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弟が美エルフだったので育てることにした  作者: 風巻ユウ


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【挿話】カシオラス・タイショーの傲慢と受難

タイショーて誰?って思うやん。

主人公エアリーの父の話し。

 カシオラス・タイショー。

 タイショー家の嫡男であった彼だが、今は誰がどう見ても落ちぶれた貧乏人である。


 彼が落ちぶれた原因はカスリーヌ・タイショー。彼の妻である。今となっては、妻であったと言った方が合っている。もっと早くに離婚しておけば良かったと後悔するほどに。


 カスリーヌは浮気癖の酷い女だ。

 若い頃、恋愛の熱に浮かされていたカシオラスは気づかなかったが、いや、気づいていたのかもしれないが気づいていて気づかないフリをしていた。現実を直視したくなくて。

 当時のカシオラスは脳内お花畑状態だったのだ。


 そんなカシオラスは、浅はかな言動で当時の婚約者を裏切りカスリーヌと駆け落ちした。しかし、幸せな結婚生活を送るぞと意気込んだ矢先、彼女が托卵したことを知る。

 己の種じゃない子を出産したのだ。


 全ては後の祭り。


 後悔の嵐の中、船が難破しそうな状況。あと少しで沈没するかもしれない。


 とどめを刺したのは次男の誕生だった。

 その耳が尖っていた。人間じゃない。エルフだ。


 長男の素性も酷いものだったが、次男ほどじゃない。長女もそれなりにヤバく、己が妻のくせに、どれだけ貴人と浮き名を流すのが好きなのかと、詰りたくてしょうがない。


 実際、詰りまくった。


「お前の股のゆるさはピカイチだな。托卵ばっかしやがって、鳥並のゆるさだ。頭も、股も、全部ぶっ壊れてやがる」


「甲斐性のない男は黙ってなさいよ。名家の嫡男なのに、あっさり見捨てられ廃嫡されて追放された無能さーん。貴族だから偉いんだー、女は男に従え文句言うなーって、庶民にも婚約者にも威張り散らしていたアンタが落ちぶれて、ざまあみろだわ。私に種を授けてくれた人達は全員もれなく、アンタを嘲笑っていたわよ。アンタ、友達にも嫌われてんのね。頭悪いからかしら。実家を鼻にかけて、本人は何も出来ないポンコツだものね。女ひとり満足に養えないし、身分を取り上げられたアンタに何が残っているの?」


 三倍にして言い返された。ぐうの音も出ない。


 しかも、まだまだ悪口は続いた。いつも、この調子で言い負かされ、酒に逃げ、気づけば浮気され、後で知って打ちのめされる人生。


 カシオラスは遂に切れ、カスリーナを離縁。追い出しにかかったら、何故か娘(次女)がカスリーナをすっ転ばせた。


 それだけではなく、あろうことか、カスリーナの手足の関節を外し、口枷まで嵌め、彼女の乳を搾り出したのだ。


 つい、娘に言われるままカスリーナを羽交い締めにしたカシオラスは、呆気にとられながらも、これまで散々に馬鹿にしてきたカスリーナが、実の娘にしてやられる様を見て、溜飲を下げた。


 その日から、娘は変わった。


 カスリーナが脱走するまで、搾乳を続けたのだ。カスリーナが泣こうが喚こうが、「うるさい」の一言で片付けて乳を搾る。まるで、お前はそういう物で人じゃないとでも言わんばかりに、乳を煮沸消毒したカップに抽出していた。


 どこにそんな力があるのか……。


 娘は魔法だと言っていた。儀式もしていないのに発現する訳がないと一蹴したが固有魔法だとしたら使えてもおかしくない。

 それでも、発現の儀をしていないのに、こうも易々と沢山の魔法を操れるなんて……。


 カシオラスは知っている。己の家名の元を、この家を興した始祖は常識外れの大魔法使いだったということを……。


 娘は、エアリーは、その血を色濃く受け継いでいる────。


 自分は落ちこぼれだった。名家という格、それこそが先祖の偉業であり、自分自身のものではない。それに気づかず笠に着て、驕り高ぶり、カスリーナの暴言通り鼻にかけていた。

