全員一致!みんな一緒に!
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「ふぅ。サビまでには間に合いました」
曲も大詰めというところで、パンパンと手を叩き、ひと仕事終えたような顔でヨヒラは俺の元へやってきた。
「おおう。おかえりヨヒラ。流石だな」
俺がトリカに夢中になっている間に、いつの間にかヨヒラが勝利していたようだ。
ヨヒラの足元に、特殊なズタ袋に入れられてミノムシのようになっている始祖さんが転がっている。
袋の中から「うーうー」聞こえるので、無事ではあるようだ。
「怪我は……大丈夫そうだな」
「ええ。傷一つありません。おそらくですが――いえ、今はヨヒラ様の歌を楽しみましょう」
「そうだな。多分もうすぐサビだ。一緒に楽しもう!」
俺がヨヒラに向かって手を差し伸べると、自然とヨヒラは俺の意図を察し、手を繋いでくれた。
「生きた証を残そうー」
ハイトーンなトリカの歌声が地球全体に響き渡る。
「夜明けはもうすぐよ」
とても純粋で綺麗な声。心に美しく染みていく。
歌うトリカの瞳は宝石のようで――見ていると吸い込まれてしまいそうになる。
「わたしが太陽よ」
順番にろうそくの炎が灯っていくように――小さな炎がゆっくり燃え広がる。
そして、ここで音楽はドラムロールのように徐々に湧き上がっていく。
音が最高潮にまで盛り上がった瞬間――炎がふっと消えるように、全ての音が消えた。
この場には自分の心臓の音しか聞こえない。静寂が、これから訪れる大サビへの期待感を否応なく湧き上がらせる。
さあ、クライマックスだ。
張りつめた静寂の中で、視線が自然とトリカの背後の空へと吸い寄せられた。
灰色だった空は、もうどこにもない。
「叫べ!」
「「おーおーおー♪」」
俺とヨヒラは自然と歌にのってコールをしていた。
この歌は俺たちですら一度も聞いたことはない。それでも、音に乗れば自然と声に出る。
楽しい。楽しくて仕方がない!
ぷつんと、いくつもの何かが燃えていく音が聞こえる。
でも、そんなことは今はどうでもいい。魂のままに音楽を楽しもう!
「叫べ!!」
「「「おーおーおー♪」」」
俺たちにつられて、死んだように動かなかった人たちが起き上がってきて、声を上げた。
地球のみんなは一人、また一人と、ゆっくり立ち上がる。
「信じられない。理論上あり得ない」
ヨヒラの足元からなにか言っている声がした気がした。
「歌え!」
「「「「るーるーる♪」」」」
歌声は重なり、どんどん大きくなっていく。
もう死んだように動かない地球のみんなはいない。
そりゃそうだ。だってトリカは俺の前世にも歌を届けようとしたんだ。トリカの歌は死者にだって届く。システムダウンしたくらいじゃ、どうにもならない。
「歌え!!」
「「「「「るーるーる♪」」」」」
みんなで一体となり歌う。結び姫様たちも、地球に住むみんなも、みーんな笑顔だ。
ああ、幸せだなあ。みんなで歌い、みんなで笑い、みんなが精一杯全力で輝いている。みんなが幸せを噛み締め、瞳がキラキラ輝いている。
これが、生きるってことなんだ。
トリカを先頭に、みんなでついて行った。心が、魂が求めるままに。それだけで、こんなに幸せに満ちている。
この光景を見るために、トリカは歌いきったんだろう。
ありがとう、トリカ。きっと、これからの地球の人たちは、どんなことでも自らの意思で決め、足掻くだろう。
それから。
曲はゆっくり弱まっていき、この曲は静かに終わりを迎えた。
胸の奥に熱い熱だけが残っていた。
「みんなありがとう!これからもそうやって楽しく過ごしなさい!」
そう言い残すと、曲の終わりとともにトリカはふっと体の力を失い、意識を手放した。
俺とヨヒラは同時に動き、空中から落ちてくる彼女のもとへ駆け寄る。
そして、二人がかりでしっかりと受け止めた。
「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」
「歌姫は確かに太陽でしたよ。おやすみなさい」
すやすやと力なく眠るトリカを抱えながら、そっと艶のある長い紫の髪にキスをした。
…うん、その、空気が読めないのは分かってるんだ。でも、なんかさあ……
今からトリカをデロッデロに甘やかしたい。スイッチ入っちゃった。
端的に言うと、キス以上がしたい。
「ご主人様?」
「あっいや、ね。別になんでもないよ。魂が燃える感覚が『初めておっぱいを触った時の、甘く痺れる恍惚とした幸福感』と似てたからって、悶々となんかしてないよ」
「………」
ヨヒラさん、そんな蔑むような目で見ないで。俺が悪いのは分かってるからさ。なんか滾ってるんだよ。ごめんって。
気を取り直して…
――さあ、いつまでも余韻に浸っていたいが、そういうわけにも行かない。このライブを締めよう。
「今日はゲリラライブを見てくれてありがとうな!最高に楽しかったぜ!」
――うおおおおお!!!
