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弟が美エルフだったので育てることにした  作者: 風巻ユウ


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023、混乱するじゃない

 私の敗因は、ユリシスを攫おうと近づく泥棒に気づかなかったことにあると思うのだ。

 いくら、おしめ替え中とはいえ、悪意を持って近づいてくる輩に気づかないとは情けない。

【悪意感知】だけでは足りない。【気配察知】を取っておこう。


 ――――――――――

【気配察知】10

 →生き物の気配が読めるようになるよ。これで子供の悪戯も見逃さないよ!【世界地図】30と連動可。

 ――――――――――


 【悪意感知】と併用すれば、悪いやつの気配を察知できる筈だ。


 他にも、逃げるための転移系も欲しいけど、魔法ポイントが足りない。ポイントを貯めたいのに、今は馬車の中でゴミ拾いができない。

 こっそり【清拭除菌】した。馬車内ピッカピカ。


「おや、お嬢ちゃん。魔法を使ってくれたのかの。凄いのう、車内が見違えたわい。ありがとうの」


 馬車に戻って来た彼が褒めてくれる。頭をなでなでしてくれる。やばい。嬉しい。ふにゃほらはらりら……。


 何だか幸せな気分で語彙力を失った。


 はっ、いかん。ポンコツになっている場合ではない。

 なぜか、この人からは癒されてばかりだ。初対面だぞ。初めて会った人なのに安心しか感じないのはなにごとだ。

 いくらイケメンだからって靡いたらいけない。

 前世で顔のいいやつには、ろくなのいなかったことを思い出せ。亭主とか夫とか旦那とか…………いやどれも前世の伴侶のことやないけ。自分つっこみ虚しい。


 嫌なことも思い出した。

 パチンカスで浮気性でプライド高いクズ夫のことを……。


 そんなやつでも顔だけは良かったのだ。顔が良いからモテるわけだ。そして私に隠れて何人の女と付き合っていたことか……!


 思い出したくないのに、ふと思い出してしまう嫌な思い出。

 嫌だなあ。私って根に持つタイプだったんだ。

 そりゃそうか。浮気調査を自前でやったからな。前世の私、探偵気分でラブホ前で見張りとか、やっちゃったからさ。


「きゃーい」


 嗚呼、ユリシスかんわゆい鳴き声。鳥ですか? 羽がありそうだ。天使だな。うちの子は天使だ。将来、絶対、超絶イケメンになる。

 エルフは良いのだよエルフは。イケメンとしても別枠なの。前世のクズと一緒にしてはいけない。


 さあさあ、不快な気分は忘れて、美赤子ユリシスの微笑み天使顔に癒されよう。


 ぷ~にぷに、ほっぺ、ぷにぷに手のひら、にくきゅうなの~。ああああ癒されるうううう。


 そうやって気を紛らわせていたら向かいに座る彼から声をかけられた。

 そういや、この人の名前は何て言うのだろうね。


「お嬢ちゃんや、坊主を拐かそうとした犯人じゃがのう」

「え、はい。捕まえて下さったのですよね。ありがとうございます」

「いやいや、礼には及ばんよ。して、犯人じゃが、このまま警吏に引き渡すのはやめようと思うんじゃ」


 お爺ちゃん口調の(イケメン)が言うには、誘拐未遂とはいえ犯罪は犯罪。本来なら司法の手に委ねるべきだが、ご存知の通りこの街の官吏は腐っている。まともな捜査をするとは思えないので、彼の家にご招待して口を割らせるそうだ。


「なあに、儂の執事は少々そういうことが得意なんじゃよ。犯人は直ぐに自供するじゃろうて」


 あ、はい。そういうことっていうのは、拷問とか拷問とか拷問とかですね。決して尋問では無いところが彼の夜色な瞳の厳しさから理解できた。真剣な眼差しとはこういうことを言うのだろう。


「お嬢ちゃんも大事な弟君を攫われそうになって、はらわた煮えくり返っておるじゃろう。犯人が自供したら処分する前に面会させてやるでの。儂の屋敷に招待するぞい」


 処分とか怖いん……。


「あえ、いや、助けていただいたとはいえ、初対面のよく知らない人のおうちに行くのもなんですので、そちらで勝手にシバいてもとい捌いて……間違えた。裁いて下さって構いません」


「んー? よく知らん仲ではあるまい。ここ数日を共に過ごし、一緒に昼寝した仲じゃろが」


 なぜかウィンク飛ばしてくるイケメン。

 一緒に昼寝……訳分からないのだが?


