014、密室とメイドさん
玄関のドアを開けようとしたら、開かなかったでござる。
「珍しい。あの父が鍵を掛けて行くとは」
我が家の玄関は、基本、鍵開けっ放しだ。盗られるものなど無いし、あからさまに貧乏宅なので、狙えるものなら狙ってみろとばかりに、鍵を掛けていない。
ところが、今朝に限って外鍵も内鍵も掛かっている。
鍵と言っても、ご立派な錠前ではない。古びた蝶番に錆びた棒を差し込んだような代物だ。
それでも鍵は鍵。閉めれば棒がつっかえて扉が開かない。
通常、鍵を閉めたと認識される場合、扉の外に出た父親が外側に付いている外鍵を閉めたから、開かない。となる。が、しかし、内鍵も閉まっている。
この場合どうだ?
外側を閉めて、内側も同時に閉まる。そんな連動する複雑な機構を持つシリンダー鍵なんぞ、我が家に付いているわけがない。
増してやオートロックなども無い。魔法用品で似たような物品はあるかもだが、この貧乏宅にあるわけがない。
それなのに、外も内も、両方共に鍵が掛かっている。
これは事件ですよ奥さん。
完全密室なのだ。あ、いや、内側から開くタイプの木窓はあるか。出ようと思えば、出れる。
特に事件性は無かった。私とユリシスが閉じ込められたという事実は無かったので、安心して扉を開く。
バキッ
「お、壊れた。脆いな」
錆びた鍵は今、お亡くなりになった。【身体強化】さんが、いい仕事をしたのだ。
惜しい鍵をなくしました。いや、別に惜しくないか。
しかし、あの、ちゃらんぽらん父が、わざわざ鍵を掛けて行ったということは…………どういうことだ?
私を閉じ込めるにしてはお粗末だ。
ユリシスなら完全犯罪だろう。まだハイハイもできない赤子では脱出不可能だ。だからと言って、父がユリシスを狙ったとも思えない。
私が常に傍に居るし、そもそも動機がない。
いくら憎いあんちくしょうエルフの種だとはいえ、頑是無い赤子に完全犯罪する父ではない。と思いたい。一応、兄と姉は無事に育っているから、そう思える。
そうすると…………いやあ、どういうことだってばよ?
さっぱり分からない。思考もループしたことだし、もう考えるのよそう。
取り敢えず、鍵の代わりに絶対安全フィールドを、家全体を囲むようドーム型に張った。張れた。張れてしまった。一体全体、我が絶対安全フィールドさんは、どこまでイケルのか……乞うご期待!
これで我が家は安全だ。よし。
今日も、『精霊商店』に向かう。きっとラグお爺ちゃんが待ち構えているに違いない。
気持ち急ぎ足で、ゴミ拾いをしながら歩いた。
大体20ポイント前後かな。
一回でこれだけポイントが稼げるし、魔力切れリスクも無いから、ゴミ拾いの効率の良さ半端ない。
現在の魔法ポイント:273
いつの間にか、けっこう貯まった。
精霊が100もくれたから、そう見えるだけかも知れないので、慢心せずにコツコツ貯めて行こう。
「おはようございまーす」
「ようこそ、エアリー嬢」
すげえ。予想通りだ。店に入った瞬間、ラグお爺ちゃんの紳士的笑み(うさんくさい)が、そこにあった。
見た目は好々爺としたサンタさんなのに、笑んだら魔王サタンとか、終わっておる。
「店長、呼んできてやるよ」
ゼンダ氏ーっ! 置いて行かないでえ!
