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少女編〜第四話

暴走しますが、ストッパーもいます。


壊れ気味ですがw


 突然、王宮主催の戦闘技大会が行われることになったのです。


 原因は各部門優勝商品の「勇者ボーデス」。


 とりあえず、国策外交薬品としての価値を見せちゃろうという話らしい。

 燃え上がる剣術課、魔術課も燃え上がっています。

 一応、個人戦剣技・魔術、集団戦剣技・魔術、チーム戦部門があり、参加者は国内外問わず、犯罪者じゃないことぐらいしか規定がないのですが、一つだけ決まっているルールがありました。


・参加者によるヒール禁止


 どうも私の主兵装がヒールだと考えているようなので、私も参加申し込みすることにしました。


 するともう一つ、ルールを加えたいと言ってきました。


・使役獣禁止


 これは、参加貴族の大半が反対の声を唱えましたが「魔獣使いが学園にいるんだぞ?」という学園長と「ふろーずん~」という国王の嘆きを見て納得したみたいです。


 さて、私の最大戦力とされているのが、学園的に見て「ヒール」「魔獣使い」となります。

 しかし、しかし、幼い頃から鍛え上げた私の絶掌は知らないのですねぇ。

 とりあえず、ガーベラ・テトラ・ツヴァイ開帳式の時に装備した武器は装備可能ですが、ヒールは禁止だ、とニッコリほほえむ学園長。

 でも、何か勘違いしていないでしょうか?

 BB弾は、属性魔法を付与できるだけのもの。


「・・・まさか、攻撃魔法を付与するつもり、かね?」


 まぁ、前もって攻撃魔法を付与すれば、MP関係なしの乱射劇ができますが趣味ではありません。


「まさかぁ、非殺傷魔法ですよ?」

「だよなぁ、うんうん、女神の妹が惨殺魔にはならんよなぁ?」


 もちろんなのです。

 ちゃーんと非殺傷魔法「ドレイン・ハイパー」を付与するのです。


「・・・え? 今なんと言った?」

「ドレイン・ハイパーを付与するのです」


 このドレイン・ハイパーはもの凄いのですよ?

 気力体力魔力を吸い取って、さらに、一時的にですがレベルや装備の強度も吸うのです。


 ばらまかれるBB弾。


 盾でよけても盾が崩れ、鎧ではじいても鎧が崩れ、直接当たれば意識が持ってゆかれるという・・・非殺傷兵器なのです。


「あー、そのだな、デルフィルナ嬢。初等部の参加は禁・・・」

「すでに研究室にスキップしているのです」


 初等部からの引き抜きを許可したのは学園長、あなたなのですよ、じーさん。


「・・・正直に言おう、頼む参加しないでくれ。志気がどん底に落ちる」


 土下座の学園長。

 誠意のある、誠の土下座に動かぬ心はありません。

 もう、仕方ないですねぇ。


「武器も魔獣も神獣も使わず、この四肢で得た武技のみでなら参加してもいいですか?」

「なに!?」


 思わず飛び起きた学園長。


「そんな武技を納めているとは聞き及んでおらぬが?」


 そりゃ言いませんよ。

 かなり呪われた技なんですから。


「武とは秘めるものです。完全なる絶掌も、何度も見せられれば研究されてしまうものです。ゆえに、誰にでも、そう、真の絶掌は敗者にしか見せないのです」


 というわけで、絶掌は使いませんが武技は使います。


「おおおおおお、なんか格好いいのぉ」


 わかってますね、学園長。


「ふふふ、この台詞を言うタイミングをはかっていたのです」


 という軽妙なノリで参加が決まり、謎のシード選手と言うことで個人戦の予選に参加しないで良いことになったのでした。










 妹の奇行には慣れたつもりだけどまさか「戦闘技大会」に参加するとは思わなかった。

 さらに言えば、どう学園長に取り入ったのか、決勝シードに潜り込み、謎の少女「D」とか名乗ってるし。

 その段階で誰だか知られているのが悲しいけど、禁止事項をみて、妹の戦力の大半が封じられていると安心して居るみたいだ。

 確かに、学園での奇行の範囲で見れば、おおよその戦力は封じている。

 でも、誰もが知っている、子供の枠を越えた機動性と狡猾さ、そして親族すら理解できない奇想天外さはルールなんかじゃ縛れないはず。

 少なくとも、土下座してでも参加辞退を願うべきなのに。

 なにを考えているのかしら?

 思わず首を傾げると、隣に現れた天使が耳打ち。


「(デルフィルナ様は、流体機工服以外の武装をしておりません)」


 ・・・なんですって?

 じゃぁ、付与魔法で戦うわけではない、ということ?

 それに使役獣も禁止。

 あれを着ているということはデンドロビウムかストライカーパックを召還する可能性もあるけど、なんとなく、そういう力押しじゃ無い気がするわ。

  

 ・・・まさか?

