばずに済んだようだ。


 そして、自分の手に視線を向ける。


「持ったままこの状態になれるのか……」


 そこには長年厳しい鍛錬を共にした魔剣(相棒)の姿があった。


「ユイナ! 魔剣を持ったままで問題ないようだ!」


 オレが少しだけ視線を送ってそう叫ぶと、嬉しそうに「てへへ」と笑みを浮かべているのが見えた。


「お、お前!? まさかオレたちと同じ召喚された人間なのか!?」


 サイゴウが何か勘違いして叫んでいるが、オレは正真正銘この世界で生まれたこの世界の人間だ。


 しかし、答えてやる必要もないだろう。

 オレはサイゴウの話を聞き流し、まずは抱えているリズに、水属性の回復魔法をかけてやる。


「ひゃん!? い、一体何が……この魔法のぬくもりは……ぼうけん、しゃ?」


 気を失っていたためか、一瞬驚きの声をあげ戸惑いの表情を浮かべる。

 だが、オレに抱えられて回復魔法を受けているという状況を理解すると、急に暴れだした。


「も、もう大丈夫です! 早く降ろしなさい! 冒険者!」


「ま、待て!? 降ろしてやるから暴れるな!」


 オレはサイゴウの動きを目で追いながらも、庇うように背後にリズを降ろす。


「と、とりあえず治療してくれたのは礼を言うわ。でも……あなたのその回復魔法の効果はいったい何なのですか? 姫様の回復魔法と比べても……」


「すまないが、説明はあとだ。まずは、あいつを倒さないといけないから、下がってスノア様の護衛に戻ってくれ」


 まぁ、オレもどうしてこうなったのか、まだ理解できていないので、たとえ今説明してくれと言われても難しいのだが。


「わ、わかりました」


 頷いて下がろうとしたリズだが、オレはいい忘れたことがあったので呼び止める。


「そうだ。リズ」


「……な、なんですか?」


 オレが少しあらたまって名を呼ぶと、なぜか身構えるリズ。

 会えば喧嘩ばかりしているとはいえ、信用無いな……。


 だけど、一言だけどうしても伝えておきたかったのだ。


「さっきは助かった」


「にゅ!? さ、さっきも言いましたが! あれは、その、あなたのその力が必要だったからで、別にあなたのためではありません! 冒険者が調子に乗らないでください!」


 赤面しつつ早口で叫ぶリズに、心の中で「それでも助かった」ともう一度礼を言い、前に向き直る。


 オレに無視され続けて、怒りを募らせているサイゴウが今にも襲ってきそうだったのだ。


「まさか、待っていてくれるとはな。それとも……魔族ってのは、ただの人間の冒険者が……怖いのか?」


 冒険者なら盗賊などとの戦いにおいて、時には言葉で煽って相手の冷静さを失わせる事も重要だ。……と、『冒険者の心得』って本に書いてたからな。


 ちょっと試してみた。


 正直、上手くいくとは思ってなかったのだが、しかしその試みは成功したようだった。


「調子に乗るなよ! 俺はもう昔とは違うんだよぉ!!」


 心の中で本の著者に疑って悪かったと謝っていると、言葉に激高したサイゴウが一気に距離をつめてきた。


「おらぁ! 死ねよぉ!」


 そう言って、片刃の剣で斬りかかってくるサイゴウ。


 さっき戦ったゴブリンジェネラルの変異種を上回る速度で剣を振るってきたが、その速度は並の剣士と変わらぬものだった。


 いや、今のオレにはそう感じたというべきだろうか。


 おそらく今のこの状態で、普通に剣を振り回しているように感じるのだから、もしかすると凄い速度なのかもしれない。

 しかし、比較対象がさっきの変異種しかいないため、サイゴウの強さの判断がつかなかった。


 ただ一つ言えることは、今の状態のオレなら……恐れるようなものでは、ない!


