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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第六章 奴隷市場
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6-6 一夜明けて

 狭い牢屋生活が始まって、順調に一日が経過した。

 体は低調ながら落ち着いている。風邪を引いただけでも体力切れでお陀仏してしまいそうな状態には回復できた。これ以上は正しい治療を受けるか、『吸血鬼化』スキルで生血をすする他ない。

 『吸血鬼化』は手っ取り早いものの、副作用の日光に弱くなる精神疾患は考えものだ。

 幸い、俺を売っている店は小規模なサーカスができそうなテントで出来ており、内部が薄暗いお陰で住み易くはある。一日二回、水と一口分のパンが無料で配られる点も優秀と言える。魔王連合と戦うという目的がなければ永住したいぐらいに快適だ。

 唯一、仮面の下から生える髭がわずらわしいか。


「そろそろ、一週間経ったが……電話かメールをするべきか?」


 『暗器』スキルで隠している実績達成携帯を取り出す。

 深夜になって店員の多くは姿を消しているが、警備員や他の奴隷がいる。液晶の光が漏れないように体を丸め、手の平で包みながら携帯を開いた。


「そういえば、進展ないな……魔界から人里に下りて来ただけ、だからな」


 今の所、俺から異世界の親友、紙屋優太郎かみやゆうたろうに質問したい事はない。

 生存報告をつぶやいても良いのだが、そんな贅沢な使い方はできない。手に持つ不思議な黒い携帯電話は、異世界の優太郎と通話可能であるものの、使用には制限がある。


==========

“『黒い携帯電話』、携帯業界の地位をスマートな奴に奪われつつある存在。


 通信は電話機能の場合、一回三分。メールの場合は送信または受信を一回と見なし、一通三百文字まで。

 通信回数は一週間で一回増えていく。”


“現在の通話可能回数:一回”

