革命当日!夜明けの始まり!
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――さて、これで十分程の時間稼ぎはできたかな。
実は俺が歌っている裏で、ヨヒラが密かに結構なことをしていた。
なに、ほんのちょっとした破壊工作みたいなものだ。それも全て次のラストの曲のための、下準備。
あとは二人のやることを見守りながら、全力で楽しもうか。
「みんな。俺の拙い歌を聞いてくれてありがとうな!」
俺のこんな歌でも、どこか満足してくれていたように見える。俺には愛を振りまくことくらいしかできていないが、ちょっとでも満ち足りたのならなによりだ。
「それにしても、俺の歌が終わった途端小雨がやんだな――おっと、トリカの準備がオッケーだってさ。じゃ、俺の出番は終わり。歌姫に交代するぞ。トリカー」
俺の呼びかけとともに、準備をしていたトリカがゆっくりと空中に現れる。
「待たせたわね。今日のゲリラライブはこれで最後よ。アンコールもないわ」
ざわざわとしていた空気が、トリカの登場によりしんと静まり返る。
「最後の歌には、今までのように演出がないわ。だって、わたくしが本気で歌だけに集中して、全ての力を出し切って歌うもの。歌った後、わたくしはぶっ倒れるはずよ」
地球のみんなから、ゴクリと息を呑む音が聞こえた。
それもそのはず、目の前のトリカの存在感がものすごいのだ。ペットたちを連れてはけていった俺も、溢れ出る闘志に圧倒されてしまっている。
みんな、一言たりとも逃すまいと耳を傾けている。
「歌う前に、ちょっとだけ話があるわ」
トリカの放つ言葉が、声が、今までと違う。
今までは体にスルッと入ってきていた音に、重さが加わった。熱が加わった。
ズシンと自らの核にまで届くような、そんな威力がある。
「あなたたちには、色々なしがらみがあるのでしょう」
地球の人の中には、膝を付く人すらいる。トリカの声を聞いているだけなのに、立っていられないといった様子だ。
その気持ちも少し分かる。だって、さっきから心臓が今までに感じたことがないくらい、大きく鼓動しながら、揺れているのだ。
「しがらみから解き放ってあげることもできるわ。わたくしとヨヒラの力を合わせれば、いとも容易く、容易にね」
トリカの青くて大きな目が輝く。唇がニンマリと弧を描く。
「でも、そんなことはしないわ。あなたたちがそのしがらみを大事にしていることも知っているもの。その気持ちを尊重するわ」
ゆっくり、身振り手振りを用いて、大げさに語りかける。
「ただね…」
トリカは空を自由に飛び回る。それはもう、楽しそうに、笑顔で。
「わたくしは妖精。可愛く神秘的で無邪気で、時に残酷」
「わたくしは女王。自由でわがままで強引で美しい」
「わたくしは歌姫。お茶目で最強に可愛い、宇宙を照らす太陽を目指す存在」
黒い雲がどんどん消えていく。雲から漏れた陽光が、トリカに向かって降り注ぐ。
「だからね、あがき方を無理やり、とっても強引に体に叩き込んじゃうわ。それくらいは良いでしょう?」
どうやら、今日の歌姫は天からも愛されているようだ。
トリカの背後に後光が差している。まるで、天然のスポットライトに照らされているみたいだ。
「今から歌うのは、悪魔の囁き。あなたたち自らがしがらみを壊したくなるような、魅力的で危険で後ろ暗い、甘い毒の歌」
みんな、トリカから目が離せない。誰も一歩たりとも動かない。
「これは全て、わたくしの自己満足よ。いらぬおせっかいと差し伸べた手を振り切ってもいい。わたくしの言葉に耳を塞いでもいいわ」
言葉とは裏腹に、トリカの闘志が目に見えてメラメラと空中を歪ませる。
「ふふっ、できるものならね――ヨヒラ!」
「承知しました」
ドゴーン――!