 本気なの、デルフィルナちゃん!?










 旋風すら感じる熱気が闘技場に集まっていた。

 一人は剣術課三年、エーリドル=フレム。

 入賞候補と名高い選手であり、重甲冑の巨人と有名な存在だ。

 相対するは、銀の仮面に隠れているが、その特徴的な髪型と正体を隠す気あるのかと言うほど、いつも通りの服装の、謎の少女「D」。


「ふふふ、ははははは! 日頃の、日頃のヒール乱射の感謝を込めて、俺は主義主張を越える! 幼いかわいい少女おかしであっても、叩き伏せる!」


 その豪放に剣術課男子は同調した。

 剣術課女子はブーイングだが、来賓者は意味が分からなかった。

 いや、解らない方が幸せだろう。


 それはさておき、謎の少女「D」は、マントから何かを取り出した。

 それはキラキラした宝石をマブした杖。

 ハートの形を象った宝珠を据えた杖。

 それをなにかしらの呪術を込められたリボンをつけた杖。


 見るものが見れば、こう言うだろう。


「魔法少女の杖」と。


 あまりに場にそぐわない武装に、周囲の声が静まった。

 ちんちんに熱くなった会場が絶対零度に切り替わった。

 その静寂の中、少女は呪文を唱える。


「○○ルマ○○ルマプリリン◎、◎◎レホホ◎◎レホドルミン◎! 謎の魔法少女になーれ!」


 視界を焼くような閃光とともに、謎の少女「D」の服装は替わっていた。

 ぽっぷできっちゅでふわふわで、リボンでキャンディーなほわほわの魔法少女に!!