「これでライブは終了だ!じゃ、これから後始末した後、偉い人にゆっくり怒られてくるよ。それじゃあ、またな!」
「大丈夫、君たちが怒られることなんてないよ」
立ち去ろうとする俺たちにそう声をかけてきたのは、ウツギと公園で絵本の読み聞かせをしていた時、子どもたちに混じって座っていたあの人だ。
相変わらず目の下には濃いクマがあり、やけに厚着をしたロリっ子風の見た目をしている。寒そうで、どこか不健康そう。
そして、彼女の隣には、なぜかとっても見覚えのある人物が片手で肩を組み、もう片方の手で酒瓶を持って笑っていた。
…なんでこの人、うちの母と仲良くなってるんだ?
「やはり、そうでしたか」
ヨヒラは彼女をひと目見たのち、足元の始祖さんを一瞥する。
「ヒノキー、僕たちもここにいるよ!」
さらに彼女の後ろから、俺に向かって手をブンブン振っている人もいる。
「おお!セリ!ウツギ!あとは……足元のズタ袋に入れられているのは誰だ?」
セリとウツギの足元にも、それぞれズタ袋があった。
「ああ、これは悪いことしようとしてたルリさんと、その夫よ」
「おお、ウツギはしっかりルリさんを止めてくれたのか」
「そうよ。ほんと、大変だったわ。ルリさんったらめちゃくちゃしようとしてるんだもの。はあ~」
ウツギはため息をこぼす。相当お疲れのようだ。
「で、えっとその前に……そう言えばあの時名前を聞いてなかった。なんと呼べばいいですか?」
俺はロリっ子風の女性に問いかけた。
「私のことは博士とでも呼んでくれ」
「分かりました、博士。俺たちに何か用ですか?今からナギさんにことの経緯を報告して、後始末と怒られに行くつもりだったんですけど…」
「いえいえ。皆さんを怒ることなどありませんよ。あいにく結び姫様たちも楽しんでいましたしね。と、色々説明する前に……HIRARI。戻って来なさい」
「はい、博士」
博士が手を叩くと、ズタ袋に入れられていた始祖さんがするりと縄抜けし、博士の元へ片膝を立てて座った。
…ん?
「やはり、あなたがトップではありませんでしたか。そんな気はしていました」
「ヨヒラ、どういうこと?」
「あの始祖は、確かにどのアンドロイドよりも優秀で、能力も申し分ありませんでした。ただ、戦った私には分かります。あの始祖に、トップとなる器はありません。そもそもリーダーができるように作られていないのでしょう」
「…もう少し詳しく」
「簡単に言えば、始祖はサポート能力に特化しています。それに、あの精神の不安定さではトップにはなれません。おそらく、あの博士が実質的なこの星のトップです」
その後も話を聞くと……始祖さんは巧妙に隠していたが、そこまで本気で戦っていないことにヨヒラはすぐ気がついたらしい。絶対に止めるというよりは、言われて渋々やってきて、力を試すような態度だったとのこと。
「…ほえー。そうだったんだ」
「…ふん。その通りよ。それでも後半は私も本気で戦ったわ!それなのに、なんで私より強いのよ!意味がわからないわ!ばーかばーか!」
「こら、HIRARI!失礼でしょ!」
「だって、アイツらが!博士は勇者様ばっかり贔屓して、私のことはどうでもいいの!」
「そんなわけないでしょ?ほら、こっちおいで」
「ごろにゃーん!」
始祖さんが博士にぎゅっと抱きつき、力の限り甘えまくっている。
…俺たちは何を見せられているんだろうか。
さっきまでいかにもミステリアスだった薄幸の美女が、この姿。あんまり唐突にキャラ変しないでいただきたい。なんかこう……なんとも言えない気持ちになるからさ。
てか、一応あの人表向きは地球のトップなんだよね?みんな見てるけど、いいの?
「要するに、この星の実質的なトップの私があなたたちを許すと言っているの。武力に頼らなかったことも、禁足地に何もしなかったことも、とても評価してる。それに、あのライブはかけ値なしに素晴らしかった」
「…でも、思考誘導かなんかの糸を燃やしちゃいましたよ?あれって大事なものだったんじゃありません?」
「確かにあれは大事なものだけど、それだってどっちでもよかった。誘導どおりに守られてくれるもよし、糸を燃やして運命を切り開いてくれるのもよし。あれはそういうものだからね」
「…なるほど。分からん」
「ま、詳しいことはこの後ゆっくり話しましょう」
「そうよ、息子!さあ、ここからが楽しい楽しい未知解明編よ!ねえ博士!」
「わはは!ヒイラさんはほんと面白い人だ!」
「そうでしょ!私だけじゃなく、ここのみんな自慢の娘たちなのよ!わはははは!」
この状況、分からないことだらけで頭が追いついていない。
それなのに……あの母の楽しそうな姿を見ていると、肩の力が思いっきり抜けた。
そんな母は、ものすごく軽いことを言うように、とんでもないことを言ってきた。
「あっ、そうだ。言い忘れてたけど、あのゲリラライブは全宇宙にライブ配信されていたわよ」
「…え?」
7章終了
最終章 未知解明編
次回予告:この裏で何が起こっていたのか