唯一の味方と思ってハタキ持った店員ゼンダ氏に目配せまでしたのに、逃げられてしまう。
おおう、あいつ……髪の毛もっさり眼鏡男子のくせに……昨日はなんちゃって推理してドヤ顔していたくせに……幼児を見捨てるようなやつだったのだ……なんてこった。
「エアリーお嬢ちゃん」
「ふぁい、あれですね」
「そうじゃ。こっちゃ来い」
連行されたのは奥にある一室だった。お客さんとの会談に使う部屋らしい。
テーブルと椅子の応接セットは勿論、ソファー席やリクライニングチェアを思わせる幅広の寝椅子が並べられ、近くにはバーカウンターがある。
「長時間、鑑賞できるよう椅子を運び込んだのじゃ。ここ、この辺に出しておくれ。昨日やった魔水晶で、なるべく大きい物を使うがよい」
なんと、わざわざ設置したらしいリクライニングチェア。革製の、しっかりしたゴツイ椅子は、私が座ると、その姿を完全に隠してしまうくらい大きい。
そんな高級そうな椅子に背を預けると、ちょうど部屋の仕切りであろう布製のパーテーションが見え、その脚元にテーブルがある。
このテーブルに魔水晶を置き、パーテーション前に大画面を広げろと、そう仰せなのだラグお爺ちゃんは。
「失礼します、お嬢様。お飲み物をお持ちしました。お好きな物をお選び下さい」
拳大くらいの魔水晶をテーブルに置こうとした時、メイドさんに声をかけられた。
メイドさん……メイドさんだとお?!
「儂の屋敷で雇っておる使用人じゃ。お嬢ちゃんに付けるでの。好きに使うがよかろう」
よかろうもんではないですよ?! 好きに使えって破廉恥な……!
ふう、落ち着け私。メイドさんだよ。メイド喫茶じゃないのにメイドさんが控えているとはなにごとだ。
前世で見たアキバ系メイドさんではない。某英国舞台漫画で「オールワークス(キリッ」している方のメイドさんだ。本格的ぃぃ。
濃紺のお仕着せがシンプルイズベストですね。好きです。じゃなくて、とても愛らしい金髪碧眼の女性なので緊張する。
ドキドキしながら、数ある飲み物の中から果物のジュースをもらった。
「いつでも、お代わりをお持ちします」
にっこり微笑んで、ジュース以外は下げてしまったの勿体なくないかと思う私は、ブルジョワジーには成れない体質なのだ。
下げた飲み物は裏でスタッフが美味しくいただいてますように……。
「お嬢ちゃんは年頃の使用人に甘い、と」
ちょっと、そこのお爺ちゃん何メモっているの。
見やればラグお爺ちゃんは紙束とインクとペンを大量に用意してスタンバっていた。
笹アイコンを押し、起動。
本日も金色に煌めき、何度も観たのに訳分からん動画が、パーテーションいっぱいに流れる。
「うおおおおおおおお」
最期の聖戦! みたいな声を上げて必死にメモをとるラグお爺ちゃん。高速メモとり魔だ。
みるみる紙束が減っていくのだけど、腕、大丈夫なのかなあ。腱鞘炎を心配する私。
ジュースを植物ストロー(なんかの茎らしいよ)で、じゅごーと飲み干す。甘酸っぱいオレンジみたいな味がするジュースだった。
飲み終わったらタイミングよく、「お代わりをどうぞ」と、また何種類かのジュースを差し出され、今度は赤色のを選ぶ。トマトっぽいと思ったけど、もっと甘いのだった。グァバ的なやつ。
「お菓子と軽食のご用意も御座います。焼き菓子は今が焼き立てですよ」
それは焼き菓子一択でしょう。焼き立ての誘惑には逆らえない。
「焼き立て下さい。それと、お茶もいただいて、いいですか?」
「お嬢様のお心のままに。お砂糖はお付けしますか?」
「砂糖なしのミルク入りが好きです。お姉さんも綺麗で好きです」
「まあ、有難う存じます。直ぐにお持ちしますね」
うひょお、勢いで告ってしまったぜえ。若い子はええのう~と、つい老婆心が出る。お小遣いあげたいけど現世は貧乏な幼女だから金ないよ。残念。
「お嬢ちゃんは節操なし、と」
ちょっとそこ、メモらない。動画でも観てなさいよ。