 そんなやつが、ただ名家に生まれただけのやつが、後継者なわけが無い。


 実の娘、始祖と同じ黒髪黒目を持つエアリーこそが、正統なる後継者だ。


 ただ、この事実は吹聴しない方がいい。

 娘には目立たず隠れていろと言い聞かせてきた。


 名前もエアリー──空気であれ。それでいて非現実的な能力を持つ彼女に相応しい名だ。


 エアリーの存在がバレれば、実家が動く。王家も動く。この国が、動く。そして世界中の国々が動く。


 そうなったら、取り合いだ。


 エアリーを取り合い、血みどろの戦争になる。

 よしんば戦争が回避されたとしても、エアリーは人前に出れなくなる。孤独になる。

 なぜなら、世界中の人から狙われ、親しい人物からは裏切られるから。

 もし兄姉弟を守りたいなら、離れなければならない。そうしたら一人っきりだ。やはり孤独になるしかない。


 それで生き延びれるならまだいい。


 誰かに殺され、増してや裏切り者や、家族に殺されるかもしれない。

 どうなるにせよ、カシオラスが想像できるエアリーの未来は真っ暗だ。


 なるべく傍に居て守ってやりたいが、己の非力さでは限界があった。その筋に施しを受けて生き長らえ、今日もまた犯罪組織の下っ端を追うだけの己だ。


 そうやって付けていた獲物たちが、今、娘にコテンパンにのされているのだが、気のせいだろうか。


「やってくれたなエアリー……」


 地面に伏して呻いている三人組は、下っ端だが構成員だ。上役が出てきたら、下っ端を痛めつけた犯人を捕まえようとするだろう。

 エアリーが危ない。


 野次馬に紛れ、様子を窺う。

 早いもので、巡察官吏が来る前に、他の構成員が来て三人組を引きずって行った。追跡すれば、寝ぐらに一直線。さすがに寝ぐらの中までは追えず、今度は官吏を見張る。


 現場で聞き込みをしているらしいが、野次馬たちも「幼い少女が大人三人を再起不能にした」なんて事実、目撃したとしても信じられないようで、しきりに首を傾げるばかりだ。


 この様子じゃ、エアリーが犯人だとは突き止めれないなと安心し、カシオラスは酒を買って我が家に帰った。

 お情けで実家から貰った金で買った家だが、我が家は我が家だと、誰もいないそこで一頻り呑む。いつの間にか意識を落とし、床に転がったことも気づかずに……。


 ドンドンドンドンドン────ッるせえ。


 エアリーが帰って来たのだと思って寝ぼけて開けた戸の向こうには、同僚の目証がいた。


「んなっんだよ、うっせえなあ」

「いやいやいや、お前、起きた方がいいぞ。お前の家、探されてんぞ」

「あー? どういうこったよ」


 どうやら組織の奴ら、下っ端からエアリーのことを聞き出して、疑いもせず、住処を近所で聞き込んでいるらしい。


「ご苦労なこった」


 カシオラスは吐き捨てた後、外に出て、後ろ手に家の扉を閉める。

 寝ぼけていた頭が思わぬ事態に活性化し、今は朝で、おそらく娘はまだ家の中で寝ていると気づいたからだ。


 実際、【安全安眠】しているエアリーは、防音効果も抜群な絶対安全フィールドのおかげで安眠を約束され、起きて来やしないのだが。


「ちょいとお前、うちを知りたがってる奴らに、偽情報つかましてやれよ」

「あん? そんなリスク負えるかよ。義理ねえよ」


 協力は断られたが、ここまで知らせを持ってきた同僚だ。上手いこと誘導してやれば乗ってくれるだろう。


 そんなことを思いながら、「【施錠(ロック)】」

 家の鍵を()()施錠した。

 エアリーを外に出さないためだ。それと、もし、ヤクザ共がカチコミかけて来た場合の防波堤にだ。


 落ちこぼれだ無能だと罵られるカシオラスだが、そこは腐っても貴族で名家の跡取りだった男である。それなりに魔法が使え、先天的な能力も持ち合わせていた。


 結果──────。


 その日一日中、駆けずり回った甲斐もあって、家までヤクザが押し寄せてくることは無かった。

 情報撹乱で、「幼女が大人を圧倒するわけないっつーの」「幼児に負けた情けないやつら」と噂を垂れ流したのが功を奏したらしい。「カチこんだら恥やぞ」「たかがガキ一匹に熱くなるなんてアホくさい」と思わせれた。


 安堵して家に帰ったカシオラスだが、肝心の我が家には入ること叶わず。


「んな、んだああコレ?!」


 家をすっぽり覆う絶対安全フィールド。

 防音、虫除け、虫切り、回復増強効果もあり。

 そして勿論、侵入者避け、防御の性質も持ち合わせ、どんな攻撃も絶対に通さない安全安眠を保証する無敵のフィールドである。


「おい、おい、通せ、ここは俺んちだぞ?!」


 絶対通さないマン発動により、今宵のカシオラスは道端で寝るはめになった。


 こうなって漸く気づいた。これは、魔法であると。ただし、普通の魔法じゃない。

 通常ならば、例えばこれが【結界】だとしたら、一つの要素しか満たせないものだ。攻撃魔法を弾く結界、魔物を寄せ付けぬ結界、浄化する結界といった具合に。

 だが、これが、この魔法がもし【結界】だとして、これには防御に防音、おそらく癒し、その他諸々の要素が複雑怪奇に絡まりあった、誰にも破れない魔法となっている。


 つまり、常識外れの『()()()()』────。


 この世界の常識で、神に創られし魔力は常にそこにある。多くは鉱物に宿り、人に宿り、動物に宿ったら魔物となる。

 その魔力を使って魔法という事象は起こせる。


 精霊と共に使うのは『精霊魔法』。精霊と親和性の高い者にしか使えない魔法で、これを扱う者を精霊術師と呼ぶ。


 精霊ではなく、一般的な魔法は魔力だけを使う。

 己の内側にある魔力、先天的に授かった固有魔法、後天的に身につけた魔法、人の潜在能力によって多種多様にあるが、これを巧みに扱う者を魔術師と呼ぶ。


 これらが常識の魔法であって、その外にある魔法が『天外魔法』────空よりも遥か遠いところにある魔力を糧とした、奇想()()()()である。


 扱う者は『神の申し子』と呼ばれる。

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