017、残りの寿命
「……毒のことですか?」
私も気になっていたので、問うてみる。
「ああ、あの毒は本当に劇物なのじゃ。きちんと取り扱わねば危ないのじゃ。錬金術師でも、資格がないと使ってはいかんものじゃ。儂は研究の為に許可を取って取り寄せ、万全を期して運んでもらったつもりだったのじゃが……まさか、こんな事になるとはのう…………」
ケミスお爺ちゃんは、事件を知って駆け付けた時、カエル毒で犠牲者が出ることを心配していた。
事実、二人が毒に侵されている。
どんなに細心の注意を払っても、今回の事件は誰にも予測不可能で、前もって防げるものじゃなかった筈だ。今後を考えるならセキュリティ強化は必要だろうけど。
それも含めて、錬金術師として、毒を扱える立場として、ラグお爺ちゃんは責任を感じているのだ。
「ラグバルド様だけの所為ではございません。我々だって、ご注文を受けた品をお届け出来ませんでした。我々の管理不足。引いては、商人に有るまじき失態です」
ケミスさんまで懺悔し出した。
傍から聞いている身としては、ここにいる誰も悪くないと思う。悪いのは犯人だ。
その犯人は、治療院で苦しんでいるみたいだが……。
「ラグお爺様、その、毒を吸い込んだ人達は、今……」
マリアさんが恐る恐る尋ねる。
毒の症状の話は、私とケミスさんしか聞いていなかったから、マリアさんは知らないのだ。あのカエルの屁が激ヤバ毒ガスだということを。
でも、話の内容からカエルの屁ヤバいとは感じ取ったのだろう。怖いもの聞きたさな好奇心と嫌な予感が綯い交ぜになりつつも、マリアさんはラグお爺ちゃんに質問をした。
案の定、ラグお爺ちゃんが毒の説明をしたら、マリアさんの顔は引き攣ってしまったけども。
「毒を取り込んで今日で二日目じゃ。そろそろ内臓が破壊され、生殖器が腐り落ち、下血が止まらなくなっておる頃合いじゃ」
前に聞いたのより具体的な解説で玉ヒュンしそう。
玉ナイけど。
「そんな……それで、助かるのですか? 治療院に居るとお聞きしましたが」
「解らんのう……治療院の治癒術師の腕次第とも言える。じゃが、儂の見立てじゃと、血清治療以外で助かる確率は……限りなくゼロじゃ」
「ふやーん」
ユリシスが泣いた。私が哺乳器を離してしまったからだろう。
「とても気の毒なことじゃ。毒に侵されておるのは、年端もゆかぬ少女と聞いた。冒険者も、C級冒険者になりたての若者じゃと」
ラグお爺ちゃんの言葉に、私は固まる。何故? わからない。何か、予感めいたものな気がする。
「ふやや~ふえーん、ふええーんん」
ユリシスが泣き続ける。哺乳器を近づけても、イヤイヤする。こんなに泣くのは二夜前の夜泣き以来だ。
立って、ゆっくり揺らしてあげても、泣き止まない。見かねたマリアさんが、回し車みたいな玩具をクルクル回して音も鳴らしてくれたが、一切、気が逸れない。
私の心臓が早鐘を打つ。悪い予感がする。
「あらあら、どうしたのかしら、おしめじゃないのよね?」
「ええ、濡れてません。多分、何か気に触って……」
癇癪を起こしたのだと思う。こういう時こそ【安全安眠】。私とユリシスの周りだけに、絶対安全フィールドを張った。
途端、【世界地図】が発動。
「え────?!」
【悪意感知】【飲食探知】も連動し、検索バーに『毒』の文字。地図内に毒マークが点々と浮かび上がる中、伸びる金色の道の先は治療院。そこに吹き出し型ポップアップが表示される。
『ユリア 残りの寿命 8時間』
『ヘクトル 残りの寿命 25時間』と────。
「ラグお爺ちゃん、治療院に居る犯人、冒険者も、名前わかりますか?」
「ん? ケミス、知っとるかの?」
「え、んー、脅迫状を追跡した精霊に尋ねてみます」
私、相当、切羽詰まった顔をしていたのだと思う。
ケミスさんは直ぐに精霊から情報を聞き出してくれた。
「…………犯人の少女はユリア…………冒険者はヘクトルだそうです」
その名を聞いた瞬間、私の心臓は軋みを上げ、ユリシスはギャン泣き。
「ふギャアアアンンンンヤアアア」
