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風の国のお伽話(改稿版)  作者: 花時雨
第二章 揺れる運命

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第三十八話 恋文(四)

シュトルム様参る


拝復 お優しいお文をありがとうございます。

貴方様が綺麗とおっしゃったお月さま、今宵はそれより少し丸く輝いております。同じお月さまを貴方様も眺めておられると思うと、お目文字できぬこの日々も、少し心穏やかになります。


飛竜(リントヴルム)に乗ること、少し怖うございますが、貴方様の後ろであれば、喜んで乗らせていただきます。あの時のようにお背中に掴まり、この身を預けさせていただいてもよろしいですよね? 今日のような晴れた夜、他の誰にも知られずにお月さまや星々の中を飛ぶのも楽しいかも知れません。でも、飛竜は、夜目が利きましたでしょうかしら。


ああ、つまらぬことを書いてしまいました。私も軽薄な女と貴方様に思われないように気を付けないとなりません。


お学びのこと、興味深く読ませていただきました。

私などが口に出すのも畏れ多いことですが、国王陛下や大臣諸侯など、やんごとない方々の中で励んでおられるのですね。偉大な方々を前にして堂々と発言なさっている貴方様のお姿を思い浮かべると、とても輝かしく、少し遠く感じてしまいます。ですが、私も自分なりに少しでも輝けるように励みたいと思います。


楼のお客様の中には、貴族様もおられれば商人の方もおられます。宴席でお客様方や姐様がなさる座談には商品の取引や納税などの商業のお話や、農作物や織物、家具、工具など農業、工業などのお話が出ることもございます。それを聞いた時に理解できるよう、私も政のことを学ぼうと思います。そうすれば少しは貴方様に近付けるかも知れないと、これは良くない下心でしょうかしら。励みにするのであれば、貴方様も姐様もきっとお許しくださいますよね。


踊りのこと、お褒めくださりありがとうございます。あの時は、貴方様への感謝を込めて、心一杯踊らせていただきました。クルティス様のお言葉も嬉しうございましたが、貴方様が力強くおっしゃって下さった、素敵です、との一言が私には何よりのご褒美で、嬉しく、胸を熱くいたしました。

あの気持ち、忘れずに踊るようにしております。そうすると少し上手に踊れるような気がしますので。


それでも菖蒲にはなかなか敵いません。彼女の踊りは本当に水が流れるようで、朋輩ながら見惚れてしまいます。ですが、ただ見惚れていてるだけではいけませんので、良い所を見習うようにと思います。菖蒲とは競い合って、少しでも高みに上りたい、互いに互いを引き上げ合うようでありたいと思うのです。お目文字が叶った日にまたご覧いただけるようにというのももちろんですが、禿としての本来の修行であることも忘れずに。


私の亡きかか様の葵は踊りの名手だったと、椿姐様が教えてくださったことがございます。姐様は、元はかか様付きの禿だったそうです。それもあってか私にお目を掛けてくださいますが、それに甘えず励みます。


それもこれも、私もお目文字叶えばお話しさせていただきたいと、でも会えば胸一杯になった言葉が口から出てこないのではと、貴方様のお文と同じことを考えており、読ませていただいた時には、少し可笑しく、少し嬉しく、でもその日はまだまだ先と、少し哀しくなりました。ですがそのような思いに負けず、心を切り替えて明日からまた修行に打ち込みたいと思います。

貴方様もお励みくださると共に、どうかお体を壊されぬようにお気を付けください。


書き遅れましたが、柏は自分では、どの楼も強い用心棒を雇っている、俺など大したことはない、と言いますが、花園楼に留まらず花街の中で皆に頼りにされている様子です。

多分クルティス様がおっしゃる通り、心得があるのだと思います。管轄の衛兵詰所の主任とも親しいようです。どうやら亡きとと様の近くに仕えていた者同士のようなのですが、詳しくは語ろうといたしません。恐らく私を傷付けまいと、とと様の名を語らぬようなので、私も尋ねぬことにしております。今の私の家族は楼の皆ですので。


では改めまして、お体大切にお過ごしくださいませ。

お慕いする心を筆に込めて。

                                  かしこ

                                   菫女


-------------------------------------



 確認し終わった菫の手紙に封をしながら、椿は菖蒲にぼやいた。


「思いを確かめるも何も、既に熱々じゃないのよ、これ……。二人とも二言目には『好きだ、好きだ』って。私、これからもこんなのをずーっと読まなきゃならないの? 堪忍して欲しいわ。もういいわよ、勝手に会えばいいじゃない。この二人なら大丈夫よ。というか、どうにでもなってよ。放っときましょうよ。……でも、次の手紙、いつ来るかしらね」

「姐様、顔赤い」

「赤くもなるわよ。もうお腹一杯、胸一杯よ」

「自分は良い人いないのに、可哀そう。菫の恋文読んで、今、どんな気持ち?」 

「大きなお世話よ。金平糖を口の中に詰め込まれて、噛んで噛んで細かくなっても溶けも飲み込めもせず粉砂糖になって、むせた拍子に口と鼻からざらざらこぼれ出てくるような甘砂ーい気持ち」

「姐様、詩人」

「どこがよ」

「意味不明なところ」

「詩人の皆様に叱られるから止めなさい。菖蒲、こんなの菫一人で十分だからね? あんたは堪忍してよ?」

「えへへ」

「この子は本当にもう、わかってるんだか……」


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