「魔法少女ディー、見参なのです♪」


 しばらくの静寂の後、怒声かと思わせる歓声が闘技場をはみ出して町まで響きわたった。

「「「「「きゃーーーーーーかわいいいいいいいい」」」」」と女性。

「「「「「ぎゃーーーーーーー萌えるううううう」」」」」と男性。


 多くの男女が、鼻から愛を溢れさせていた。

 多くの男女が撮影魔具を構えていた。

 司会が絶叫し、国王が今まさに貴賓室から飛び出そうとしている王妃を押さえ込んでいた。


 そして、剣術課三年、エーリドル=フレム。

 彼は、がっくりと片膝をついて下を向いた。

 すると甲冑の隙間から、多量の血が流れ出ていた。


 誰もが解った。


 それは愛が溢れすぎたのだ、と。

 そんな中、試合開始の宣言が、遅蒔きながら発せられたが、剣術課三年、エーリドル=フレムは、このまま負けを宣言してもいいかもしれないとすら思っていた。

 いいモノを見せてもらった。

 心の底から思っているところで、魔法少女のアクションは終わっていないようだった。


「まじかる~~~~~」


 杖を天に掲げて、スカートのフレアが広がるような回転は、もう、愛らしさを凝縮したかのようだった。

 剣術課三年、エーリドル=フレムは思った。

 この光景だけで、参加した意味があったと。


「~~、もーにんぐすたぁーーーーー」

「「「「「え?」」」」」


 会場全体の疑問と同時に、彼の意識も暗転した。

 いや、闇に落ちる寸前で、こう思った。





 モーニングスターはないだろう、モーニングスターは・・・。








『えー、勝者、謎の少女「D」。決まり手は「マジカルモーニングスター」』


 その司会の台詞に、平民も貴族もなく誰もがつっこみを入れていた。


「「「「「全然マジカルじゃねーだろ!!」」」」」


 会場では、魔法少女が、


「魔法少女『ディー』、勝利です♪」


 と、かわいらしいポーズを取っているが、片手に持ったモーニングスターがすべてを台無しにしていた。

 今後の試合展開の混迷が予想されるシード試合であった。







 基本的に、ふつうの試合はふつうに進んだ。

 盛り上がる剣術、派手な魔法戦、見事なチーム戦。

 戦術が、戦略が、小さなフィールドでしのぎを削る。

 視覚の範囲で展開する。

 見たこともないような剣技が炸裂し、見たこともないような魔法が盛り上げる。

 そう、国民の志気は最高に盛り上がっていた。


 一つの試合をのぞいて。


 第二試合からは既に魔法少女姿で現れた「謎の少女『D』」。

 相手は軽女性戦士。

 先ほどのような大振りの呪文を唱えれば、速度のある軽戦士に軽くあしらわれるだろう。

 そんな注目の試合、開始の宣誓とともに、魔法少女は「まじかる~~~」と始めた。

 さすがに怒りを感じてか、正面から拳を振りおろした軽戦士だったが、すでにその場に魔法少女は居なかった。

 まずい、そう思って最大のバックステップをしていたが、視界に魔法少女は居なかった。

 行為自体は反則ではないが、戦士としてのプライドが許さないので避けるべき行為であるが、最後の手段と言うことで中央の魔動大画面に視線を走らせて驚いた。

 何しろ魔法少女、自分の真後ろにいるのだから。


「な!!」


 驚きの余りに硬直した軽戦士、最大の隙をつくように、魔法少女の「まじかる」が発動する。


「~~~、とめがねはずし~~~~」


 ぶわっと杖を振り下ろすと、彼女の纏っていたすべてのモノの留め金がはずれた。

 そう、すべてのモノの。


 音を立てて落ちる鎧。

 音を立てて落ちる小手。

 音を立てて落ちる臑当て。

 音もなく落ちる・・・・


「きゃーーーーーーーー!!!!」


 落ち掛けた胸当てをすくい上げるように体に当ててしゃがみ込んだ軽戦士に、魔法少女あくまは自分のマントをかぶせる。


「勝負、続けるですか?」

「・・・ぎ、ギブアップよ、このクソ餓鬼」

「ほほぉ、マントもいらないと?」

「ギブアップさせてください! お願いします!!」


 そんなやりとりの中、会場内は混迷を最大にさせていた。

 恥も外聞もなく乗り出す男たち。

 無情な行いながら勝利へのどん欲さに恐怖を覚える女たち。

 カップルできていた影響で、いろいろと破局してしまった男女。

 あの魔法を、体得する! と萌える魔法課。

 対抗手段に頭を痛める鎧組。

 非殺傷系ながら、恐ろしい技に背筋を寒くする国民たちだった。


 まさに制御不能のダークホース。

 次の対戦相手となっていた重戦士は、どんな目に遭わされるのか、とガクブルしていたのだが、魔動大画面に一文が表示された。


『女神の介入で、謎の少女「D」は次の試合を辞退することになりました』


 わーーーーーっと盛り上がる選手団。

 謎の士気高揚が発生した瞬間であった。










 おかしーなー、圧勝で非殺傷でっていい感じだったのに、姉上に怒られてしまいました。

 まぁ、商品には興味ありませんでしたし、新たに制作した「まじかる少女セット」売り上げのための宣伝でしたから、十分だったのですが。


「ところで、デルフィルナちゃん! あの留め金外し、封印なさいね!」


 久しぶりの鬼の目の姉上。


「えーーーーーーーー」

「あなたも女の子でしょ!?」


 とりあえず、仮面女子なのです。

 それに・・・


「私の服は常に流体機工服なので留め金はありません」


 ゆえに、よめがねはずしで外れるのは、デンドロイウムとの連結ぐらいですね。


「そうじゃなくてぇ! 衆人環視のなかで全裸って、デルフィルナちゃん、あなたは鬼なの!?」

「魔法少女なのです」


 鬼の上をゆくのが魔法少女であるという認識が姉上の中でできた瞬間だったのでした。







 試合は順調に進み、各部門の優勝者が決まった頃、勇者ボーデス開発チームということで表彰式に呼ばれました。

 いつもの格好で、いつもの髪型で、仮面なしですよ?

 それなのに、なぜか「ひぃっ」とかいって女性騎士やら魔法使いが逃げるのはどうかと思うのです。


 私は不殺の女なのですよ?


 まぁ、両肩に敖欽ちゃんとソニック、足下に氷虎がいる光景は異常かもしれませんが。

 それはさておき、個人剣技で優勝したのは剣術課の女性剣士でした。

 最後の表彰だったらしく、学園長から「勇者ボーデス」を渡された瞬間、それを一気のみしたのです。

 さすがにあの不味さには耐えられまい、と支えに走ったのですが、目の前の光景がそれを裏切りました。

 金色に輝くオーラ、風に舞い上げられるように長く伸びる髪の毛、角々しかった体が丸みを帯び、腹筋で寸胴になっていた体に括れができ、そして顔などについた傷が消え去ったのです。

 そこに現れたのは、ちょっと大柄なすごい我が儘ボディの美人戦士!!


「これが『勇者ボーデス』のちからだぁーーーーーーー!!!!」


 空瓶を掲げたまま会場を振り返った彼女を見て、男性は絶叫し、女性ももっと絶叫したのです!!


「おまえたちも今飲め、死ぬほどまずいが奪われるよりましだ!!」


 他の優勝者たちも一気のみして、次々とスーパー化していったのです。

 不味さのレベルは少し落ちたみたいですね。

 いえ、倒れている人もいるので、個人耐性の問題かもしれません。







 そんなわけで、そのあまりの威力を見せられた各国の使者や国外貴族は、うちの国と仲良くしたほうがいい、絶対いい、と本国に報告することになったのでした。



 女神ナーナリアのいるサマワリー王国。

 

 精霊愛されしサマワリー王国。


 謎の魔法少女が暗躍するサマワリー王国。





 ちょっと居すぎじゃね? と各国の話だとか。

 でも、魔法少女はいらないそうです。

 ちぃ、杖を密売しちゃろか?


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