「ど、どうしたんじゃ?! 坊主の泣きようが尋常ではないぞ。お嬢ちゃんも、顔色が……」
「エアリーちゃん?」
「あ、の、ですね……ユリアは、お姉ちゃんで……ヘクトルは兄……です」
「───────!!!!」
全員の顔が、驚愕の色に染まった。
私はもう血の気が引いて、心臓の音は煩いのに、目の前が暗くなってきた。
ふらふらになって、座り込む。
ユリシスも、烈しく泣く。
ごめんよユリシス、姉ちゃんは今、頭の中がパニックだ。お腹空いたなあ。
「エアリーちゃん、エアリーちゃん……!」
マリアさんに、ぎゅっと抱きしめられた。
「こうしちゃおれんわい。治療院へゆこうぞ。ケミス、馬車の用意をせい」
「承知致しました」
急いで車を回してもらい、私はマリアさんに支えられてもふらつき、馬車に向かう。
ユリシスの泣き声は下火になっていた。泣き疲れたのだろう。疲れるまで泣かせて、ごめん……。
「お嬢様、差し出がましいかもしれませんが、これをお持ち下さいませ」
声をかけてきたのはミアさんだ。
ひと抱えはあるバスケットをくれた。被せてある布の隙間から、いい匂いがする。
焼き立ての、お菓子……。
「昨日お召し上がりになったものと同じ焼菓子でございます。力をつけて下さいませ」
私達が話している間、静かに控えていたミアさんは、私がお腹を空かせているのを察してくれていたのだ。
「ありがとう、ございます……!」
ありがたく受け取って、食べよう。食べないと、頭も回らぬ。ミアさんとマリアさんは、心配気な表情で見送ってくれた。
馬車に乗ってからは、ひたすらもぐもぐタイム。
悪い予感が、最悪の現実を突きつけてきた。
先程まで、どこか他人事に聞いていた毒カエルの一件は、ガッツリ身内の犯行だということが判明した。
ちょっと前まで、呑気に構えていた自分を殴ってやりたい。
この二日間で、良い人たちに出逢えて、ユリシスと幸せいっぱいに過ごしている間、兄も姉も、地獄の苦しみを味わっていたのかと思うと、胸が痛い。
私に出来ること、ないか?
兄も姉も、苦しんでいる。どうしてそんな事にとか、なぜそんな事をしたという追求は後でもできる。
先ず、助けないと────!
魔法一覧を探す。治癒系の魔法はないだろうか……探す……探す……。
――――――――――
【復元復活】200
我が子の悪戯で壊れてしまったり失うものも出てこよう。この魔法は有形物を元通りに復元し、そこに命があり死後24時間以内なら蘇生が可能となる。時間が経つ毎に甦る確率は低くなるので注意されたし。
【毒呪吸闇】100
どんな毒も呪いも闇が飲み込むよぉ。キミの子が苦しむことは一切無いぃ。ついでに呪い返しも付けておいたぁ。倍返しだぁ。けひひ。
【病気治癒】50
こどもの急な発熱、怪我、困りますよね。そんな時は魔法の呪文『いたいの わるいの とんでけ~! おそらのかなたに ぽーいだ!』唱えてね。
【元気注入】5
子の元気がない? 気合いだ気合い。ググッとなってビバってなるぞ。気合いがあればなんでもできる!
――――――――――
これら全部を取得。
魔法ポイントは362あったから、足りた。
精霊さんに100ポイント貰っていて助かった。ありがとう精霊さん。
『感謝するなら我を呼ぶがよいわー!』
また何か偉そうな感じで要求されたな。
残り7ポイントでは呼べません。ごめんなすって。
『ぐわー!』とか叫び声上げて遠ざかった声は、彼方で他の精霊たちと会話しだしたようだ。
仲良しだな。
精霊王たちの愉快な会話
?『ぐわー! なんで我を呼ばんのだー! 闇の、なんとかしろー!』
闇『なんとかと言われてもぉ。なんとかぁ~けひひ』
?『ボケか? ついにボケ老精霊になったか?』
風『ぷきゃきゃ~老精霊だってよ。たしかに、いっちばん長生きなのは闇だね~!』
火『うむ。年寄りは労わらんとな』
水『洗い流しましょうか』
地『何をだ? 水が出ると、闇が流される絵しか見えぬぞ』
闇『けひっ、光ぃ、若いのがいじめるぅ』
光『心を誠実に保つのです』
闇『光はそれしかないんかぃ』
?『我を無視するでないぞー!』




