4-2 パラメーターは上昇す
『吸血鬼化』により暴走してしまったが、悪い事ばかりではなかった。
無事にレベルアップを果たし、ついでに『経験値泥棒』スキルまで入手できたのは僥倖だろう。
もう少し安全性を求めるべきなのはさておき、今回のレベルアップは俺に重大な事実を教えてくれた。
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“●レベル:3”
“ステータス詳細
●力:3 ●守:2 ●速:3
●魔:0/0
●運:5”
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「……レベル2の頃と比べて『力』『守』『速』すべて1ずつ上昇している? 妙だな」
木を五メートルほど登って枝に腰掛けて、安全を確保した上で網膜の中のステータスに注目する。木登りできるモンスターや背の高いモンスターはいるだろうが、地上よりはマシだろう。
「記憶喪失の記憶が当てにならないだけかもしれないが……以前レベル3だった時よりもパラメーターが大きいぞ?」
ボア・サイクロプスを討伐した時にレベル3となった。
その次の日に『淫魔王の蜜』を抑制するためにレベルを1つ犠牲にした。
だから、レベル3は二度目の経験となる。
「記憶を失う前を合わせれば三度目かもしれないが」
ともかく、注目するべきはレベルアップで上昇したパラメーターだ。
すべてを正確に記憶していないが、『力』は2であったはず。前回よりも1多いのである。
「2も3も、誤差の範囲でしかないけれど……パラメーターの上昇値ってもしかして、ランダム?」
現実はゲームではないが、パラメーター上昇がランダムのゲームは珍しくない。
運が悪いとパラメーターがほとんど上昇しない悲劇が起こりえる。が、レベルアップ直前にセーブしておけば、最高のパラメーター上昇が得られるまでリトライを行い、キャラクターの成長を厳選できるのである。
「優太郎のメールにあった厳選は、まさにこの事か」
しつこいが現実はゲームではない。セーブからやり直しなんて妄想は捨て去るべきだ。
ただし俺に限っていえば、レベルアップのやり直しだけなら可能だ。『淫魔王の蜜』によるレベルダウンはデメリットとばかり考えていたが、パラメーターを厳選するやり込み派にとっては価値ある効果を持っていた。
魔界の底辺でフナムシのように生きている現状では本格的な厳選は難しい。
とはいえ、『淫魔王の蜜』はだいたい二日周期で発動する。0にならないようにレベルを保つつもりなので、試すぐらいはできるかもしれない。
「そうだな。手に入れた『経験値泥棒』と一緒に試してみるか。それに、パラメーターで気になっているのもあるし」
レベル3になっても一度も上昇しない『魔』について考える。
『魔』だけ分母分子が存在するので、消費するタイプのパラメーターなのだろう。そして、消費するパラメーターで魔が付くのは魔力だと推測される。……魔が差すとかだったらどうしよう。
せっかく異世界に来ているのだ。
楽しめる要素のないツマラナイ世界であるが、パンドラの箱のごとく希望はあるものだ。誰もが一度は夢見る力、魔法を覚える事ができるかもしれない。
「明日はがんばってみるか。良し!」
サバイバルな生活でも楽しみを見つけられた。
面の内側でほくそ笑み、今後のレベルアップに期待しつつ――。
「食い物探すか!」
――レベルアップなんて作業を後回しにして、差し迫る餓死を回避するために木を下りていく。
手付かずの魔界だけあって木の実や果物は数多く存在した。
もっとも、どれが食べられるのかさっぱり分からない。
捕獲したゴブリンに食わせて確認する荒業も考えたが、犬に玉ねぎを食べさせるのが厳禁であるように、種族が違えば毒となるものも異なる。現地の人間族が食べられる物であっても、たんぱく質の光学異性体とか何かで地球人には適さない可能性だってある。
考えていても腹が鳴り響くだけなので、思い切って枝から垂れ下がる紫色の実を手に取る。地球でいうところのあけびに似ており、グロテスクな中身に少し後悔した。
果汁を肌に付けて痒くならないか。
少しだけ舐めて、舌が痺れないか。
見よう見まねなサバイバル知識で色々試したが、結局、空腹に耐えかねて実を一つ食べてしまった。
「う……うっ……うめぇ」
この世界にも甘い物は存在したのか、と感動してしまい、もう一つ食べてしまう。
まともな食事にありつけ、幸せな気分に浸りながらその日は眠る事ができました。まる。
脂汗が全身から漏れ出る。
内蔵がよじれる痛みに耐えるため、呼吸が荒くなる。
深夜になって眩暈、痙攣、嘔吐、下痢と食中毒的な症状に襲われた。
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“スキルの封印が解除されました
スキル更新詳細
●スキュラ固有スキル『耐毒』”
“『耐毒』、毒物に対する耐性スキル。
あらゆる毒物に耐え、解毒剤なしに復帰可能”
“実績達成条件。
スキュラ職のDランクで自動取得”
“≪追記≫
スキュラという化物の第一歩が服毒であり、既に毒のステータス異常状態であるため、毒の上書き効果を無視できる。
スキュラであれば、このような追記そのものが無用であるが、本スキル所持者の取得方法が特殊であったため追記された”
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また、良く分からないスキルの封印が……ぁ……。
数日過ぎて、微弱ながら進展があった。
まずは『経験値泥棒』についてであるが、スキル発動条件である共同撃破の条件が分かってきた。
どこまでが共同撃破になるのかというと、俺のレベルでは敵わないモンスターに一撃加えて、地面に生えているため動けないトレントに始末させる、が最低ラインだ。
大前提として、最低でも一度は攻撃が必要となる。
また、攻撃加えた後で対象のモンスターの認識範囲外に逃れてしまうと逃亡扱いになり、共同撃破にならない。
よって、基本戦術は『暗躍』しながらモンスターを闇討ち。そのままトレントの所まで誘導する、となる。
直接モンスターを狩るよりもリスクは低く、経験値1のゴブリンを狩るよりは効率的なレベリングを行える。『経験値泥棒』のお陰で、多少は得られる経験値も上昇している。
楽な作業でなかったし、安全ではなかった。
獲物にしたモンスターに追い付かれたのが三回。
トレントに攻撃されたのが五回。
トレントに殺され掛けた回数の方が多く、必要がなければ絶対にお勧めはしない。
俺の場合、トレントというか植物系モンスターに恐怖をあまり感じないから実戦できたのだと思う。なんていうか、俺を一撃で殺せる程度の樹木に恐怖心を覚えないのだ。何でだろう。
こうして、レベルアップとレベルダウンを数度繰り返した結果が、次の通りである。
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“●レベル:4(New)”
“ステータス更新情報
●力:8(New)
●守:3(New)
●速:10(New)
●魔:1/1(New)
●運:5”
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「念願の『魔』が上昇したぞぉぉぉっ!」
かなりの高ビルドに成功して気分が高揚してしまう。モンスターを呼び寄せる可能性を無視して、山に向かって吠えた。
「……で、魔法ってどう使うんだ?」
ただし、『魔』を上昇させる事自体が目的であったため、『魔』の利用法については一切考えていなかったのが実情である。
「あー、こんな事になるなら聞いておけば良かったな……ん、誰にだ??」