トリカの合図とともに、ヨヒラが“ある一点”の地面をぶん殴った。
地面が大きく揺れる。
この揺れ具合から、相当な威力で殴られたはずなのだが……不思議と地面はどこも壊れていない。
「ヨヒラにはヒノキが歌っている間に、ある五つの重要なポイントに今と同じことをしてもらったわ」
それはもう楽しそうに、トリカは悪魔のように笑う。
「それで何が起こるかと言うとね――ほら、見えてきたでしょう?」
俺はこれから何が起こるのか、何をしようとしているのか知っている。
昨日の作戦会議の時、ヨヒラはこう言っていた――
『私は私の野望のため、エネルギーの流れ、それの経由地点を一時的に麻痺させます。するとどうなるか。今まで隠されていたものが、一時的に可視化され、真実が見えることになるでしょう。そして、私の野望はそこから始まります』
…うん。ヨヒラやトリカが見えていたものが、ようやく俺にも見えてきたよ。
地球の住民たちもしっかり見えているはずだ。
「これが、あなたたちが大事にしている、太陽様による愛。思考誘導の糸よ」
地球のみんな全員の頭には、見えない糸が確かに繋がっていた。
頭部から伸びる糸は、物質に干渉せず、どこかある一点に向かっている。
そして、確かに糸からは愛の波動のようなものが感じられる。やはりあれはここのみんなを何かから守るためのものなのだろう。
ヨヒラやトリカ曰く、あれは地球のみんなの安全のためにほんのりと思考を誘導するためだけのものらしい。解放してもただ自由になるだけで、メリットなんてない。
ただし、糸が繋がっている間は「真に生きられない」と、トリカは確信している。
だから、トリカはあの糸からみんなを解放しようとしているのだ。
――緊急事態発生。緊急事態発生。直ちに家に戻って下さい。
地球全体に大きく警報が鳴り響く。
ただ…
「これを切れば、あなたたちは自由になる。解放される。作られた存在から、生きた存在となる。糸を可視化しちゃったから、今なら物理的に切ることは簡単なことよ。でも、あなたたちは優しいから、そうしないでしょう」
誰も動かない。動こうとしない。
「でもね」
いや、動けないのだ。
「魂を燃え上がらせなさい。今は灰のようになってしまったあなたたちの魂。それを再燃させるの。熱く熱く」
トリカの気持ちが伝播してくる。糸の思考誘導より強いトリカの感情が、魂を揺さぶってくる。
「そうすると、そんな糸なんて自然と燃えてしまうでしょうね」
優しすぎる地球のみんなの心を温かく、いや、熱く燃え上がらせて、トリカは今ここで本物の「太陽」になろうとしている。
「魂を燃え上がらせるのなんて、とっても簡単よ。心に素直になって、さらけ出すの。大きな声で叫んだり、全力で楽しんだり、大声で笑ったり――ほんのそれだけで、いとも容易く糸は燃えるわ」
トリカは簡単そうに言うが、それがそんなに簡単じゃないことくらい俺でも分かる。
それでも、トリカなら本当に簡単なのかもしれない。そう思わせてくれる。
「糸を切るようには誘導はしないわ。けどね。魂を燃やす誘惑は遠慮なくやっちゃうわ。ふふふっ、だってわたくしは、あなたたちに最高に楽しんで欲しいもの」
トリカの楽しそうな感情が俺たちみんなを犯す。
「自らの心に耳を傾けなさい。あなたたちは変わりたくて仕方がない。でも、優しさからそれを抑えて隠して過ごしてきた。今日それを解放する。簡単なことよ。ほら?ワクワクしてきたでしょ?」
理性が言うことを聞かない。楽しくて楽しくて、仕方がない。
「起きなさい!断言してあげる!あなた達は生きてるわ!たとえ作られた存在だろうが、わたくしから見ればなにも関係ない!」
今から起こることに、胸が踊って仕方がない!!
「さて、これでわたくしの話は終わりよ。これからどうするかはあなたたちの自由」
トリカはマイクを空中に全力で空に放った。くるくると弧を描くように宙を舞うマイク。
「でも、抵抗したって無駄よ。わたくしの全力の歌声は、魂にまで届く。あなたたちの死んでしまった前世の魂にだって、届く」
それはもう楽しそうに、悪魔的に笑う。
「さあ!わたくしを止められるものなら止めてみなさい!!!最後の曲は――」
ノールックでマイクをキャッチ。そして、満を持して曲名が発表された。
「【夜明け】」
重々しく、荘厳なイントロが流れ始めた。
その音に身を委ねるように、トリカは深く息を吸い、下を向いて歌い出しの準備をする。
――緊急事態発生。強制停止処置に入ります。
ほぼイントロが流れ始めたのと同時。警告の直後のこと。
地球の住民たち全員が、電源が切れたようにバタバタと倒れだしてしまった。
そして、大量に現れるセキュリティガーディアン。
(とうとうここのトップが強引な手段に出たのか?)
この状況に、内心少し震えた。
ちらりとトリカに視線を向ける。その大きく青い瞳の奥は、より一層闘志に燃えていた。こんな状況は予想済み。まるで関係ないとばかりにマイクを持つ手を離さない。
…まだ手はず通りやるのね。了解。
じゃ、俺とヨヒラはトリカが気持ちよく歌えるようにトリカのサポートでもしますかね。
「大丈夫ですよ。すでにセキュリティガーディアンには対処済みですので」
手をパンパンと叩くヨヒラ。
「…え?」
ボロボロと崩れ落ちていくセキュリティガーディアン。
…ん?
「あのー。ヨヒラさん……ちょっと強すぎない?俺の出番は?」
「ご主人様は大人しく守られていて下さい。それに、ようやく本命がやってくるみたいですし。ほら?」
「……ッ!」
俺の目の前に、突然ものすごい速い拳が飛んできた。
次回予告:生意気な若い子VS熟練の老兵!