 この人、イケメンなのに頭ちょっとアレなのかしらん……と、だいぶ失礼なことを考えた私。だが、ふと、確かに昼間、一緒に寝た人物を思い出した。


「ラグお爺ちゃんとしかお昼寝してません」


 そうそう、そうなのだ。すんごい鼾のラグお爺ちゃんとお昼寝した。そのことを思い出し、ちょっと愉快な気分。あの鼾は凄かった。なのに横で爆睡できるとは、私の神経は図太いなと。


「そうじゃろ。儂と昼寝しておろ?」


 うんうんと満足気に頷くプラチナブロンドのイケメンは嬉しそうだ。その笑顔を見ていると、好々爺としたラグお爺ちゃんの仕草にも重なるところがある。


 いや、まさかなあ……。


 この人が、この白金で色素薄い色白美肌なイケメンがだよ? あのサンタさんみたいな三段腹ラグお爺ちゃんと同一人物なわけあるまい?


 寝言は寝てから言って欲しい。

 もっとも、ラグお爺ちゃんの凄まじい鼾の前には掻き消されるが。


「あー、その目は疑っとるのう。正真正銘、儂の名は、ラグバルド・ランゲレス・ケブルシュカ・テュヤーチャ・テデレホニス────(略)────トーエンハイム・ベクトイアじゃ」


 長いいいい! こんなに長い名前はラグお爺ちゃんだけええええ!


「え、ええええ?! 本当に、本当に、ラグお爺ちゃん?!?!」


「そうじゃよ。普段は爺の姿で過ごしとるがの。寝てしまうと元に戻るんじゃよ」


 昼寝して起きたら私が居なくて、慌てて追いかけたのでこの姿らしい。


「あれ? でも、私が見た時はお爺ちゃん姿で寝てましたよ」


 ものすっごい鼾をかいて。


「寝ておる時はそうじゃの。眠って起きた時に魔法は解けるのじゃ」


 要は、寝惚けていると油断して化けの皮が剥がれるらしい。

 ということは…………。


「ラグお爺ちゃんの真の姿は……」

「今の姿じゃ」


 なんということでしょう。ラグお爺ちゃんの正体はサンタさんではなく、ただのイケメンだったのです。


「よしよし、信じてくれたようじゃの」


 そう言って私の頭を撫でてくれる手つきは優しい。

 初対面で慰めてくれたイケメンの手であるが、私を諭したラグお爺ちゃんの手でもある。どちらも、とても安心して心地が良いのだ。


 こんな揺るぎなき証拠を突きつけられたら、信じるしかないじゃあないですか。

 ああ、この手、この手が、この手に癒されるうううう。


「お嬢ちゃんは、ほんに可愛ええのう。キスしたいくらいじゃ」


 なんか、イケメンが危ないこと口走っているけど、気にもならないくらい、このなでなでが好き過ぎた。

 ごろごろごろごろ……にゃあん。

 陽だまりに転がる猫の気分だ。


 がっくん。突然に止まった馬車で目が覚める。


 現実に引き戻された私は、即座に座席へと戻った。

 逆にラグお爺ちゃん(イケメン姿)は立ち上がって、馬車の扉を自ら開く。


「ラグバルド様、私の仕事を盗らないで下さいませ」

「すまんすまん、待てなんだ」


 お外から聞こえてきた声はミアさんのものだ。メイドな筈の彼女は、従者としてこの馬車に付いてきていたらしい。


「お嬢様、お手をどうぞ」


 ユリシスが眠るパンダ籠を受け取り、私の手を取って馬車から降りるエスコートまでしてくれるミアさん。

 逞しいのですが……?

 な、なんか、従者服の所為とも言えなくもないけど、男装……というか、男性、では……??


 私が、じっと見つめてしまったからか、ミアさんは「ふっ」と笑うと、「改めましてお嬢様」と、パンダ籠を器用に抱えたまま、挨拶をしてくれた。


「ミッダンテ・ル・トーチ・エンダニアと申します。こちらの姿でも、お見知り置き下さいませ」


 あ、はい。こっちがミアさんの真の姿なのね。

 主人も主人なら、従者も従者だ。二人して本名長いし姿を偽らなくてもいいじゃない。混乱するじゃない。

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