==========


 有能な男、優太郎にたうねたい事が無い訳でもない。

 前回のメールに書かれていた救援について、もう少し詳しく聞いておきたい気持ちはある。


『●救援を待て

 既に救援部隊が異世界そっちに向かっている

 彼女達は四色の魔法使いだ』


 だが、現在位置が不明なのは相変わらずだ。聞いた所で俺が有効活用できる状態ではないので保留にしておく。

 魔界から人里へと降りて来たので、まずは己がどこにいるのか調べてからが良いだろう。


「なら、緊急連絡用にストックしておこう。優太郎はヤキモキさせるだろうが」


 携帯を折り畳んで『暗器』で収納し直す。

 背中の傷がうずくので仰向けになる。どうも、やじりが体内に残っているみたいだ。手が届かないのでほじくり返せない。


「とりあえず外に出るべきだが……この仮面は目立つ。合法的に檻から出ないと逆に面倒だ。異世界人とは言葉が通じないし――」


 中腰が限界の牢屋から外を眺める。俺と同じ境遇の奴隷達は、静かに頭を抱えている。辛気臭い。



「――いっそ、誰か俺を買ってくれないものか。希望を言えば、男が良いな。男」



 願わくは、むさい男の金持ちに買われたいものである。男が良いのではなく、女が不味いのである。

 昼間、ブラウンアッシュの女に体を触れられた時などはかなり危うかった。生命の危機から脱出した事により、これまで自重していたバッドスキルが発動しようとしているのだ。

 『吊橋効果(極)』の制御もまだ出来ていないので、女といるよりも男の方が気楽だ。

 早く牢屋から外の世界へと飛び出し、バッドスキル対策のために金貨を稼ぎたい。

 ただ、こんな鳥の仮面がある限り、誰かから気に入られる事はない。売れ残らないか大いに心配だな。





 ナキナ国の勇者候補パーティは夜になってから合流した。

 安普請やすぶしんの宿屋。その一室に集まった年齢層の異なる三名は、お互いに本日の出来事を報告し合う。


「エルフの競売自体は止められなかった。ただ、グウマが調べ上げた購入者リストを兄上に送っておいた。たねも巻いた。後は、エルフ達の『運』次第だ」

「種? とは何ですか、若様??」

「若の機転だ。街で売っていた種をエルフに渡したのだ。植物を操れるエルフならば、発芽させて手錠の合鍵を作る器量持ちがいても可笑しくはない」

「たった一粒しか渡せなかった。余にできたのは、たったそれだけだ」


 若と呼ばれる少年を中央に、老人のグウマと女性のスズナが左右に並ぶ。彼等の定番配列だ。

 若と老人が担ったエルフ案件は、最低限の対処しかできなかった。

 ナキナ国とエルフの条約は密約であるため、奴隷商人にエルフだけを売ってはならない理由を告げる訳にはいかない。対応が中途半端になるのは目に見えていただろう。

 種一粒がエルフの一命を繋ぎとめると信じる他無い。


「スズナの方はどうだった。奴隷は売り出されていたのであろう?」


 沈んだ空気を入れ替えようと、少年がスズナに訊ねる。


「確かに売ってはいたのですが……質が悪く。いちおう報告致しますと、一人は盗賊シーフ職のレベル32。保有スキルは――」


 スズナはテント設営の店で見た奴隷のステータスを告げていく。彼女の記憶は確かであり、一目見ただけの個人情報をすらすらと口にする。

 ただ、スズナの口は奴隷三人の情報を言い終えたところで停止してしまう。本日、スズナは展示されていた四人の奴隷を拝見したはずであるのに、パーティの仲間と情報共有しようとしない。

 忘れた訳ではない。

 四人目は安いだけの粗悪品だったので、あえて語らなかっただけだ。


「――以上です。正直に申し上げて、奴隷は使い物になりません。その場で即時購入を控えました」

「慎重な判断、と言いたいが判断を誤ったぞ。スズナ」

「ん、グウマよ。余はスズナが間違っていないように思えるが?」

「若。我々は選り好みしている場合ではないのです、本日どの店を巡っても戦闘可能な奴隷が売り出されていなかった事から、何者かが大量購入していると見て間違いありません。スズナが見た三人も、既に売り切れている可能性もあります」


 グウマの指摘を受け、スズナは己の失態を挽回ばんかいしようとスタートダッシュを掛けていた。が、やはりグウマに指摘されて断念する。


「奴隷市場は無法に等しいが、営業時間だけは規則正しい。今から行っても店は開いていない」


 深夜に出向いても、腹黒い商人に足元を見られるだけだった。

 国の代表の割にふところが寒い三名は、売れ残りがいると願いつつ、明日は朝一で奴隷市場を訪れると方針を決める。


「申し訳ありません。この失態、私の一命をし――」

「スズナには余を勇者にする役目があるのだ。勝手に命を賭けてくれるな」


 明日に備えるために軽い夕食を摂った後、若は堅いベッドで就寝する。見張りであるグウマとスズナは交代で睡眠を取るのだろう。

 最初の見張りを買って出たスズナは、暗い部屋の狭い窓から奴隷市場の方角をうかがう。

 余裕など無い彼女等である。が、スズナは、あの薄気味悪い仮面の奴隷だけは買いたくないと願った。




 ナキナ勇者候補パーティは、昨晩話し合った通りテントの店を朝一で訪れた。

 テントの中央では、牢屋が三つ並んでいる。奇跡的な事に、盗賊職の奴隷三名はまだ売られていない。


「いつもお買い上げありがとうございまーす」


 いや、たった今売られようとしている。


「先の地下迷宮攻略は八層まで進みました。今後の道のりはより険しく、困難なものとなるでしょうが、勇者へといたるための試練なれば、立ち止まる事は許されません」


 プレートアーマーを着込んだ従者を四人引き連れる、神々しい気配を発する若い女が奴隷を左から順に指差している。


「さあ、奴隷に身をやつしても同じ人の子。人類の未来のために、この私と共に!」


 ウエーブの強い銀髪を持つ女が、あろう事か奴隷を勧誘していた。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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