010、はよせい
これで、虹色蛙の屁が手に入った訳が分かった。
偶然だけど、ゴミ拾い中に勝手に入手したことになっていたらしい。双子パンダ神の当たり判定が広くて助かった。
甘い匂いがして、くしゃみをしてしまったが、【清拭除菌】したから大丈夫だと思いたい。今のところ症状はないみたいだし。
ラグお爺ちゃんの説明だと、症状は軽度のものなら直ぐに発症するはずだ。あれから数時間は過ぎている今、ピンピンしていれば問題ないだろう。
ユリシスも、前抱っこのまま、すやぴよ寝ている。
【母子手帳】には『健康・良い夢見中・おもらし(大)』と……。
こっそりオムツ替えした。
「お嬢ちゃんは、何ともないのかの? 潰れた蛙を回収したのは嬢ちゃんじゃろ」
ラグお爺ちゃんが訊いてきたから、「平気です」と答えたら、「ほう、何故に平気なのかね。甘い匂いを嗅いだのじゃろう?」と、突っ込んで来て焦った。
「魔法です」
「浄化の魔法が使えるのかね?」
「そんなところです」
「詳しく。浄化だけで、発症しなかった理由にはならんの」
「大丈夫です。私は健康です。ユリシスも」
「ほうほう、己の健康状態がわかるのかね。抱っこしている弟も」
喋れば喋るほど墓穴を掘らされた。
このお爺ちゃん、無害なサンタ顔して鬼畜である。幼気な少女から根掘り葉掘り……私のライフはもうゼロよ。
結局、カエル拾った話からマリアさんケミスさんに会ったことも語りました。
「お嬢ちゃんには、精霊に好かれとる以上の何かがあるのう。そうか、それでケミス夫妻に保護されとるのじゃな」
しゅごい……全部言い当てられた。こ、これが錬金術師……年の功かもしれないけど。
「エアリーちゃん、お昼ご飯を用意したから、いらっしゃいな」
マリアさん……! 呼んでくれてありがとう!
お腹も空いていたので、ご相伴にあずかることにした。
「あら、ラグバルドお爺様もいらしたのね。良かったら食べて行きませんか? 今日は魚料理よ」
「マリアちゃんに誘われたら断れんのう。お呼ばれしようか」
「うふふ、どうぞ。遠慮は無しですわよ」
ラグお爺ちゃんも一緒に行くことになった。
未だにラグお爺ちゃんとは挨拶もしてないのだが、私まで同席していいのだろうか。
マリアさんの方をチラッと見たら、「大丈夫よ」って瞳で見返してくれた。
「ラグバルドお爺様、こちらの愛らしいお嬢さんはエアリーちゃん。自らの弟のために、私と交渉した才女ですのよ。これから、商談しようと思っているところですの」
大丈夫じゃなかったーっ!
持ち上げすぎだよマリアっさーん!
「ほ~う。只者じゃないと思っておったがね。そうか、そうかね、才女かね。商談もな、是非、儂も交えてもらいたいのう。儂の名は、ラグバルド・ランゲレス・ケブルシュカ・テュヤーチャ・テデレホニス────(略)」
待ってー! 待って待って、長いよ! 寿限無じゃないんだからさあ!
