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弟が美エルフだったので育てることにした  作者: 風巻ユウ


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13/29

013、これが欲しかった

 殺カエル現場に来た。


 くんくん。もう甘い匂いはしないな。

 硝子の欠片を何個か見つけたのでマザーバッグに入れる。


 そう言えばと、『精霊(エレメンタル)商店(・ショップ)』を振り返り、見上げる。


 最初、昼間に見た時は「でっかい木に巻き付かれてるなあ」としか思わなかったショップ側の建物が、帰りは夕陽に照らされているからなのか、キラキラと虹色の光を放って見える。


 あのキラキラ虹色は、色々な精霊さんが飛び交う色なのかもしれない。


 実は精霊さんの姿って、私には視えない。気配を察したり、囁き声が聴こえたりするくらい。

 精霊さんの意思で何事か伝えてきてくれれば、はっきりするけど、普段は特に何も。


 ユリシスは常時視えているっぽいな。時々に空中へと視線が泳ぐし。あれは空を飛ぶ精霊さんを追っているに違いない。

 さすエルフ。


 ゴミ拾いを再開。

 また硝子の欠片、木片、小石、木の枝、木片、木片、木片……誰か木箱でも壊した?

 硝子の破片も、けっこうその辺に飛び散っているエリアがあり、手を傷つけないよう気をつけながら回収する。


 ユリシスは寝ている。私が歩いて揺れるからか、心地が良いのだろう。

【母子手帳】で確かめても、『健康・安眠・横漏れなし』と書いてある。


 布オムツってね、ほんと慣れるまで上手に付けてあげれなくて、少しでもズレたり緩いと横漏れるし、苦労した。うまいこと装着してあげれると、こっちも嬉しくなっちゃうね。


 おっと、煙草ゾーンに来たぞ。因縁つけられた所だ。もう野次馬も三馬鹿ニートトリオもいない。


 辺りは暗くなってきたので、ボードゲームはお開きにして酒盛りへと移行したダメな大人たちを横目に、ゴミ拾いに専念する。


 小石、小石……うーん、見辛い。夜目が利く魔法ないかな。


 ――――――――――

【五感増強】10

 第六感(シックス・センス)を鍛える前に五感を磨け。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。増強したい感覚を選び、それが優れた生き物を思い浮かべるべし。子を狙う輩は全て敵だ。感覚を研ぎ澄ませ、全力で守るべし!

 ――――――――――


 優れた生き物とな。説明はふわっとしているが何をすればいいかは伝わってくる。ならばやってみよう。


「【五感増強】視覚を増強して、暗視モードは~猫で」


 お、これはいい。闇夜で光る猫の目をイメージしながら発動してみたのだけど、周囲が昼間並に見渡せる。

 さっきまで小石しか拾えなかったのに、何かの紙片、シケモクにならない灰、蝸牛の殻、やっぱり小石を拾って、帰路に着いた。


 家に帰ったら、父が床に転がって寝ていた。泥酔している。今夜は早くに呑んで、呑まれて、意識を落としたのだろう。


 ベッドに運んでやるのも億劫で、毛布を被せておいた。頭から爪先まで、全身に。

 私ったら、優しい。


 物置部屋の私室まわりを【安全安眠】してみる。

 何となくやってみたが、ベッドの範囲以上にも絶対安全フィールドが張れたことで、どれぐらいの規模まで張れるのか気になるが眠いのでこれ以上は考えれない。


 ユリシスも私も【清拭除菌】して、おやすみなさい。


 そして数時間後に「ふぎゃーん」


「おお、目覚めしユリシスよ。乳か、乳が欲しいのか。貴様にこの乳の半分をやろう。ケチケチしないで全部を勇者様にあげなさいよ。そうよそうよー。黙れ小娘ども。もういい、私に逆らうやつはミーナーゴーローシーだああ」


 ひとり魔王ごっこしながら授乳。オムツ替え、子守唄を歌いつつ、私の瞼も閉じてゆく。


 気づいたら朝だった。

 隣を見たら、ユリシスの目がパッチリ開いていた。


「ほえ? お目め覚めてたのユリシス~おはちゅっちゅ」


 静かに目覚めて、静かに私の寝顔を見詰めていたらしい我が弟に、愛しの接吻だ。


「ん~~」って唸られたのだけど。眉間に皺が寄って、すっっっっごく険しい顔をしているのだけど。

 男梅みたいな顔な。


「もしや……大…………」


 あ、はい。そのようですね。

【母子手帳】にも『健康・さわるな踏ん張り中』とある。


 心の中で「ふんばれがんばれ☆う・ん・こ☆」と応援。


 いや~健康的で、良いですね。尻は素晴らしいビートを刻んでいる。ぷっぷっぷう。さあ出るぞ。もう出るぞ。全部出してしまえ。お前の全てを、そこに、そこに宝はある。全てをそこに置いてきた。気張れ、腹に力を込めて、気張るんだ。それが大後悔時代の幕開けである。後悔するなら出し切った後だ!


