025、それもう耳タコっす
困ったことにはならなかった。私には魔法ポイントがある。
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【脱穀製粉】30
→離乳食づくりのためにも固い殻は吹き飛ばしちゃおうね、フーフー。粉挽きも任せてよ、ドゥルル。ぷきゃっといい感じに仕上げちゃうよ。
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これだ。ぷきゃっといい感じにしてもらおう。
幸い魔法ポイントは54ある。今、使ったら残り24。これから料理をつくるので、直ぐまた増えるだろう。
「【脱穀製粉】」
穀物屋で買ってきた粟米、黍米、黒米、赤米、小麦、大麦、黒麦、燕麦の8種類全部が、あっという間に脱穀され、製粉して欲しかった小麦だけは粉になった。
脱穀時に出た糠は、そのまま収納しておく。
よし、パンを作ろう。
パン種の動画を観る。[材料]は小麦粉と魔法水。揃っているのでパン種できた。
一瞬で出来るの便利。普通に作るなら時間かかるもの。ただ、これを使おうとしたら新レシピが増えたのだが。
vol.2『つくってみよう!』
□生イースト[材料][動画]
□ドライイースト[材料][動画]
迷わず動画再生する。へえ、イースト菌の培養って大変そう。こういうの、一からやる異世界転生者って凄いな。
即完成してしまう育児チートほんとありがてえ。
動画内容を簡単に説明すると、真面目ぶって眼鏡かけた博士みたいな面したパンダたちが科学の実験よろしく、種菌の培養→糖蜜の培養液で増殖→遠心分離→水洗い→脱水で生イーストを。そして生イーストをフリーズドライして、ドライイーストを製造していた。
これって錬金術っぽい。ラグお爺ちゃんが喜びそうなやつ。
□麦類を使った離乳食[献立一覧]
┗ライ麦パン、テーブルロール、パン粥、麦芽糖、麦茶、すいとん、オートミール
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文字を押したら[動画再生]のメニューがポップアップ。[速度選択][ループ選択]が出た。
あ、他のつくってみようの育児グッズも倍速とか出来るようになっている。
レベルアップでもしたのかね?
お知らせも通知も無いから、サイレントレベルアップと呼ぼう。
動画視聴後、出来上がったテーブルロールを齧る。
「やばうまっ」
近所のベーカリーでよく買っていたパンと味がそっくり。
いつも仕事帰りだったから見切り品で、ひと袋百円のやつ買っていたけど、これは出来たてだから、あったかくて本当に美味しい。
懐かしくてうめえよう……。
ライ麦パンも美味しい。チーズ欲しくなるね。我が家の買い置きチーズはカビているので無理。ブルーどころか赤黒いから、食べたら死ぬチーズ確定である。
おかずは芋屋で買った芋煮を出す。相変わらず生鮮食品がない食卓は悲しいなあ。明日は朝市に必ず行くぞ。
飲み物は麦茶。久しぶりに飲んだ気がする。そりゃそうか、前世ぶりだ。
この香ばしい匂いがたまらん。テーブルロールと共に、懐かしさも込み上げてくる。
「嬢ちゃんは、ほんに新素材の宝庫じゃのう」
「こちらのパンレシピ、是非、錬金ギルドに登録して下さい」
ラグお爺ちゃん(イケメン)にテーブルロールがあまりにもふわっふわなので問い詰められ、イースト菌のことを喋ってしまったよ。
製造工程が知りたいと、我が家のボロ壁に投影してミニ上映会が始まる。
空中に出しても観れるのだけどね。画面の向こうに物があると気になるので、やはり白いものに投影するのが視聴し易い。
そしてミアさんことミッダンテさんからは、心配げな口調で特許取得を勧められてしまった。
やはり世に出てないものでしたか……。
ちらっと父親を見る。椅子に胡座かいて座っている親父は、ものっすごく不機嫌そう。
「エアリー……」
「あい……」
なんかこ~やらかしたかなあと思って神妙に頷いてみる。
「目立つと鬼に攫われっぞ」
「それもう耳タコっす」
「現に今日、誘拐未遂だろが」
「それはユリシスであって私では」
「そっちはフェイクで、本命はお前かも知れねえだろ」
「えええそんな憶測で」
「憶測なもんか。お前は狙われてんだよ」
じっと私を見つめる親父の目が、いつになく真剣だ。普段は濁った瞳のくせに生意気だぞ。
「それは……魔法が使えるから?」
「自覚してんじゃねえか。ちったあ自重しやがれ」
「うううう、でも、でも、ユリシス育てるには魔法に頼るしかないもん。カス親なお前たちは子育て放棄してるじゃん。赤ちゃんはお世話しないと死ぬんだよ。私が育てるしかないだろがい」
痛いところを突かれたのか、親父は「う……」と呻いてから黙ったけど……。
そうだよ、親父がちゃんとしてれば私だって目立つような魔法チートを披露しなくて済む。私が狙われているなら、ユリシスを巻き込む可能性だってある。やっぱり親は責任放棄しちゃ駄目じゃん。
それらに気づいてからはムカッ腹立ってきた。クソ親に振り回されるのは御免だぜ。
ダメ親父をキッと睨む。
「な、なんだよ」
「お前があ……お前らがカス親だから、兄も姉も苦労して、毒にやられて入院なんかする羽目になっとるんじゃあ」
「あーん? あいつら、入院してんのかよ」
「そうだよバカ親父。見舞いくらいしろよアホ親父」
「口悪りぃぞ、てめえ」
「お前に言われたくないんじゃボケカス親めがああぁぁ」
とうとうブチ切れて親父に掴みかかろうとした時、「ふみゃあ」の声。
「あらぁ~ん、ユリシスたーん、お目覚めでちゅかー、姉たんはここですよー」
パンダ籠で眠っていたはずのユリシス、猫みたいな鳴き声を上げて起床す。めろかわ。
抱き上げて、ゆらゆら、たかいたかーい、べろべろばー。あやしまくった。
「すごい、声まで変わってましたよ」
「先程までの膨れ上がった魔力が、一瞬で引っ込んだのう。ふーむ、魔力コントロールは無意識のようじゃ」
「偉大なる神通力にサポートされているようですね」
「ほうほう、精霊だけではない、ということだの」
あちら二人が何やら見解を述べているが……そうか、私は双子パンダ神に守られているんだな。
そして、その守りを察知したミッダンテさん、何者だろうね。名前長いから身分高い人だとは思うけども。
彼らはふわふわテーブルロールとイースト菌動画を堪能し、帰って行った。
「嫌じゃあぁ、もっと観るんじゃあぁぁ」
「我儘言わないで下さい。明日も観せていただけば良いじゃないですか。ほら、帰りますよ」
帰って行った。
ただ、ラグお爺ちゃんの往生際は悪かった。
「嫌じゃあぁ、今観たいんじゃあぁぁ……あ、そうじゃ、ミア、ちょいと嬢ちゃんにおっぱい見せて誘惑してこい」
「どうしてそういう発想になるんですか」
私がミッダンテさんの変装姿であるミアさんにときめいているからですね。ラグお爺ちゃん、そのことメモってたし。
「馬鹿なこと言ってないで帰りますよ」
「うわああん、嬢ちゃん、またのううぅぅ、明日、絶対また観せるんじゃあぁぁ」
「ばいばーい!」
馬車を見送って、やっと静かになった。
【気配察知】で、ご近所中が聞き耳を立て戸口から覗いているのが分かったけど、複数すぎて全ては追えない。
まあ、しょうがないね。貧民街に貴族の馬車だもん。