「(略)────トーエンハイム・ベクトイアじゃ。長いから全部を覚えんでもええぞい」
そうするわ。何でそうなった?って思うだけだ。
「理由が知りたそうじゃな。ふっふっふ」
理由が語りそうだな。げんなり。
「んもう、ただ、移り住んだ国々で、その国の言葉で名前を付け足していったら、こうなったってだけでしょう。そんなに勿体ぶって話すことないじゃない」
「おあーマリアちゃんに言われてしまったわい。一応、肩書きとかも入っとるんじゃぞ?」
ああ、貴族の名前だと領地名やら入ると聞いたことがあるな。
多分、最後のトーエンハイム・ベクトイアが、領地名・家名かな。根拠ないけど。
お喋りしながらも、マリアさんについて行く。
二階への階段を上がり、ここにも商品がずらりと並んでいるが、更に奥、大きな扉は開け放たれ、渡り廊下が見えた。
渡り廊下だと思ったけど……これは橋? 歩道橋? 下は用水路らしく、それを渡るために屋根付きの橋を架けた、というのが成り立ちのような気がする。
開いた窓から見える景色の、上流は貴族街へ通じる水門が見え、下流には下町の洗濯場が見えた。
水路を行き来する小型の舟もあったり、ここを境に貧富の差を観察できるのが、なんとも風刺が効いている。
渡りきった先が個人宅らしく、用意された食事処では三歳くらいの男の子が、きちんと子供用椅子に座って待っていた。
「エアリーちゃんは、こちらに座りなさいな」
私にも子供用の椅子が用意されたが、おそらくこれは、そこのベビーベッドで寝返り打とうとして「う、だ、だっ、だー」とか猪木しているアウロくんのものだろう。
あとちょっとでお座りできそうだから、用意してあったのだろうね。
「お先にお借りします。パイセン」
猪木なアウロくんに断りを入れてから、子供椅子に座らせてもらう。
ラグお爺ちゃんは上座に着いたようだ。
私の真向かいがマリアさん。
ユリシスはベビー籠に入れて、私の横に用意された椅子の上に乗せた。
移動しても起きず、健やかに眠っている。
「マリアさん、一家の団欒に図々しくもお邪魔しちゃってすみません」
「あーら、気にしなくて良いのよ。主人も後で来ると思うわ。先に頂きましょう」
マリアさんも、ラグお爺ちゃんも、精霊に祈りの言葉を灯して、サラダから食べ始める。
なるほど。精霊信仰みたいなのが あるらしい。
ならば私も真似をして、合掌。
「精霊さんいつもありがとう」と言葉にした。
すると、一陣の風が吹き、『ボーナスポイントあげるから、早く呼んであげて』との声が。
マジすか。あ、魔法ポイント増えてなはる。一気にプラス100されて、182になった。
魔法一覧の文字も、主張するように激しく明滅。
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【精霊帝召喚】100
我を呼ぶがよい。今なら100ポイント。100ポイントで我を呼び出せるのだぞ。はよせい。
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説明なしで、この口調……。
見なかったことにした。私は何も見なかった聞かなかった。精霊の声ナニソレ?
私、権力に阿諛追従しない主義なんだ。
「あ、紹介するわ。うちの子、長男のレオノスよ」
マリアさんの声に耳を傾ける。こちらは聖母なので、聖母のお言葉は傾聴しなければならない。
「レオノス、お姉ちゃんに挨拶できる?」
「うー。レオはレオ」
せやな。レオくんや。
食べてる最中での、おかんの無茶ぶりに、よく応えれたなレオくん。偉いぞ。
「私はエアリーです。よろしくね。レオくんでいい?」
フォークを右手に握り締めながら、こちらをじっと見詰めてくるレオくんは、やがて、こくん、と。頷いてから、お魚ボールをつっつく。
私の前にも、お魚を磨り潰してボール状にし、焼いたものが置いてある。
レオくんと同じ、お子様メニューということだろう。
大人には白身魚のソテーだかポワレだか、なんかそんな洒落た名前でお品書きに書いてありそうな料理が並んでいる。
お魚ボール、一口頬ばればスパイスの香りが鼻に抜け、甘めのソースが魚肉の旨味を引き立て、お口いっぱいに美味しい味が広がる。
付け合せのサラダはコーンマヨっぽいものが真ん中にある。これに緑色の野菜を絡めれば、シャキシャキ歯触りが堪らない一品に。
スープもお魚の出汁が効いている。
パンは焼き立ての、あのパンだ。やはり温かいうちに食べると美味しかった。
食後は甘いジェラード。シャリシャリ氷のつぶが入っている。味はミルク味かな。
アイスを作る時に、水の精霊と風の精霊が手伝ってくれたとマリアさんが教えくれた。
ケミスさんは精霊に好かれているから、この家には多くの精霊が遊びに来るのだそう。へえ。