 心の実況も佳境に達した頃、ユリシスの顔が、元のぽやんぽやん顔に戻った。

 ふう、私まで手に汗握ってしまった。


 お尻を【清拭除菌】。ヘタにごわごわの布で拭くより、魔法の方が早いし、綺麗になるし、ユリシスの尻の皮も、布の繊維が擦れて傷つかないから、いいね。


 そして出し切ったユリシスは寝てしまった。燃え尽きたかのようだ。このぐったり感こそが大後悔時代である。


 この隙に私もトイレ、洗面、朝食にしよう。

 台所にあったパンをかじり、めっちゃ硬いチーズもナイフで削り取る。瓶詰めから出した茹で野菜にチーズとハムの欠片を乗せて食べた。


 父はいない。毛布が床にクシャクシャ丸まっているだけ。こんな朝早くにどこへ行ったのやら。

 いつもだと、もっと遅くに出掛けるし、出掛けない日もあるし、昼まで爆睡の日もある。

 朝早くから活動するなんて、どうした真人間にでもなったのかと疑いたくなる。


 そんなわけない。と、心の中で突っ込んでから、『つくってみよう!』をやってみる。


 □ベビーニップル[材料][動画]

 □ニップルシールド[材料][動画]

 □歯固め[材料][動画]

 □哺乳瓶[材料][動画]

 □搾乳器[材料][動画]


 以上5点、作成した。


 ベビーニップルってのは哺乳瓶に付ける乳首のことだった。そんな洒落た名前があるとは知らなかった。ずっと乳首って呼んでいた。


 似たような名称でニップルシールド。これは乳首ガードだ。授乳中、歯茎で甘噛みされたり酷いと噛みちぎられるから、乳首に貼り付けてガードするやつ。


 ……前世の私、血塗れ乳首になったことがある。長男の時。引きちぎられはしなかったけど、歯を立てられたのだ。まだ乳歯も生え揃わぬ歯茎でだけど、凶器や……と思ったものだ。

 当時、この商品はなかった。あったら血塗れにならなかったのかと思うと感慨深い。


 怪我防止の他にも、ニップルシールドくんは乳頭を出してくれる。

 陥没乳首、扁平乳首の人も、これを付ければ乳首の形が整うので母乳をあげやすい……って、本当にこれ、これ、あったら、良かったのに私が子育て中にも……!


 動画を視聴しながら、しみじみと思う。

 ところで動画、乳首音頭とか要る?

 浴衣を着たパンダ二匹、花火背景で陽気に踊りながら乳首紹介って……なんじゃこりゃ。


「ひょあーん」


 おおっとお、ユリシスが起きた!


「可愛い可愛い我が弟よー! うんこして寝てしまったから乳か? 乳がええのんか? レッツ・モーニング・ミルクティー!」


 我ながら何を言っているか分からない。焦ると駄目だ。言語が崩壊する。


 ここは早速、作った哺乳瓶を使おうじゃないか。

 集めた硝子の欠片が何故か哺乳瓶になったのだ。すごくね? ゴッドパンダ・イズ・リスペクトだな。


 哺乳瓶に【清拭除菌】かけて母乳を入れ、ベビーニップルで蓋をし、円型の木枠で留める。この木枠、木片×10で作られたっぽい。意味不明。



「そ~ら、飲むがいい。この母乳、君のママから搾り取ったのさ。採取して直ぐに【育児収納】に仕舞ったから、時間経過してないのだぞ。新鮮そのもの搾りたてフレッシュ☆」


「っぐ、んぐ、んきゅ」


 ユリシスのかぶりつき具合、パネェ。めっちゃ喉鳴らして飲む。

 これまでは指に母乳含ませた布巻いて、ちゅっちゅ吸わせていたけど、吸うのに力を使って使って使いまくって、疲れて寝てしまう感じだったからな。

 完璧な哺乳器を使うことで、一度に吸う量が多くなったとみえる。その証拠に、口の端から母乳が垂れまくり。


 ちょっとゴワつくけど清潔な布で、ユリシスの口周りを拭った。


 一気に飲んで、「ぐえっぷ」空気も一緒に飲んだらしく、過去最大のゲップ披露。


 健康的な君が好きだよ。


 ゲップを出し切っても背中をトントン、なでなでして、ぎゅーっと抱きしめた。

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