「ふっ!」


 オレは短く息を吐きだし、振るわれた剣を受け流して、サイゴウの傷を一つずつ増やしていく。

 既に纏っていた『仇怨(きゅうえん)の衣』は破っており、張り直す隙を与えないように慎重に。


 それでもサイゴウは、傷などまるで意に介さず、何度も何度も剣を振るうのだが、オレが全ての剣を受け流し、反撃に転じるのに苦は無かった。


「動きがなってないぞ!」


 そう言って振るったオレの魔剣は、今度はかなり深く奴の胸を斬り裂いた。


「ぎゃぁぁ!?」


 そして、このまま一気に畳み掛けようと思ったその時、


「ちっ!? 何が起こった?」


 サイゴウを纏う瘴気が渦巻き、何らかの変化が起きた。

 危険を感じたオレは、一旦距離を取って警戒を一段階ひきあげる。


「……って、あれ? 痛くねぇ……はははっ……痛くねぇんだよぉぉ!!」


 そして、オレに向かって駆け寄ってくると、今度は気が狂ったように片刃の剣を無茶苦茶に振り回してきた。


 その理性を失っていくような姿に、オレはどこかうすら寒いものを感じるのだが、それを深く考えるような余裕はない。


「くっ!?」


 まだオレの方に分はあったのだが、油断はできない状況だったからだ。


 無茶苦茶に振り回す剣を、的確に弾き、受け流すと、大きく踏み込んでサイゴウの腹に風穴をあける。

 普通なら致命傷になるような傷だ。


 だが、腹に魔剣を受けながらも、止まる事なくサイゴウは剣を振るい続けた。


 最初は、まるで効いていないのだと思った。

 しかし、何度も傷を負うサイゴウに、明らかな変化が表れだす。


「痛ぐねべんだよぼぉ!!」


 サイゴウは、次第に言葉までもを失っていったのだった。


 ~


「ぎゅらばりゃららぁぁ!!」


 言葉にならない言葉を叫び、剣だけでなく、瘴気を纏った拳で殴り掛かり、無詠唱で闇魔法を連発する。


「くっ!? やっかいな!」


 地方の貴族の三男にしては、かなり腕の立つ人たちとの模擬戦を経験させて貰ったと思う。

 だが、剣術とは程遠い、予測のつかない滅茶苦茶なその動きに、先ほどまでの余裕が消え失せる。


 その時だった。


「トリスくん! こっちの治療は終わったよ! ボク……もう迷わないから! 今から援護する!!」


 ちらりと視線を向ければ黒い光球を受けて苦しんでいた者たちが、みな回復しているようだ。


 オレがサイゴウと戦っている間に、何らかの光魔法で治療してまわってくれたのだろう。


「わかった! だが、無理するなよ!」


 そのオレの言葉に大きくしっかり頷くと、


「ボクだってやる時はやるんだから!」


 ユイナはそう叫んで、周りに光の矢を何本も創り出す。


「いけぇ!!」


 光の矢は弧を描くようにオレを避け、次々とサイゴウに撃ち込まれていく。


「ぐるらぁ!?」


 そして、その効果は予想以上だった。


 魔剣で斬るよりも効果が高いのか、今までと違って痛みを感じているようで、光の矢を嫌って暴れだす。


 だが、光の矢に気を取られて隙を見せるサイゴウを、見過ごしてやるほどオレは甘くない。


「はぁっ!」


 裂帛の気合いと共に上段から振るったオレの魔剣は、サイゴウがずっと手離さなかった片刃の剣を、腕ごと斬り飛ばした。


「ぎしゃぁぁ!?」


 オレは、サイゴウがどういった奴だったのかは知らない。


 だが、力に溺れ、奢り、最後には言葉すら失って、まるで魔物そのもののように暴れまわるその姿を、ただ憐れに思った。


 だが、だからと言って、攻撃の手を緩める事はしない。


 さっきの口ぶりだと、遊び半分に能力を試してみたくて変異種を創り出したようだが、その結果、こいつのせいで何人もの騎士が、衛兵が、冒険者がその命を失ったのだ。


 たとえ無理やり異世界から連れてこられたとしても、他に何かの事情があるにせよ、オレはその犯した罪を許せる道理は持ち合わせていなかった。


「はぁぁぁっ!! これで終わりだぁ!!」


 発した声が届くより早く振り下ろされたオレの魔剣は、サイゴウの反応速度を上回り、その身体を(はす)に斬り裂いた。


 身体がズレ、そのままゆっくりと傾いていく。


 だが……、


「きぎゃきゃきゃ!!」


 斬り裂いたはずの傷口は、すぐさま瘴気によって覆われると、瞬く間に修復されていったのだった。


****************

戦いはもう少し続きます!(/ω\)

****************

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